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本当はモテたくてたまらない。モテなくても別にいいし、そのつもりでありながら一定以上の好意は抱かれたことがあるよという風体でフラフラしているのだが、本当は本当にモテたい。男にも女にもモテたい。好きな人からモテたいし、好きじゃない人にも一度好意を抱かれた上でそれを少し無下にしつつも最終的には寄り添って相思相愛になりたい。どうでもいい人にはもちろんモテたいし、尊敬してる人からは依存されたい。一人じゃ抱えきれないほどの愛を持て余してみたい。街を歩いている時に、すれ違った女の人の「今日の良かったこと」になってみたい。どっかの小学生の忘れられない一日になってみたい。ああ、愛されたい。自分がみんなの最小公倍数でありたい。少しずつ、少しずつ自分を小出しに、小分けで小売りで場に出していく。ターンエンドすることはない。マナは最小限に抑え、常にデッキには切り札を匂わせる。面白くて楽しいことを言えたら、あとは黙り込む。そうして発言の母数を減らしていき、約分したときに1に近づくように努力する。無駄な努力だ。そんなことをしなくても、もしくはしていても、周りは聡い。きっととっくに自分の悪癖を見抜いた上で自分の弱さも気持ち悪さも、そして良いところも全部見抜いて友達でいてくれているのだ。そんな彼らに、好かれていたい。
でも、本当は嫌われたくてたまらない。大切な友人を傷つけて、どこまで自分を信じてくれるのか試したい。くだらない人間とはかかずりあいたくないし、くだらなくない人間は恐ろしい。恐ろしいものと対処する気力は持ち合わせていないし、どうせなら嫌われれば楽だ。家から出なければもっと楽だ。一人で生きていきたいのに、周りは自分を必要以上な何者かだと勘違いして話しかける。嫌いだ。近づかないで欲しい。

これは矛盾じゃない。これは感情だ。
誰もが持ち合わせる感覚だ。右に左に引っ張られながら、目の前に人間と喋っているときだけ、正立した状態のフリをして目を見る。世の中に出回っている何万という出版物が幾度この感情をこねくり回したことだろうか。7割の好かれたい感情と3割の嫌われたい感情で世界は回る。あなたは、これをくだらないと思うだろうか。くだらないという3割の感情は何かを回しているのだろうか。きっと7割の「くだらなくない」が何かを見つけて来る間に、「くだらない」が既存の何かを壊して、すり潰して、引きずって粉にしてしまうんだ。そうして出来た居場所にくだらなくないものが新しくすぽっとはまる。そうして世界は回っていく。
世界は7:3でできている。
綺麗なものが7個あれば、綺麗じゃないものが3個ある。汚いものが7個あれば、汚くないものが3個ある。綺麗なものと汚いものが同時に7個ずつあることは矛盾じゃない。それは感情であり感覚だ。割りきれないものが同時に存在し、でも必ず「じゃないもの」が3個ある。
これが美しさの秘訣。基本。秘密。この割合で生きていけばいい。決して自己矛盾とかなんて思ってはいけない。悩んだり苦しまなくて大丈夫。なぜならそれこそが最高で最適な割合だから。
あぁモテたい。モテたい、モテたい、モテたくない。
ね?

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