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ラウンド間の読書録2―あなたはJAL派?それともANA?―


はじめに


私の名前は,ハット。
普段は,マジック:ザ・ギャザリングと呼ばれるカードゲームをプレイしている。と言っても,本記事は,カードゲームに関するものではない。

普段カードゲームの大会に出ていると,ラウンド間(各試合と試合の合間)でどうしても待ち時間が発生する。次の対戦まで20~30分なこともざら。オンラインでの大会となれば,ラウンド間の時間の使い方はなおのこと自由であり,課題でもある。

友人と談笑するのも有意義な過ごし方の一つだが,私は本を読むのが好きなので,読書に耽っていることも多い。

本記事では,そうして読んできた書籍達をご紹介しようと思う。1本の記事あたり3冊,できるだけジャンル被らない3冊を選んでいくつもりだ。もちろん書籍の選択は,完全に私個人の趣味であり,本記事も備忘録的なものでもある。が,少しでも興味を持ってもらえた書籍があれば,手に取って頂けると幸いだ。

https://note.com/hateatosib/n/n1985dad3fe62

こちらは,過去の記事になります。合わせてご覧いただければ幸いです。

また,マジック:ザ・ギャザリングについての記事も,note内で2024年3月時点で9本程執筆しております(こちらから)。統計データでMTGを語ったり,ローグデッキを真面目に調整した過程等、多岐にわたっております。有料記事も多いですが,満足いただけるだけのコンテンツとなるよう誠心誠意執筆しておりますので,そちらもぜひ一読くだされば幸いです。

本記事は,全文無料となっております。ですが,もし気に入って頂けましたら,フォロー・サポート頂けると大変うれしく思います。次回以降の記事の励みになります。

それでは,どうぞお楽しみください。

今回の3作品

客室乗務員の誕生―「おもてなし」化する日本社会

タイトルの通り,客室乗務員(いわゆる,CA)がいかにして誕生し,変遷していったのかを,それぞれの時代背景と共に考察した1冊。

よく言われる「自分磨き」「マナー講師」の興りも,実はこの客室乗務員の文化から来たもの。今でこそやや揶揄されているこれらの言葉も,それが生まれた背景を知ると,少し見方が変わることだろう。接客業や自己啓発の類の歴史を辿っている,と言い変えてもよいだろう。

日本の「おもてなし」は,チップなどの金銭的対価を極端に忌み嫌う。むしろ日本の「おもてなし」では,無償の自発的な奉仕であることを裏付けとする「非商品化された感情」こそが尊ばれ,相手の見返りを求めない潔さによって質的に保証される「自分磨き」の実践という非金銭的で人格的な機会こそを期待する。いわば,金のためではなく人のため,他人のためではなく自分のために喜んでおこなうのが,理想的で伝統的な日本の「おもてなし」とされる。

第5章 相続される「おもてなし」 4.「おもてなし」と品格労働 より引用

「おもてなし」というフレーズ自体が,客室乗務員の歴史と密に関わっているという指摘も,示唆に富む興味深い内容だ。私個人,昔から「なんで海外には,チップという文化があるのだろう?」と思っていたのだが,そんな疑問も解消してくれた。

考えてみれば,客室乗務員という職業は,

  • 航空機内で業務をし,(=航空機の技術,すなわち軍事・防衛技術の発展)

  • 国と国とを繋げる,(世界経済の動向と日本の外交政策)

  • (主に)女性の仕事である。(人権・女性運動の興り)

という3つの側面を持ち,一職業としてだけでなく,歴史や時代背景を色濃く象徴していると言える。
本書を読むと,いかに客室乗務員という仕事が,その時代の経済情勢や権利運動と分かりやすく連動し,変化してきたのかが分かる。
客室乗務員という職業の視点で,現代史の勉強が楽しめる名著だと思う。

その他にも,

  • 「全日空(ANA)の創設者は元新聞ジャーナリストで,元々はヘリコプターで宣伝ビラを撒く会社

  • 『an・an』『non-no』というファッション雑誌の登場で,実は航空業界が大打撃を受けた

など,「へえ」となる知識が散りばめられており,知っているとつい人に話したくなること請け合いだ。

ただし,日本初の客室乗務員はスチュワーデスではなく,「エアガール」と呼ばれた。
(中略)
 同じ日の『読売新聞』も,「空のピクニックをヨリ快適」にするため,「佳麗なエロ・ガールを同乗せしめ,乗客に空中からの名所案内と同時にカクテル,コーヒー等の味覚サービスを行わしめる」と伝えている。
 この『読売新聞』の「エロ・ガール」は誤記ではない。同日の『国民新聞』は「エロ・ガールならぬ・エーア・ガールを乗組ますべく,容姿端麗な尖端的女性を募ることになった」と記し,(以下略)

1章 日本初の「業務」 1「客室」と「乗務員」出現 より引用

本書の冒頭から,マジかよ…と思わせる掴みもあったりと,読み物としても大変面白い(引用部分の「エロ」はあくまで,文化・芸術的な意味という解釈。にしたって,もうちょっと何かあっただろうに,と思うが)。

興味のある方は,ぜひ手に取って,続きを読んでみてもらいたい。

勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない 4

2023年の直木賞作家,垣根涼介の「君たちに明日はない」シリーズの4作目。

「リストラ代行会社」に勤める主人公が,リストラ面接を通じて様々な仕事につく人たちの人生を「再構築(re-structuring:リストラクチャリング)」していくシリーズお仕事小説。

リストラと言っても,何やら主人公が圧迫面接のように相手をけなす暗い展開ではなく,その人にとってその仕事がどんな位置づけであったかを探り,少しでも良い選択をできるアシストをする。被面接者の生き様も豊かに描かれる,時に厳しく,けれどもどこか暖かいストーリーだ。

各章ではそれぞれ異なる職業が登場するが,本書の冒頭ではCAが登場する。先に挙げた『客率乗務員の誕生~』は歴史や時代背景の考察が主だったが,それが個人史と重なるとどう映るか。合わせて読んでもらうと,より感情移入して楽しめるだろう。

リストラ面接という設定上,どの章も最終的に登場人物が,会社を去る/残るの選択を迫られるわけだが,読み進めながら「こいつは辞めそう」「案外残りそう」みたいな想像をしながら読み進めると楽しい。だいたいは「そうきたか…!」と良い意味で予想を裏切られる。

本作はシリーズ全5作の内の4作品目だが,過去3作品からのストーリー性はそれほどなく,この4作目から読んでも一向に問題ない。もちろん,楽しめた人は,過去作も含めて一読いただけたら幸いだ。

個人的には,本書の2章「ノー・エクスキューズ」が一番のお気に入り。

世界を売った男

香港発のミステリー小説。
ある殺人事件を追う主人公の刑事が,捜査中に突如意識を失ってしまう。目覚めるも,そこはなんと6年後の世界。その間の記憶もなく,追っていた事件の犯人は逮捕,無事解決していた。
記憶が混乱する中,ある記者から「解決したはず」の殺人事件を取材したいとの申し出が。記憶を取り戻すべく同行するも,その中で事件の新たな真相が明らかになり…

デビット・ボウイの同名曲にインスパイアされて書き上げられた本作。人によっては,小島秀夫監督作のゲーム,「メタルギアソリッドV :ファントムペイン」で馴染みのある方もいるだろう。

本作で陳浩基(サイモン・チェン)という作家を初めて知ったが,一言で「読者に親切な文章を書くミステリー作家」という印象を受けた。過去と現在の時間軸が交差するミステリーという設定上,複雑になりがちなストーリーライン。氏の文章は明確な書き分けがなされ,トリックに至る説明や伏線の貼り方,事前の情報提供の進め方に至るまで,複雑さを感じさせない「読みやすい難解ミステリー」となっており,安心して謎解きに唸れる逸品だ。

デビット・ボウイの「世界を売った男」は,曲を聞き,歌詞を読んでもそれが意図するものは難解で,私にはまだよく掴めていない。もし自分がこの曲を基に小説を書くととなっても,もっと内省的なヒューマンドラマや,純文学の世界観にしそうである。サスペンスやミステリーにするという発想はとてもできないと感じた。

私はよく小説を読んだ際,「映像化するなら,誰をキャストするか」ということを想像して楽しんでいる。別の媒体で表現するなら,どんな形が考えられるか,自由に空想できる。私自身,音楽にはあまり明るくないが,1つの曲からでも,ストーリーを紡いでけるゆけるという,表現の豊かさ押し広げてくれる1冊だろう。

本書と直接関係はないが,「音楽にインスパイアされた他の媒体」ということだと,エイミー・マンの曲にインスパイアされて制作された,ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画「マグノリア」は特にお気に入りの一作。もし「世界を売った男」を映画化するなら,ぜひとも主演はエドワート・ノートンあたりにキャスティングしてもらいたい所(ジェイク・ジレンホールでもいいかな…)。アンダーソン監督なら,ミステリーにはならなさそうですが。

おわりに

今回の書籍紹介は,以上になります。

ご紹介させて頂いた書籍についてのご意見など,いつでもお待ちしております。また,本記事をお読みいただいた方々からも,おすすめの書籍があればぜひとも教えていただければと思います。雑食なので,わりと何でも読みます。合わせて,私のXアカウントまでご連絡ください。

それでは,よいマジック&ブックライフを。

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