スゴい小説を5つ、紹介するよ!
※ネタバレはありません
1、 「人間失格」 太宰治
自分なりの書評
日本文学史に残る超傑作。主人公は歪んだ思想の持ち主で、人として失格かもしれない。しかし、内気な優しさがあったり、もどかしいほどに不器用だったりと、一概に嫌いになれない面もある。彼以上に「人間失格」な人間などいくらでもいると思うのは僕だけだろうか。
この作品の読者は、奇抜なストーリーや巧みな表現力だけでなく、太宰の鋭い人間観察力と文章力の助けを借りて世の中の理不尽や人間の闇をも味わうことができる。その不思議な魅力に取り憑かれる人は多く、近年アメリカでもヒットしているそうだ。この内省的な作品から溢れ出す静かなエネルギーは、国、文化、人種を問わず人の心を揺さぶるということだろう。
2、 「異邦人」 アルベール・カミュ
自分なりの書評
あらすじを読んだだけで敬遠したくなる人も多いだろう。しかし、読み始めると印象は一変する。
世の中の不条理を描いたこの小説には、独特な描写と的確な情景描写がふんだんに盛り込まれており、非常にコンパクトなストーリーの隅々から桁違いの奥深さが感じられる。
主人公が奇人であることは確かなのだが、その言動は理解しがたいものばかりではない。彼の異常性を表現するために引用される、かの有名な「太陽が眩しかったから(殺した)」にもそれなりの背景事情があったりする。それらに触れた読者は、時に納得し、場合によっては共感してしまうこともあるだろう。それがこの作品の凄さであり、恐ろしさであり、傑作として語り継がれる所以だと思う。
超長編作品の数々を押さえて"史上最高の小説"に挙げられるのも納得である。読後の「すごいものを読んでしまった」という感覚は未だに忘れられない。
3、 「苦役列車」 西村賢太
自分なりの書評
著者の実体験を精緻に綴った私小説。僕は本を何回かに分けて読むタイプで、一気読みはしない人間なのだが、この本は違った。興味をそそられ続け、ページをめくる手が止まらなくなってしまったのだ。
圧倒的な文章力と表現力のなせる技だろうか。主人公が送る重苦しい人生が、匂いをも伴って脳に染み入ってくる感覚を覚えた。内容に不快感を示す読者が出てくるのも納得なほどに強烈だ。しかし、どん底生活をリアルに描くこの芸術的文学作品を「不快」で片付けてしまうのは非常にもったいないと思う。これほどまでに文学の美しさ、逞しさ、魅力を教えてくれる作品はそうそうないのだから。
文章力に優れ、表現力や語彙力も豊富な作家は多いが、西村氏ほど無理なく的確にそれを活用できる作家を僕は他に知らない。きっと「文章が上手い人」とは彼のことを言うのだろう。若くして亡くなってしまったことが本当に悲しいし、寂しい。
最高の読書体験を、ありがとうございました。
4、 「占星術殺人事件」 島田荘司
自分なりの書評
この作品の天才的なトリックは「ミステリー史上最高のトリック」としばしば絶賛されており、世界的評価も高い。文章での説明に加え、図解も付いている優しさも良きかな。あまりに奇想天外なトリックゆえに初めは理解に時間がかかるが、わかってしまえば決して複雑ではないことも肝である。
推理に必要なヒントが全て提示された「本格推理小説」であり、ミステリーの醍醐味を味わえる作品。導入部分をはじめ、やたらと長く読みにくい箇所がいくつかあり、それを理由に敬遠している人も少なくないようだが、そこを乗り越えた暁には最高のご褒美が待っている。ミステリー好きには是非とも読んでほしいと思う。
5、 「悪意」 東野圭吾
自分なりの書評
犯人は早々に捕まるが、それは序章に過ぎない。重要なのは犯行動機の解明である……… と言いたいところだが、そんなにシンプルなものでもない。特殊な構成で描かれるストーリーはあれよあれよという間に二転三転し、犯人の動機はおろか、次第に何が真実なのかさえわからなくなっていく。この計算されたカオスこそが本作品の真骨頂であり、それを最終的に綺麗にまとめ上げるのが東野圭吾の力量である。
一箇所だけ小さなツッコミどころ(というか論理性に難のある部分)があるのだが、これは、完成度の高すぎる本作品をかろうじて「人が作り出したもの」にするための意図的なバグのようなものだと思う。この僅かなバグが無ければ、本当に人間業ではなくなってしまう。
かねてより東野圭吾ファンの僕だが、本作に出会った時は彼の発想力、思考力を心底恐ろしいと感じた。彼の最高傑作は何かと問われたら、僕はこの作品を挙げるだろう。「仮面山荘殺人事件」「容疑者Xの献身」「赤い指」と迷うところだが、やはりこの作品は別格だと思う。
お金に余裕のある方はもし良かったら。本の購入に充てます。