大白沢の滝を見ろ!
最初に断っておくが、このタイトルは別にみなさんにおすすめしているわけではない。むしろやめたほうがいい。
きっかけ
先日鮭もかくやという勢いで川をじゃぶじゃぶと遡ってきた。マイナーすぎる滝を見るために。
なぜそんな酔狂なことをしたのかというと、最近よく見ているYouTuberグループがそこに行っていたからだ。いわゆる聖地巡礼というやつ。
…またYouTuberグループとか言って誤魔化そうとしている。なぜ妙な見栄を張ってしまうのか。
はい、私はろふまおのファンです…。
ろふまおというのはVtuberグループにじさんじのユニットの1つで、Youtubeでは「かっこいい大人を目指す」という名目で様々な企画に挑戦している。体を張る系の企画が多く、無人島とか農業とかなかなか無茶なことをやらされてきた。
最初はあまり盛り上がってなさそうな企画もあって、正直見ててむずむずしていたのだが、初期の彼らの微妙な距離感が、動画が上がるたびにどんどん近づいていることを感じられて、そこが結構好きだ。
また別の実況グループの名前を出すと、ナポリの男たちみたいな。ちょっと違うか。
その仲良くなる大きなきっかけの1つとなったのが、このライブ直後に連れ去られたサイコロ旅だと思う。
2チームに別れて、青森と鳥取からそれぞれサイコロで行き先を決めながら東京を目指す、というもの。私は元ネタであろう水どうが好きなので毎回楽しく見ていた。
その中でミッションがいくつか出されるのだが、それで東日本チームが連行されたのが大白沢の滝である。このnoteのタイトルはそのミッションから取っている。
今見返したら上り始めて1時間30分とか言ってるな。それが5分以内に収まってるんだから、編集って恐ろしい。
そのカットされた部分の大変さがずっと気になっていたのだが、そもそも岩手に行く機会がなかった。
ところが突然弘前に行く用事が生えて、しかも帰りの時間はかなり自由。せっかく盛岡を通るのだから、新幹線を途中下車して寄ってみるのもいいか、と思った。思ってしまった。
実際に行ってみた
弘前〜矢巾温泉
まず恐ろしいことに、日曜日なのにも関わらずインターンの面接が入っていた。日本の闇だ。
仕方ないので宿をチェックアウトしてすぐに弘前駅のSTATION WORKで受けた。STATION WORKを使うのは初めてだったが、ディスプレイもついていて結構よかった。シャツはシアーシャツしかなかったのでそれをボタンを閉めて着てみた。オンラインだからバレていないと信じたい。
面接が終わって11:00、そこからお土産を軽く買って、新青森までローカル線で移動し、新幹線を盛岡で途中下車した。この時点で13:30。東北って広すぎる。
ロッカーにスーツケースを預けたかったのだが、盛岡の大きいロッカーはほぼ埋まっていた。そんな…。
スーツケースを引いて滝まで行くのは無謀だ。ただ、駅の反対側まで探しに行くには、今日はもうあと一本しかない行きのバスの時間が迫っていた。
そう、盛岡から滝に行くバスは、1日2~3本しかない。このバスを逃せばもう終わりだ。帰りもまた然りである。
なんとかなれ〜!という気持ちでスーツケースを持ったままバスに乗り込む。もしかしたら、バスの終点である矢巾温泉駅も大きい駅で、ロッカーがあるかもしれない。地図を見る限り、温泉とは…?という感じのかなり小さい町で、そんな可能性はほぼ0に等しそうだったが、一縷の望みをかけてみることにした。
そこから1時間ほどバスに揺られる。地元の人が乗っては降りていき、最後の7駅くらいは私1人だった。
あまりにも人がいないので、やっぱり温泉って嘘なんじゃないか、と思い始める。きっと帰りのバスがなくなって、1人山奥に残された人の幻覚なんだ。砂漠のオアシスを蜃気楼で夢見てしまうかのように。そしてそれは私の2時間後の姿かもしれない。
終点に着いて山の入り口みたいなところで降ろされると、ポツンと「歓迎 矢巾温泉ヘルスセンター」と書かれた看板があった。
どうやら温泉は嘘ではないらしく、ヘルスセンターらしき施設の前には地元ナンバーの車が数台停まっていた。地元の人用の公衆浴場に近い位置づけなのかもしれない。疑ってすみません。
1000円とかでも全然払うからこのスーツケースを預かってくれないかな、と思い立ち、「後でまた温泉に入りに来るのですが、その前に滝を見たいので、受付の隅にでもこのスーツケースを預かってくれたりはしませんか」とヘルスセンターの受付の方に交渉してみると、快く預かってくれた。
なんなら急な雨で濡れていたスーツケースを拭いてもらってしまった。明らかな部外者かつ滝を見たいと宣う不審者にも優しくしてくださり、ありがとうございます。
矢巾温泉〜滝
そうして身軽になれた私は、GoogleMapを頼りにズンズンと山の奥へ進んでいく。温泉に入ることを考えると、あまり帰りのバスまで時間はない。
直前に雨が降っていたため、道が死ぬほどぬかるんでいて最悪だった。かなり深いぬかるみ、あるいは泥の水たまりを避けて通れないところが2ヶ所以上あって、足が泥まみれになって萎えた。萎えるのが早すぎる。
道中、川に飛び込んでいたのか、地元の中学生男子らしき数人が服を絞っているところに遭遇して気まずかった。この先なんもないけど、サンダルで何しに行くんだろうこの人、みたいな目を向けられた。怪しいものではないんです。
彼らがわざわざ飛び込むってことは、冷たくて気持ちいい川なんだろう。早く足の泥を流したくてたまらなかった。
ところがそこからも結構歩いた。道案内を放棄し、ワープを示唆し始めたGoogleMapはもう役に立たず、分かれ道では川に近そうな方の道をひたすら選んで歩く。不安だ。
足の泥が乾きかけてきたとき、鬱蒼とした視界がパッと開け、川に突き当たった。
水はとても澄んでいて、流れも穏やかに見える。
川のそばには「秋津神社の湧水」と書かれた看板が立ち、確かに川とは別で岩の隙間から水が湧いていた。
味が気になって飲みかけたが、水に対する知識がないのですんでのところで我慢する。でも湧き水というからには多分飲めるんだろう。この後全般にも言えることだが、もっとちゃんと調べてから来るべきだった。
お賽銭を入れる箱もあったので、無事を願ってお祈りしておく。
川に無事着けたので、あとはこの川をひたすら上ればいいんだろう。ほかに道はない。多分。ちゃんと調べてないから知らないけど…。
足を付けてみる。ひんやりした水はとても気持ちよかった。
水流に逆らってじゃぶじゃぶと足を進めていると、少しずつだが水の勢いが強くなってきた。
あと周囲の木々が増えたせいか虫も多い。岩や木のそこかしこに立派な蜘蛛の巣がたくさん張ってあるのは、最近人が通っていないからだろう。慎重に先を見極めつつ、小声で謝りながら蜘蛛の巣の一部分だけ壊して潜り抜けていたがキリがない。日光で見づらいのもあって、途中からは気づかずに通ってどんどん壊してしまっていた。この川の蜘蛛にはさぞ恨まれたことだと思う。侵略してごめんね。
10分ほど上ると、急にふくらはぎの中ほどまで水嵩が増えた。川の勢いはないし慎重に歩いているので流されることはなかったが、スカートの裾がびっちゃびちゃになった。
そう、何を隠そう、私はどうせ浅いだろうと高をくくり、デニムのタイトスカートで挑んでいたのだ。あほ過ぎる。
そのときの私の服装といえば、Tシャツの上にシアーシャツ一枚、デニムのスカート、足元は前述のようにサンダル、かばんもリュックではなくトートバッグである。私の私服の中では無計画のわりに意外と動きやすい服装だったのだが、沢登りを趣味とする人がいたら卒倒するかもしれない。
すみません。こんながっつり川を上ることになるとはつゆ知らず…。GoogleMapにも全然情報がなかったんです。
もうスカートはあきらめて、いつの間にか増えていた大きめの石や大木などの障害物を乗り越えて進む。まだ汚れが目立たないデニム素材でよかった。
途中、倒木を潜り抜けたらちっちゃい滝みたいな高低差があって詰みかけ(上のツイート……いや、X'sの動画参照)、もうここがゴールってことにならないかなと思った。
よく見たら端にもう少しマシそうなルートが取れそうだったのでなんとか詰みは回避できた。そちらも木を乗り越えて岩に登る必要があるものの、水がないので難易度は若干下がる。苔でぬめっとする木を掴みながらもなんとか上に這い上がった。
するとゴールの滝がついに見えてきた。あとは歩くだけだ。
一心不乱に歩を進めると、徐々に滝音が近づいてくる。ついに到着した。
感慨深い。かれこれ20分は川を遡っていたことになる。
元動画のシーンと同じ構図で写真を撮った。
こうして並べてみると、本当に同じ滝だということを実感する。彼らも同じ苦労をしてここまで来ていたのかと思いを馳せながら、しばし滝を眺めてぼーっとした。
30分以上歩き続けて、前髪がすっかり額に張り付くほどに汗をかいてしまっていたが、滝からの冷気を感じて気持ちよかった。
ただ、20分川を上ってきたということは、大体同程度の時間をかけて川を下って、さらにそこから温泉まで戻らなければならないのだ。
帰りのバスは1本だけ。それまでにスーツケースを回収しなきゃだし、できれば温泉に入ってすっきりしたい。急げ!
滝〜矢巾温泉
休むのもつかの間、来た道、いや来た川を辿る。
帰りは水流に逆らわなくていい分、ちょっと楽だ。ただ岩も木も苔でヌメっていて、結構高低差があるので、登ってきた岩を降りるときばかりは少し肝が冷えた。
川の流れがとうとう緩やかになって、元の湧き水のところまで帰ってこれた。
またお賽銭箱に、無事に川を行って戻ってこれたことへのお礼と、ちゃんとバスにも新幹線にも乗れて我が家に帰れますようにというお願いをしておく。
ハイパー・ぬかるみ・ロードを再び歩いて、ヘルスセンターに戻ってきた。せっかく洗い流したサンダルが泥だらけに戻る。
受付の方に荷物を預かっていただいたことへのお礼を言った後、入浴チケットを買った。大人500円。安いね。クレカもPayPayも対応しているので安心だ。
私の多毛すぎる髪を乾かす時間はないので、体と顔だけ洗った。それだけでもかなりさっぱりする。
肝心の温泉はというと、ちょっと熱めだが癖のない泉質で気持ちいい。
小規模のスーパー銭湯みたいな見た目——よく言えばあまり気取ってなくて、悪く言えばしょぼめ——なのも、かえって落ち着けた。
川上りで普段しない体勢ばかりとってしまったせいで変に凝った体をほぐして一息つく。これが500円なのはいいなあ。地元の方達が羨ましい。
のんびりしているうちに、いつの間にか浴槽には私1人が残されていた。私もあまり長くは浸かっていられないので、急いで風呂を出て髪を乾かす。生き返る〜。汗やら川の水やらでびしょびしょだったから本当に快適だ。
この施設には食堂もついていて、かなり手作り感のあるおにぎりが売っていたので買ってみた。デカいおにぎりでいいね。
もう一度受付の方にお礼を言ってヘルスセンターを後にする。バスが来るまでにはまだ余裕がありそうだ。よかった。これで滝を彷徨う亡霊にならなくて済む。
あの滝の亡霊になったところで、そもそも誰もこないから見つけてもらえなくてホラーにもならないだろうな。誰か来たらめっちゃ喜んで歓迎しちゃうと思う。それは怖いか。
暇なので、持っていたペットボトルの水でサンダルの泥を洗い流そうとしたら、サンダルのヒールが途轍もないダメージを受けていることに気がついた。決して川上りのためではなく、普段着用に買ったので、当たり前と言えば当たり前である。
自分が怪我することは考えても、なぜか靴がボロボロになるかもということには思い至らなかった。先月買ったばかりなのに短い命だった。この子には500円引きチケットになってもらおう。
矢巾温泉〜盛岡
バスで盛岡に戻る。プールの後みたいな、心地いいだるさと疲労感に襲われて、道中のほとんどを眠ってしまった。私の身体的には水に入った判定だったんだろうか。
盛岡駅についてすぐに新幹線に乗ってもよかったのだが、お腹が空いたので駅近くにあった適当な冷麺の店に入る。
冷麺専門店だと思っていたが、焼肉屋でもあるらしく、夕飯時だったのもあって地元の客はみんなそちらを食べていた。スーツケースを持っているのは私だけで、観光客丸出しで冷麺を食べた。
なぜかスイカが載っていた。それもガッツリ一切れ。これは本場のデフォルトなのか、この店のアイデンティティなのか、他を食べていないので定かではないが、美味しかった。辛さも選べるので、辛いのが苦手な人も得意な人も食べれるはずだ。
食べ終わって、そろそろ帰るか〜と思って新幹線を取ろうとしたら、なんと2時間先の便まで満席だった。嘘!!!
確かに日曜日だけど、ここまで埋まっているとは思ってもみなかった。しかも東北新幹線には自由席がない。舐め過ぎなのかも、社会を…。
冷麺を食べている場合じゃなかった。せめて食べ始める前に取ればちょっと時短できたのに。
この時間からちょっと観光できる場所はないし、いっそもう泊まっちゃおうかな、とヤケになっていると、奇跡的にキャンセルが出たのか一本後の便の席が取れた。ヤケにならなくてよかった。投げ出さないこと 投げ出さないこと 投げ出さないこと 投げ出さないこと♪
帰りの新幹線は確かに全席埋まっていて、サラリーマンに挟まれながら乗った。みんな出張だったのかな。お疲れ様です。
そうしてなんとか家にたどり着き、私の小さい冒険は無事終わった。
ほぼ新品のサンダルは犠牲になったが、自然に触れるのは楽しかったのでまた何かトライしたい。今度はちゃんと下調べしよう。みなさんも気をつけてね。
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