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第四章 イーヨーがしっぽを無くし、プーが見つける話

Winnie-the-Pooh
by A. A. Milne (1926)
IN WHICH Eeyore Loses a Tail and Pooh Finds One
よしの訳

 年を取った灰色のロバ、イーヨーは森の中のアザミが茂る奥まった場所に一人で立っていた。前足を広げて、頭をかしげながら、いろいろなことを考えていた。ときには悲しんで「なぜ?」と考え、ときには「なにゆえ?」と考え、ときには「いかなるわけで?」と考えた——そして、ときには自分が何を考えていたのかわからなくなった。だから、ウィニー・ザ・プーがのしのしと歩いて来たときは、イーヨーはとてもうれしくなった。憂鬱そうに「ご機嫌いかがかね」と言うために、少しの間考えるのをやめられるからだ。
「そっちはいかがだい?」とウィニー・ザ・プーは言った。
 イーヨーは頭を左右に振った。
「あまりいかがではないね」と彼は言った。「もうとんといかがに感じてないよ」
「おや、おや」とプーは言った。「それは気の毒に。どれどれ、見てあげよう」
 それで、イーヨーは地面を悲しそうに見つめながらそこに立ち、プーは彼の周りをぐるりと一周した。
「あら、しっぽはどうしたの?」、プーが驚きながら言った。
「しっぽがどうしたって?」とイーヨーが言った。
「ないよ!」
「確かかい?」
「いや、しっぽがそこにあるか、ないか。こんなことは間違えようがない。君のは、ないよ!」
「じゃあ、何があるんだい」
「何もないよ」
「見てみよう」とイーヨーは言い、ゆっくりとしっぽが少し前まであった場所を振り向いて、追いつけないことに気づいたので、今度は反対側から振り向いて、元いたところに戻ってきてから、頭を下げて前足の間からのぞき込んで、とうとう長い、悲しいため息とともに「君が正しいようだ」と言った。
「もちろん正しいさ」とプーは言った。
「おおよそのことはわかった」とイーヨーはむっつりと言った。「これがすべてを物語っている、何の不思議もない」
「どこかに落としてきたんだよ」とウィニー・ザ・プーは言った。
「誰かが取ったのさ」とイーヨーは言った。「いかにも奴ららしい」と長い沈黙の後で付け加えた。
 プーは何か助けになることを言うべきだという気がしたが、何を言えばいいのかよくわからなかった。そこで、代わりに助けになることをすることにした。
「イーヨー」、彼は厳かに言った。「僕、ウィニー・ザ・プーが、君のしっぽを見つけて来てしんぜよう」
「ありがとう、プー」とイーヨーは答えた。「君は本当の友達だ」と彼は続けた。「ただの友達とは違う」
 そうしてウィニー・ザ・プーはイーヨーのしっぽを探しに出かけた。
 それは、晴れた春の朝の森だった。小さな柔らかい雲が青空で楽しそうに遊び、時折太陽を消そうとするかのようにその前を飛び跳ねては、すぐに次の雲に順番を譲ってするりと去って行った。その向こうから、そして間から、太陽は勇ましく輝いていた。そして、年中手入れされていないモミの雑木林が、真新しい緑のレースを上品に纏ったブナの木々のそばで、古く、むさくるしく見えた。クマは雑木林の間を進んだ。ハリエニシダとヘザーの広々とした丘を下り、岩だらけの河床を越え、砂岩の険しい土手を登り、またヘザーの中へ。そうして疲れてお腹を空かせながら、ようやく百エーカーの森へとたどり着いた。この百エーカーの森に、フクロウが住んでいたからだ。
「誰かが何かについて何かを知っているとしたら、それはフクロウだ」とクマはつぶやいた。「そうじゃなければ、僕の名前はウィニー・ザ・プーじゃないことになる」と彼は言い、「でも実際ウィニー・ザ・プーだし」と付け加えた。「だから、そういうことだ」
 フクロウは、古めかしいとても魅力的なクリの木の家に住んでいた。それは他のどの家よりも立派だった。少なくともクマにはそう見えた。ドアノッカーと呼び鈴の両方が付いていたからだ。ドアノッカーの下にはこんな案内があった。

 ヘソジガ ヒツヨナ バアイハ ヨビリンヲ ナラシテ クダイ

 呼び鈴の下にはこんな案内があった。

 ヘソシガ ヒヨナイ バアイハ クッノ シテ クダリ

 この案内はクリストファー・ロビンによって書かれたものだった。森で字をつづることができるのは彼だけだった。フクロウはさまざまな点においてとても賢く、自分の名前を読んだり書いたり、「クフロウ」とつづることはできたが、それでも「はしか」や「バタートースト」といった繊細な言葉になると、どういうわけか取り乱してしまうのだった。
 ウィニー・ザ・プーは二つの案内をとても注意深く読んだ。まず左から右へ、その後、何か見落としていたかもしれないと、右から左へ。それから、確実にするためにドアノッカーをノックして、かつ引っ張り、呼び鈴のひもを引っ張って、かつノックし、さらにとても大きな声で言った。「フクロウ!僕は返事が必要だ!クマです」。すると扉が開き、フクロウが顔を出した。
「やあ、プー」と彼は言った。「調子はどうだね?」
「ひどいものだよ、そして悲しいよ」とプーは言った。「友達のイーヨーが、しっぽを無くしてしまったんだ。そしてそのことで塞ぎ込んでいるんだ。だから、どうしたら見つけられるか、どうか教えてもらえないかな?」
「そうだな」とフクロウは言った。「そういう場合の慣例的な手続きはこうである」
「硬くなった種ケーキってどういう意味?」とプーは言った。「僕は脳みその小さいクマだから、それに長い言葉は困っちゃうんだ」
「やること、という意味だ」
「そういうことか、なら問題ないよ」とプーは控えめに言った。
「やることはこうだ。まず報酬をあまねく周知、そして——」
「ちょっと待って」、プーは手を上げながら言った。「何をやるって——何て言ったの?言おうとしたところでくしゃみしたでしょう」
「くしゃみなんてしとらん」
「いいや、君はくしゃみしたよ、フクロウ」
「申し訳ないが、プー、しとらんよ。自分で気づかずにくしゃみなんてできるわけがない」
「いや、くしゃみが出てないのに、くしゃみに気づくわけないでしょ」
「私は、『まず報酬をあまねくしゅうち』と言ったんだ」
「またやってるよ」とプーは悲しそうに言った。
「報酬だ!」、フクロウは大声で言った。「イーヨーのしっぽを見つけた者には、すごい何かを与えるという案内を出すのだ」
「なるほど、なるほど」とプーはうなずきながら言った。「すごい何かと言えば」、彼はうっとりとして続けた。「僕は大抵今くらいの時間——朝のこれぐらいの時間に、ちょっとした何かをとるんだ」。そして物欲しそうにフクロウの応接間の隅にある食器棚を見やった。「ほんの一口の練乳か何か、そしてひょっとしたらハチミツを一なめ——」
「さて、それじゃあ」とフクロウが言った。「この案内を書き上げて、森中に貼ろうじゃないか」
「ハチミツを一なめ」、クマはつぶやいた。「それか——それか場合によっては、ハチミツなし」。そして深いため息をつき、フクロウが言っていることに一生懸命耳を傾けようとした。
 しかしフクロウは使う言葉をどんどん長くしながら、延々としゃべり続けた。そしてようやく話のふりだしに戻ってきたとき、この案内はクリストファー・ロビンが書くべきだと説明した。
「玄関にある案内を書いたのも彼なんだ。見たかい、プー?」
 すでにしばらくの間、プーは目を閉じながらフクロウの言うことに「うん」と「いいや」を交互に返していた。そして直前に「うん、うん」と返したので、今度は「いいや、まったく」と、フクロウが言っていることをよく理解せず答えた。
「見てないのかい?」とフクロウは、少し驚いて言った。「来て、今見てみなさいな」
 それで、彼らは外に出た。プーはドアノッカーとその下にある案内を見て、さらに呼び鈴のひもとその下にある案内を見た。すると、その呼び鈴のひもを見ればみるほど、こんなものをどこか他のところで、いつか見たことがあるという気がするのだった。
「美しいひもだろう?」とフクロウが言った。
 プーはうなずいた。
「何かを思い出させる」と彼は言った。「でも何だかわからないんだ。これ、どこで手に入れたの?」
「森で見つけたのさ。茂みに引っかかっていて、最初は誰かがそこに住んでいるのかと思って、引いてみたけど何も起きなかった。だから次は思いっきり引っ張ってみたら、取れたんだ。誰も要らない様子だったから、持って帰って来たんだよ——」
「フクロウ」とプーは厳かに言った。「君は間違いを犯したんだ。それを必要としている人はいたんだよ」
「誰だい?」
「イーヨーさ。僕の大切な友達のイーヨーだよ。彼は——彼はそれが好きなんだ」
「好き?」
「結びついてたんだ」、プーは悲しそうに言った。
そう言って彼はひもを外し、イーヨーのところに持って帰った。そしてクリストファー・ロビンがそれをまたあるべき場所に釘で留めると、イーヨーはとても喜んでしっぽを振りながら森中を跳ね回ったので、プーは急にものすごく可笑しくなって、元気をつけるために急いで帰っておやつを食べなければならなかった。それから三十分ほどして、口を拭きながら彼は誇らしげにこんな歌を口ずさんだ。

誰がしっぽを見つけたの?
「僕さ」とプーが言ったのさ、
「二時になるその十五分前
(本当は十一時十五分前だけど)、
僕がしっぽを見つけたの!」


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