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五感に訴える店舗

こんにちは、コーイチです。
小売業界で再び「店舗体験」が注目を浴びています。
「店舗体験」とは、消費者が来店してから、店内で商品を検討し、購入するまでの一連の流れのこととなります。
 ECが台頭して以降、小売業界の実店舗は縮小傾向にありますが、一方で、新たな観点から店舗体験を提供する実店舗も登場していきています。
 今回は、それらの「店舗体験」を実施している中でも、店舗での購買体験にエンターテイメント要素を取り入れたリテールテイメント店舗「CAMP(キャンプ)」を見ていき、今後もこのような傾向が続いていくのか考えたいと思います。

1. A Family Experience Store
 「CAMP(キャンプ)」とは

(出典:CAMP  youtubeより)

 創業者のベン・カウフマン氏は「BuzzFeed*」でCRO(最高収益責任者)兼CMO(最高マーケティング責任者)を務めており、2018年の夏頃、妻と息子とニューヨークに暮らしていました。
*BuzzFeed:世界中の人々にニュースとエンターテイメント情報届ける、先進的で独立したデジタルメディア企業

 そんな中、2ヶ月前に「トイザらス」が、経営破綻に追い込まれたことが追い風となって、カフマンの思いに火がつきました。
 街に玩具が買える場所がなくなり、親子連れで何度行っても楽しめるような場所がないことに気づきました。
 子連れファミリーが家族単位で定期的に通いたくなるような、ワクワクする体験はどうすれば生み出せるのかと考えを巡らせているうちに「CAMP(キャンプ)」をひらめいたとい言います。
 子供だけではなく、あくまでも家族一緒に楽しめる体験の場という観点で考え、ニューヨークの5番街に「CAMP」をオープンすべく動き出しました。

 2018年12月にマンハッタンの五番街に1店舗目をオープンし、現在では、マンハッタンのハドソンヤード、ダラス、サウスノーウォーク、ブルックリン、ボストン、ロサンゼルスなど、全米で9店舗を展開しています。
 「子供に遊び場を提供し、玩具を買っていただく」というコンセプトで、同社は2020年に前年比300%増という驚異的な増収を達成しました。

2.エンターテインメント化された店内

(出典:CAMP  youtubeより)

 マンハッタンの五番街の最初の店舗は、1万平方フィート(約929平方メートル)の規模となります。
 「CAMP」の店内に入ると普通の小さなおもちゃ屋さんにしか見えませんが、「マジックドア」と呼ばれる、一見、陳列棚に見える秘密の隠し扉を開けると、その先にはテーマパークのような空間が広がっています。
 ここは定期的に変わるテーマに沿った体験ができる場で、テーマは約3ヶ月ごとに変わり、多くの場合、何らかのブランドがスポンサーになっています。
 物販に割かれている面積は、店舗全体の2割程度にすぎず、残り8割は子供と家族が体験できるこのテーマパークのような空間となっています。

 また、テントや自動車、滑り台などの遊具のほか、ラジオ局やディスコを模したコーナーもあり、来店した子どもたちが自由に遊ぶことが可能となっています。
 そのほかにも、DIYのレクチャーやダンスパーティーなどのイベントや衣料、ギフト、食品の他、両親や祖父母をターゲットにした商品も並びます。

 「CAMP」の主な収益源はチケット販売、店舗内イベント、玩具販売となっていますが、実際には玩具販売は売上全体の2割程度に過ぎず、ほかの2事業(チケット販売および店舗内イベント)が収益の牽引役を担っています。
 チケット販売とは、店内で開催するイベントに参加するチケットのことになります。 

 「マジックドア」の奥にあるテーマ型体験空間は、特定ブランドがスポンサーになりますが、この特定のテーマに即した体験を実現するチームの面々は、舞台経験者ばかりとなっています。
 テーマに即した体験を演出する体験デザイナーは、ブロードウェイ経験者を採用しており、大ヒットミュージカル「ハミルトン」などの作品のセット作りを担当したメンバーもいるといいます。
 舞台作品の制作陣とほぼ変わらない制作手順で取り組んでおり、まずは体験をデザインするストーリーを書き、動線を考慮して、舞台へ導くようにデザインされています。
 ストーリーが書き上がってから、「CAMP」のチームは動線上のポイントごとに配置できそうな商品などを考え、展開に合わせて子供達が様々な商品で夢中になって遊ぶ時間も考慮されています。

3.デジタル化への挑戦

(出典:CAMP  youtubeより)

 コロナ渦でロックダウンを虐げられ、持ち味の体験型店舗の売上と演出がストップしてしまい、「CAMP」の持ち味をデジタル化して提示する方向に動き出しました。
 きっかけは、「メンバーからバーチャル誕生会なんてどう?」というアイデアが出てきたのが始まりです。
 顧客のデータベースを見てみると、誕生日の子供が毎日60〜70人いることがわかり、デジタル誕生日会をオンラインで開催する場を提供することにしました。
 この試みによって、わずか3ヶ月間に数千人の子供達の誕生日をお祝いしました。

 その後、子供達のデジタル誕生日会を応援してくれるスポンサーを募ることにし、その動きに関心を寄せたのが、「Walmart」でした。
 そして、2020年7月には、「Camp by Walmart」が始動しました。
 その年はオンライン版のサマーキャンプが多く開催されましたが、どれも似たような内容だったので、「CAMP」は、そんなやり方では面白くないと考えました。

 そこで「Walmart」と、インタラクティブな映像制作を手掛ける「ECCO(エコー)」という会社の3社で手を組み、インタラクティブ動画を生かしたバーチャルサマーキャンプの開発に乗り出しました。
 サマーキャンプを構成する一つ一つの活動には、ベースとなる商品があって、クリックひとつで購入できるようにしました。
 ここでも、物販を優先するのではなく、まず体験作りに注力し、「CAMP」の持ち味を何らかの形で表現することにより、それをオンラインで伝えることが出来て、収益化につながっていきました。

 カフマンは、2020年11月末には編集部門を設立し、「CAMP」のオンラインにおけるプレゼンスを高めることを開始しました。
 カフマンによれば、これにより顧客第一主義がより強く実践され、同社の店舗やバーチャルイベントへの周知が進み、収益回復の原動力となり、コロナ禍でそれが一気に加速したと述べています。

 「CAMP」による「子供の遊び場としての店舗を、オンラインで再現する」という取り組みが、商品や楽しいイベントなどの売上増につながったといいます。
 カフマンは、「我々は小売メディア企業で、メディアとしての活動も行うことにより、顧客ロイヤリティの向上につなげる。引いては、商品の販売増をもたらしてくれる。」と述べ、ウェブサイトのメインターゲットは、あくまでも子供とその親で、「今日は何をしよう?」と考えている家族に、楽しみを提供することを最優先にして運営しているといいます。

 また、カフマンは、「ECは隔絶した、あまりにも退屈な世界だ。『検索して、買う』。ただそれだけの場所になり下がってしまっている」とも述べています。

 「CAMP」のオンラインショップは、ほかのオンラインショップよりも、楽しく、顧客体験は競争の激しいEC業界のなかでもひときわ目立つ存在になっています。
 例えば、2020年のクリスマスシーズンに「バーチャルプレゼント交換」イベントを開催しました。
 家族や友人グループがログインして、プレゼントをバーチャルで贈り合い、交換して開封するというイベントで、これが終わると、「CAMP」が注文を処理して開封した人たちにそのプレゼントを送るという仕組みになっていました。
 このイベントは開始から10日以内に2万5000人もの参加者が集ったといいます。

4.最後に

(出典:CAMP  youtubeより)

 「CAMP」は、店舗に入る仕掛けからワクワクする演出を取り入れ、売場における購入の検討や購入体験自体をエンタメ化している「リテールテイメント」の好事例と言えます。
 こうした玩具店のリテールテイメントは、ニューヨークではまったくの新しい取り組みというわけではなく、1889年創業の歴史ある玩具店「FAOシュワルツ」も、店舗体験にフォーカスした「夢を売るお店」として、世代を超えて愛されてきました。
 EC台頭の影響で2015年に一度閉店したものの、2018年に立地を変えて復活しており、店舗体験への回帰を象徴する出来事と言えます。

 このように店舗で商品を手にして試すだけでなく、その店舗でしかできないことを顧客が体験することにより、購買意欲を掻き立てる効果や、顧客のロイヤリティ醸成、LTV*の最大化など様々な効果があります。
*LTV:Life Time Value(ライフ タイム バリュー)の略で、「顧客生涯価値」のこと。

 アメリカではEC化、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実店舗での販売をメインとした小売事業者の業績不振、事業縮小、破産の事例が増加したことで、小売事業者は、EC上では難しい「実際に手に取って試す」「店員とのコミュニケーション」「商品との偶然の出会い」など、モノを売るだけではない実店舗ならではの体験価値を提供することで生き残りを図っています。

 また、アメリカでリテールテイメントに対応したイベントや店舗が流行した要因の一つとして、ミレニアル世代の台頭が挙げられます。
 ミレニアル世代は、およそ1980年から2000年の間に生まれた年齢層と定義され、最も高齢の年齢層が42歳となり、最も若年の年齢層は22歳となっています。
 人口は約9,000万人にのぼり、ベビーブーマー世代を抜いてアメリカ最大の年齢層になっただけでなく、労働力人口に占める割合も最大となり、教育水準も最も高い年齢層となっています。
 主たる購買層として注目を集めるミレニアル世代は、消費動機に「体験」を求めると言われており、リテールテイメントに対応する動きの拡大を牽引しています。
 日本国内でも、総人口の約22.3%がミレニアル世代と言われており、ターゲットユーザー層として無視することのできないボリュームとなっています。

 体験型店舗は日本でも増加しており、今後も増加していくことが想定されます。
 また、業種によっては、今回紹介した「CAMP」のように、見事に作り込まれ、印象的でワクワクするような体験を味わえる、よりエンターテインメントに特化したような店舗も出てくるのではないでしょうか。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。 
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