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2021/05/31 Out, out,brief candle!

Out, out,brief candle! (消えろ! 消えろ! つかの間のともしび!)

ここ数年、シェイクスピアを学び直している。ある講座で、『マクベス』の名台詞の意味を勉強した。王殺しを煽った自責の念から夫人が自死した悲報を知らされたマクベスの台詞で、"To-morrow, and to-morrow. and to-morrow"が特に有名なので、Tomorrow Speech と呼ばれている。

多層の意味や暗喩を含む英語の台詞を和訳するのは難しく、歴代の翻訳家たちが知恵を絞ってきた。その中で、冒頭に紹介した"Out~”の部分は、日本語に最初に訳した坪内逍遙の決定版が、引き継がれることが多いそうだ。

面白かったのは、毎日が過ぎていくイメージだ。手前みその解釈では、次のようになる(専門家ではないので、間違いがあってもお許しいただきたい)。

夜の中に何者かが潜んでいて、それが向こう側からゆっくりとやってくる。人もまた朝に向かって、夜の中を這うように進んでいく。振り向くと、昨日までの連なりがひとかたまりになっていて、それが光に照らされている。その光の先には、死ぬべきその日がある。死への道を照らす光に向かって、「消えろ、消えろ、つかの間のともしび!」と叫んでいる。

”And”というのは通常、英会話でも弱く発音されるが、この台詞ではシェークスピアは強く発音するよう、組み立てている。その意図は、妻の死に絶望して、もう生きていたくないマクベスの上に、明日、明日、また明日が押し寄せてくる感覚があるのだという。だから、名優の中には、流れるように敢えて言わず、絞り出すように一語ずつ吐き出す人もいる。

目覚めて、朝の光を浴びた時、あなたはどう感じるだろうか?「さあ、今日もがんばるぞ!」とやる気にみなぎる時もあれば、「ああ、また一日が始まるのか…」と渋々寝床から這い出る時もあるのではないだろうか。

この日、たまたま下校時間に自宅近くの小学校の前を通った。子どもは、誰もかれもじっと歩いていなかった。走ったり、はねたり。生命力のかたまりだな、とまぶしく思った。

たぶん、子どもたちは「死」を意識することはあまりないのだろう。ただ、生命を謳歌する輝きを放っている。一方、人生の半ばを迎えた私は、仕方なく起きることも多い。すでに実父を亡くしている私には、マクベスの気持ちがよく分かる。

私たちは、砂時計のように、刻一刻と死に近づいている。富める者も貧しい者も死が訪れる。不条理の多い世の中にあって、誰にも等しい真実。だが、そのことを毎日意識して生きていくのは、とても耐えられない。”Out, out,brief candle!”と叫びたくなる。今のご時世なら尚更。いつの時代にも刺さるシェイクスピアの世界に、今更ながらはまっている。




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