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3世代で旅をする 

 「ああ、旅がしたいねぇ」
と父が言った。
 私の父は旅が好きだった。それも、地図を広げ、どの道を行くかを研究して、車を走らせる旅が好きだ。時々道を間違えて、見たことのないような場所をぐるぐるまわるのも旅の楽しみだ。私もよく連れて行ってもらった。秘湯めぐりなんてのもした。
 私が仕事をするようになってからは、母と2人で旅をしていた。ちゃんと時々迷い道を走っていた。
 そんな父は、運転は私よりも、はるかに安定して上手だが、視力の問題で、暗い時や雨天時は運転が不安になってきた。
 父と旅した母は車椅子生活になり、トイレとお風呂、そして寝る時しか車椅子を離れることがない。家のお風呂は足があがらないので、週に2回のデイサービスでリフトでの入浴をお願いしている。ちょっと出かけるとトイレの心配をするので、出不精になってきた。
 父が喫茶店にでもと誘ってもなかなか出たがらない。家で2人でテレビを見て過ごす日々。ニュースを見ていても、グルメだお出かけスポットだと特集が組まれるから、父としてはうずうずするわけだ。
 母は全く心ここにあらずで、
「ははは、そうだねえ」
と相槌をうつ。
 何度かこの光景を見てきた。
 そろそろかな。
 おとさんが3月の終わりに連休を作ったタイミングで、おとさんに了解を得て、父と母を旅行に誘う。
 父は私がいれば、母が大きなお風呂をゆっくり楽しめるのではと期待している。母は車椅子だとなかなか泊まれる宿がないので気兼ねしている。
 確かにトイレの段差はないか、食事場所は車椅子で大丈夫かなどあれこれ確認する必要がある。お風呂が最大の難関だ。母が入れるであろうお風呂が限られてきた。浴槽に入ったり出たりが難しくなってきた。手すりが片方しかないところがほとんど。
 さてどこへ行こう。父と母はおとさんと月のいいところでいいよと言い、おとさんはエビ・カニが出なければどこでもいいよと言ってくれる。月に聞くとややこしくなるので大枠を決めてからだ。
 3世代が満足する旅。2泊3日。
 さーてどこだ?早く決めないと宿がうまってしまう。みんなが気兼ねして、どこでもいいよとしか言わないので、全く地理音痴な私が、実家から3時間位で行ける場所を探す。
 富士山が見たいなあと山梨、静岡でバリアフリーの宿を探す。いいなあと思うと予約でいっぱい。ああやっぱり。いいなあと思うと予算オーバー。ああやっぱり。
 何度も場所を変え、キーワードを変え、調べ直す。
 山梨のゲストハウスに心ひかれる。私が泊まってみたくなった。早速問い合わせると、部屋は空いている。またこちらの様子を伝えると、丁寧に対応をしてくださった。食事の好みや形態もちゃんと確認してくださった。
 刻み食にもしていただけそうだったけど、旅先で刻んだものが出てくるのはワクワク感がないので、家ではかたいものは刻んでいるけど、みんなと同じものがいいと伝えておいた。
 さて、1泊目が決まった。連泊するか迷ったが、温泉も必要かと、探す。母も入れるところを探したら、日帰り温泉で、リフト浴があるところがいくつかあった。
 電話して聞いてみると、直接行ってまず書類申請をしなくてはいけないところだったり、休業中だったり。あちこち探して、どこも事前予約をすることが必要だったので、うまってしまう前に予約をいれる。
 その日帰り温泉の近くのホテルを予約する。もちろん車椅子使用の確認もする。
 予約のやりとりや、コースを聞いて、父が気兼ねして、自分たちが足手まといになっていると言い出す。
 目の前で面倒をかけているように見えるのは心苦しかっただろう。悪いことをした。
 旅の楽しみって、旅の計画をする時にみんなであれこれ言うのが楽しいはずなのに、みんなで話せる時もなく、聞くと、任せたと言われ、じゃあとあれこれ探して、やっと決まったと思ったら、足手まといになるからもういいと言われて、しょんぼり。私の苦労はなんなのだと一人でむくれていた。
 でも、でも。このチャンスを逃すと、おとさんもなかなか連休がとれないから、いつ行けるかわからない。みんなで、一緒に行くのが楽しいわけで、行き先はどこだっていいのだ。行ったところを楽しめる人ばかりだから私は安心して探せるのだ。父にも話して納得してもらった。
 泊まるところが決まったら、今度はどこを観光するか。
 おとさんはワイナリーと美術館へ行きたい。月はアスレチックや何か体験がしたい。父と母は月が楽しむところが見たい。
 私が高速道路を運転するのが苦手なので、ワイナリーが第1日目というのは確定。アスレチックができるところをさんざん調べたけど、月が見つけてくれた所は遠かった。他は期間が微妙。雪があるかも。天気も危なっかしい。月は僕が好きそうな所をコースにいれてくれればいいよと言ってくれた。
 さーて、またぐるぐる調べ検討して、決めた。
 まず山梨のワイナリー。試飲ができるところ。ゲストハウス近くの萌木の村で、地ビールとオルゴールを楽しんで、チェックイン。 
 2日目は、おとさん希望の美術館。その後ガラス美術館。何やら作れそう。月が喜びそうだ。そして、チェックイン。夜は星が見えたらいいなあ。天気予報はいまいち。
 3日目はお風呂にいって、その後、操り人形感へ。操り人形が動かせるらしい。父や母も好きそうだ。
 わりとみんなの希望に叶っているんじゃないかな。
 天気がちょっと不安定なのが心配。車椅子の母には雨はけっこうこたえるのだ。
 コースのプレゼンをすると、父も母も、おとさんも月も喜んでくれた。
 旅が待ち遠しくなりましたよ。 
 昔の父の勢いだと、4,5時間運転して出かけていたから、物足りない距離ではある。しかも、往路も復路もほぼ同じ。そして何より私もおとさんも地理音痴なので、道はナビ任せ。
 どの道を行くか?と父は必ず聞いてくるが、ナビ任せとしか答えられなくて、父をがっかりさせるのだ。
 でも、父は楽しみだと言ってくれた。
 みんなで楽しむのだ!楽しみさ!

 

 
 

 

#わたしの旅行記

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