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松本山雅に出会った日 後編


2014Jリーグ ディビジョン2 第34節
松本山雅FC vs コンサドーレ札幌

松本山雅

GK 21 村山 智彦 
DF 3 田中 隼磨
DF 13 犬飼 智也
DF 4 飯田 真輝
DF 23 多々良 敦斗
MF 11 喜山 康平
MF 15 岩間 雄大
MF 8 岩上 祐三
MF 14 玉林 睦実
FW 10 船山 貴之
FW 20 山本 大貴

控え
GK 25 白井 裕人
DF 2 大久保 裕樹
MF 17 ユン ソンヨル
MF 27 飯尾 竜太朗
MF 34 椎名 伸志
FW 7 北井 佑季
FW 9 サビア

コンサドーレ札幌

GK 16 李 昊乗
DF 3 パウロン
DF 4 河合 竜二
DF 23 奈良 竜樹
MF 19 石井 謙伍
MF 10 宮澤 裕樹
MF 20 上里 一将
MF 14 上原 慎也
FW 11 前田 俊介
FW 32 中原 彰吾
FW 39 都倉 賢

控え
GK 1 金山 隼樹
DF 2 日高 拓磨
DF 5 薗田 淳
DF 33 上原 拓郎
MF 28 菊岡 拓朗
FW 7 榊 翔太
FW 34 工藤 光輝


サッカーの試合には始まり方が2つある。互角か、どちらかのチームが優勢かである。当たり前の話だ。そして、この試合は互角の立ち上がりであった。

と思ったのもつかの間、12分に札幌がコーナキックのチャンスに、FWの戸倉が飛び込んでいき、ヘディングで押し込んだ。あっけないほど簡単に札幌が先制することとなった。

松本 0 ー 1 札幌

先制点を切っ掛けに、札幌が主導権を握っていった。優勢になった札幌の攻撃は驚異的であった。特に、前線でボールを持った前田俊介選手が無双の活躍をしていた。

非常に個人的な話なのだが、昔サカつくというゲームをプレーしている時、我軍の主力が前田俊介選手であった。その時は、攻撃のタスクをすべてこなす化物級の選手にまで成長させた。

閑話休題。

前田俊介が一度ボールを収めると、松本の選手が3人がかりで取りに行っても決して奪われない。そして、次々とパスが展開されていく。松本も時折反撃に出るのだが決定的ではなく、防戦一方になっていった。

というのも、松本のサッカーは、お世辞にも上等なものとは言えなかった。ディフェンスは、精一杯頑張っているのだが、相手のオフェンスを全く封じられていない。

前田俊介以外にも、20番の上里一将、32番の中原彰吾や39番の都倉賢は、まるで羽根でも生えているかのように自由にピッチを駆け回っている。止める術がないのだ。個人の能力では相手の方が上であり、どうすることも出来ない。

松本の攻撃もいまいちで、優れたアイディアがあるようには見えない。大きなボールを前線に蹴っていくのだが、その多くは札幌のDFで身長192 cmのブラジル人パウロンがはじき返していた。

セットプレーから何度かチャンスは作ったのだが、流れの中での得点は難しそうだ。地力が違う。

そういった攻守の問題に加えて、単純なパスミスやクリアミスも目立つ。全体的に粗が目立った。ちょっと勝ち目がなさそうだ。

「松本山雅は弱いのではないか?」

生まれた疑念が確信へと変わっていく。調子がいいとか悪いじゃなくて、戦力が足りていない。でも、おかしな話だ。このチームが現在J2で2位なのである。逆に札幌は6位であった。1位の札幌と最下位の松本と言われても納得してしまうような試合内容であったのだ。

松本が押し込まれる展開が続く。

24分に好位置でFKのチャンスを与えた。

このボールをMF上里が直接ゴールにたたき込む。どう反応しても取りようがないような模範的なフリーキックであった。

松本 0 ー 2 札幌

これでスコアは0-2である。松本としては非常に厳しい展開となった。試合が始まって24分、為す術もなく2点を立て続けに決められてしまったのだ。

ぼくの周囲にいたサポーターもすっかり押し黙ってしまった。前のほうに座っていたおじさんは、「何だよぉ……、二失点かよ……」と力なく呟いた。

そんな時に、松本山雅のゴール裏から、試合前に歌っていたあのチャントが湧いてきた。

どんな時でも 
俺たちは 
ここにいる 

愛をこめて叫ぶ 
山雅が好きだから


胸を打たれた。気付くと、涙が溢れそうになっていた。なんでぼくが泣かなければいけないのだ。わけがわからないが、とにかく感動している。

「どんな時でも」

サポーターならわかる。どんな時でもという言葉は重い。非常に重い。どうでもよくなることもあるし、あんまりにも萎える出来事があって相手の応援をしたくなるようなことだってあるだろう。

そういった気持ちを封殺し、松本山雅への愛情へと向ける。これはコピーライティングの力と言ってもいいかもしれない。

どんな時でもここにいると一言でも口に出してしまったら、そのあと松本山雅を裏切ることなんて出来るだろうか。

2失点。気持ちが萎える瞬間である。サポーターも落ち込むが、選手も落ち込むだろう。負けを意識するだろうし、勝利が遠のく瞬間である。

ふざけんなよ、ちゃんとやれよ。こっちは金払ってんだぞ。

そんな声が漏れてもおかしくないタイミングだ。

週末の予定を潰して、お金を払って見に来ているのに0−2なのである。音楽のコンサートとか、講演会とか、プロレスとか、他の興業ではこんなことは許されない。ロックフェスなのに、チューニングも合わせていないギタリストが現れたら、金を返せと言ってもいい。

しかし、サッカーは競技である。勝つか負けるかはわからない。そして、長年やっていると負け試合が続くこともある。

そんな時、トピックに食いついただけの人はすぐに離れていってしまう。しかし、サポーターは「どんな時でもここにいる」のだ。そして、チームが上向きではない時にサポーターまで来なくなってしまったら、破滅が訪れる。観客からの入場料収入がなければ倶楽部運営は成り立たないのだ。

それは思想といってもいいかもしれない。サポーターとは、どんな時でもスタジアムに駆けつけるものだという言葉を、誰もが歌いたくなるようなメロディを口に出させることで、心に浸透させていく。

勝っているときはどうでもいい。好きにすればいい。どうやっても楽しいのだ。しかし、負けている時こそ、サポーターの腕の見せどころだろう。

サポートとは支えることだ。
支える必要があるのは、チームが倒れそうになっているからだ。

だからこそ、2店目を取られたタイミングでこの曲なのである。曲自体の情感もあるが、このタイミングでこの曲を歌うセンスにも感心してしまった。

どんな時でも 俺たちは ここにいる 
愛をこめて叫ぶ 山雅が好きだから

胸一杯の愛が込められたチャントは5分以上続いていた。その中で、一瞬落ち込んだスタジアムの空気が少しずつ熱を取り戻していった。

しかし、松本のサッカーは依然としていまいちであった。相変わらずの劣勢である。どうにもならない。実力が違いすぎる。

札幌はコーナーキックのチャンスで巨躯を誇るパウロンの頭にあわせた。ゴールの上に逸れはしたが、決定的なシュートであった。この展開から2点差をひっくり返せるとはどうしても思えない。

ノーチャンスだ。松本山雅は勝てない。

ハーフタイムを迎えた。

松本山雅にしてみると、何とか2点で凌いだという前半であったし、札幌からすると2点しか取れなかったという前半であった。

応援は確かに凄い。しかし、チームとしての力はいまいちだ。もうちょっとホームの松本に頑張ってもらわないと見応えのある試合とは言えないので、その点は残念だった。

小腹が空いたので、スタグルを仕入れに行くことにした。

歩いていると、突然話しかけられた。顔を見て驚いた。

J3に所属するSC相模原サポーターのヒガシさんであった。この日は奥様と共に「偵察」に来たとのことだ。すごいところで出会うものだ。

ヒガシさんと別れて少し歩くと、「中村さん、どうも」と、またもや話しかけられた。こちらの方は、ぼくの著書を読んでくれたので顔を知っていたようだ。

「実はぼくは長野パルセイロのサポーターなんですよ」

「えー!!」

長野パルセイロといえば、松本山雅とは地域リーグ(当時の4部より下のリーグ)の時代から戦ってきた宿命のライバルである。どうやら今日はこっそり視察に来たようだ。

後から調べたのだが、松本と長野は、明治維新後の廃藩置県の際には本来別の県になるはずだったらしい。しかし、松本にあった筑摩県の県庁が、火災によって焼失したことによって、筑摩県は県ごとなくなって長野県に統合された。

松本にあった庁舎に火をつけたのは長野のやつだ、と言う人もいるが、そのへんの事実関係は明らかになっていないようだ。

本来的には別の県になるくらい長野と松本は近くて遠い土地であった。そこを強引にくっつけたので、ややこしい摩擦が生まれることになった。

松本の人に「長野の人?」と聞くと「違います。松本です。」と強く返されるので、驚いたこともある人もいるかもしれない。昔に比べると目に見えた対立は減ってきたようだが、それでも対抗意識は強く存在しているようだ。

その対抗意識を背景に、長野パルセイロと松本山雅FCの試合は、異様な盛り上がりを見せるらしい。いつか自分の目で見てみたいものだ。

長野サポと別れる。そういえば、この日は生粋の広島サポーターのきのりさんも観戦に来ていると聞いていた。これだけ多くの「関係ない人」が集まってくるのだから、やはりアルウィンは特別なのだろう。

コンコースはやや狭く混雑していた。その中で比較的空いていたブースを見つけて、仙台発祥と銘打たれたタン塩の串焼きと、信州名物五平餅、そして山雅ビールを購入した。山雅ビールというのは緑色をしたビアカクテルだ。

座席に戻ろうと思ったが、あの狭い席で食べるのは嫌なので上の方の空いている席に座って隣の席にビールを置いた。

山雅ビールは、オレンジの皮から作った甘いリキュール、ブルーキュラソーが入っているらしい。だから、甘い味がするはずなのだが、ぼくの記憶ではほろ苦い味わいとなっている。

後から考えると、五平餅の甘辛のタレが効いていたせいで、ビールの苦みの方が強調されたのかもしれない。次はフラットな状態で飲むことにしよう。

それはそうと、五平餅が予想よりはるかに大きかった。

とても美味しいのだが、一人で二本も食べようと思うと、甘辛のタレが少しきつくなってくる。

口の中が甘くなってきたので、牛タン串を食べ始めた。こちらも、五平餅に負けず劣らず大きく、根性のある堅さをしていた。

怯まず力尽くで噛みつくと、程良い塩味にあふれ出す肉汁である。そして、ほんのりとレモンが香ってきた。

ぼくが2つめの五平餅相手に苦戦していた時、ピッチでは驚くべき事が起こっていた。

松本山雅は別のチームになっていた。

前半まで札幌の選手が自由自在にドリブルしていたのが嘘のようであった。札幌の選手がボールを持つと、すぐにディフェンダーが潰しに行く。さっきまで3人が囲んでも取れなかったのに、後半は潰せるようになっていたのだ。

何がどうなった。

札幌の選手にとって、後半は地獄のように思えたかもしれない。前半は簡単に出来ていたことがまったく通用しなくなっていた。ああ、そうか。そうだった。松本山雅には反町康治監督がいた。日本を代表する策師と言われている監督だ。

前半は一本調子に感じた攻撃が、見違えるほど生き生きしていた。

すっかり流れを引き寄せた松本山雅が押し寄せていく。

圧をかけていく。

勝者のサッカーである。

そして、リズムを乱した札幌がボールを失うと、船山貴之選手がミドルシュートを撃ち込んだ!!

ボールはGKの頭の上を超えて、ネットに突き刺さった。

1点を返した!!

ゴールが決まると、太鼓がトコトコ、トコトコ、トコトコと鳴り始めた。ゴール後の歓喜のチャントは、どのチームでもやることなのに、随分控えめな音だなと思ったのだが、それは合図であったらしい。

止まらねぇ 

俺たち松本

暴れろ荒れ狂え 

叫び 

歌え


なんだここは……。ここはどこなんだ!!
この世のものとは思えない。ぼくは本当に日本にいるのか。

その時、とっさに撮った動画が残っている。

どうしても音響面ではいまいちなものになってしまうが、その時の衝撃の50分の1くらいは伝わるかもしれない。この「行事」に参加しているのがわかるだろうか。

これは当たり前のことではない。こんなことが……。こんなものが日本で見られるなんて……。


ゴール裏のサポーターが、緑色のタオルマフラーを頭上でグルグルと振り回しながら歌い始めていた。それだけなら珍しいことではない。しかし、ゴール裏の隅から隅まで、見渡す限りすべての人が、みんなタオルをグルグル回している。

それだけではない。驚愕すべきことに、ゴール裏だけではなく、バックスタンドやメインスタンド、見渡す限り、あたり一面のサポーターがみな同じように、タオルを回していた。

松本サポーターの歓喜の歌声と、狂乱のダンスが、緑色のピッチを包み込んでいく。

とろけるほどの熱気の上を、アルプスの風が吹き抜けていく。

松本山雅の時間が始まった。

緑の勇者たちは、分厚い歓声を背に、猛然と押し寄せていく。

強い。とにかく、強い。

選手を全員入れ替えたといわれても疑うことはなかったはずだ。

攻め寄せる度に、観客の呼吸が聞こえてくる。シュートを外すたびに1万人の大きなため息が聞こえる。

そして、選手を支える大歓声とチャントが力強く響く。

アルウィンは、選手と観客、サッカーと人間が一つに溶け合った理想的な劇場であった。これこそがホームスタジアムだ。これは、人間が生み出せる最高の芸術の一つではないだろうか。

サッカーとは劇場なのだ。ディズニーランドと比べる人もいるし、それはそれで比較軸としては成立している。しかし、本質を外している。サッカーは劇場であり、「主演」になれる劇場なのだ。

サポーターは観客である。しかし、観客であると同時に、出演者であり、主演にすらなりえる。

松本山雅サポーターの圧倒的な熱がスタジアムを包む。

ぼくは自然と拳を握っていた。

札幌も、時折反撃に出るのだが単発に終わってしまう。前半は支配的であった前田俊介も目立たなくなっていた。

主導権は松本が握っている。いったいどうすればあれほどの劣勢を覆せるのか。能力では圧倒しているはずの札幌でも崩せなくった。しかし、札幌は非常に良いチームで、劣勢になっても混乱せず、耐えに耐え、細い糸を手繰り寄せるように時折訪れるチャンスをものにしようとしていた。

面白い。実に面白い。サッカーが面白い。
涙が出てくる。サッカーを見て泣けてくるというと、バカにされることもあるのだが、優れたサッカーの試合は涙なしには見れない。

監督の智謀のぶつかりあい、選手たちの骨がぶつかり合う音、気迫、そして両チームを支えるサポーターの熱気。これ以上のものがこの世にあるとはぼくは思わない。

サッカーはゲームである。しかし、同時にゲームではない。芸術である。監督が作り上げる芸術作品であるという人もいるが、それは一面に過ぎない。多数の人が、それぞれの思惑を持ち、試合に望む。そしてその気持ちが2つの塊へと収斂し、ぶつかり合う。

だからこその芸術なのだ。

試合の展開に戻る。主導権を取り戻した松本山雅であったが、なかなか追加点が取れず、スコアは1−2のままである。このままでは札幌に逃げ切られてしまう。

最後には、ゴール前へとロングボールを放り込んで、一発逆転を狙う。しかし、札幌の屈強なDFパウロがすべて弾き返す。何もかもを弾き返していく。

そして、試合終了の笛が吹かれた。

松本山雅の敗北である。しかし、ピッチの上に倒れこんで立てなくなったのは札幌の選手であった。よほど厳しい展開であったのだろう。

拍手を送った。両チームに心よりの拍手を送った。そして、しばらく呆けてしまった。

しばらく呆然としていたらしい。気付くと観客はほとんど席を立っていた。アルウィンは、先ほどまでの熱気を失っていた。



透き通るような青い空と、遠くから見下ろす山々、吹き抜ける風は変わらないが、観客席は空っぽになった。唯一ゴール裏のサポーターだけが、横断幕を撤去するなど、セカセカと働いていた。

サッカーにはテレビ観戦派と現地観戦派がいる。どっちがいいのかという論争になることもある。その論争はまったくもってクレイジーなものだ。

音楽ライブを論じる時に、音源派とライブ派に分ける必要があるだろうか。音楽ライブが好きな人は、ライブが絶対的に好きで、その派生として音源を聞いている。

どれだけ音源が良かったとしても、音楽ライブに行く必要がないという話にはならない。

論じるだけ無駄だ。スタジアムに来て良い試合を当てて、その時の熱気を感じれば、それだけですべては解決する。

サッカーはサッカーであってサッカーではない。これは人間が生み出す熱気であり、まさしく芸術なのだ。




そういえば、広島サポーターのきのりさんが来ているようなので、連絡をしてみた。コンコースで落ち合うと、開口一番。

「カレーの全部乗せ食べましたよ。流石に量が多いですね。」

アルウィンの定番メニューのようだ。気にはなったが、それよりも聞きたいことがあった。きのりさんはJリーグ開幕以来の生粋の広島サポーターで、酸いも甘いもみんな味わってきている。

そのきのりさんには、アルウィンはどう感じられたのだろうか。試合の感想を聞くと、きのりさんは斜め上のほうを向いて、遠い目をした。

「凄かったですね。後半に、松本が一点取り返したところで、泣きました」

ぼくと同じ感想だ。あの時、アルウィンの雰囲気は尋常ではなかった。人の心を動かす何かがあるのだろう。

「広島にも来て下さいね。」

きのりさんがそう言ったとき、自転車が通りかかった。サドルの上には、頭の大きな鳥類が座っていた。

マスコットのガンズくんであった。ガンズくんの特徴は、頭が大きく、首がないことだ。ライチョウのはずなのだが、フクロウのようなフォルムをしている。

何で自転車に乗っているのだろうかと思って近づいてみると、走って追いついてきた背広のスタッフに「近寄らないでください!」と注意された。

これは、何だろう……。

意味もわからずガンズ君を見送り、きのりさんと別れた。スタジアムを出て、シャトルバス乗り場へと向かう。

バスを待つ長い行列の一番後ろに並ぶ。列整理のおじさんに何分くらい待つのかと尋ねると、2,30分ではないかと教えてくれた。おじさんが話しかけてきた。

「今日の試合はどうだった?勝ったの?」

残念ながら松本山雅が負けてしまったことを伝える。

「途中でサビアの曲が聞こえたから、出たのかなと思ったんだけど。サビアは活躍した?」

サビアは途中出場したブラジル人で、特に活躍はしなかったが、チャントは確かに面白かった。氷川きよしが歌うド演歌のメロディなのである。

すぐ後ろに並んでいた青年も会話に入ってきたので、バスに乗り込む間ずっと二人で雑談していた。彼は、松本にある大学に通っているらしい。松本山雅を見始めて1年だったか2年だったか忘れてしまったが、それほど観戦歴が長いわけではないとのことであった。

どうやら大学では、観戦グループのようなものが出来ていて、仲間と一緒に見に行ったり、後で試合について語り合ったりするようだ。グループには学生だけではなく、教員も入っていて「社会的垣根」を跳び越えて交流しているらしい。

松本では、サッカーが社会的なインフラとして機能している。残念ながら東京ではそうはいかない。

ホテルに到着し、しばし羽根を休める。

泥のように酔った翌日の強行軍だったため、少し疲れが出たらしい。今日はもう用事もないので、ホテルでアジア大会に出場しているU-23の代表戦を見ることにした。

前半を見終わった頃、電話がかかってきた。

着信音は出さない設定にしているのだが、たまたま画面を見ていたので気付いたのだ。チケットを譲ってくれた松本山雅サポーターの男性から、夜の予定を入れていないようなら一緒に飲まないかというお誘いだった。

試合の途中ではあったが、せっかくだから飲みに行くことにしよう。

男性は、居酒屋「まるちゃん」という焼き鳥屋に電話してくれたのだが、お休みのようだった。長野パルセイロとのダービーを描いた映画『クラシコ』にも登場するお店なのだが、名物店主の気分によって開いたり、閉まったりするとのことだ。負け試合の後だからやる気が出なかったのかもしれない。

飲み屋を求めて松本の市街を歩く。街中に、松本山雅FCの緑色の旗があふれている。町中が、地元のクラブを歓迎していることが感じられた。とても羨ましい、とても幸せな光景である。

結局、信州酒場「雷電」というお店に入った。座敷に座り込む。男性は寡黙なタイプで、ぼくもぼくで疲れていたのであまり饒舌ではなかった。向き合って静かにメニューをめくった。

ぼくは山雅ビールを注文することにした。ビールを待つ間、名刺を交換した。頂いた名刺を拝見した後、思わず声を出して驚いてしまった。

ULTLAS MATSUMOTO(ウルトラスマツモト) 総務と書かれていた

ウルトラスというのは、サポーターの中心をまとめるグループを指すことが多い。ということは、目の前に座っている人は、「あの応援」を作り上げてきた立場にあるのではないだろうか。

そのへんのおじさんサポーターじゃなかったのか!!

続く…

のだが…

その後は、まるやまさんと二人で語り明かしたり、翌日松本城に登ったり、どんぐりで食事をしたり、松本駅のスターバックスでねこさんと話したりしたのだが、このあたりは、続きとして無料公開するか、あるいは有料コンテンツにするのか決め兼ねている。

あるいは公開しないで思い出としてしまっておくかもしれない。

とりあえず、松本に到着する前に、ずっと塩漬けになっていた文章を公開することが出来た。

まるで台本でもあるかのようにちょうど作業が終わる。

松本駅に到着。

明日のアルウィンはどんな表情を見せてくれるだろうか。ピッチサイドから観戦するのでとても楽しみだ。


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