3世代で旅をした。 その2
旅の2日目。
ワインを飲んで寝たからぐっすり。ぱっちり目が覚めたら、5時過ぎだった。おとさんはすやすや。
そーっと着替えて部屋を出る。ちょっと宿の周りを歩いてみよう。
宿の中はまだ暗く、しーんと静まり返っている。
いや、あれ?
父と母の部屋から灯がもれて、近くに行くと声がする。なんと月も父と母も起きていて、テレビを見ていた。月の元気なこと。父と母にお茶をいれて届け、テラスを覗く。テラスの木で小鳥が忙しそう。ホーホケキョときれいな声もきこえる。思わず、玄関の鍵を開けさせていただいて外に散歩へ。玄関の鍵がおもしろい。開き戸の持ち手に木の枠を差し込んであるだけ。
まだ寒い。息も白い。昨夜の雨のしずくが、周りの木々でキラキラして、イルミネーションみたい。歩いていくと鳥たちの声がどんどん変わっていく。いろいろな鳥たちのおしゃべりをスマホで撮っては父や母のラインに送る。
誰にも会わず、鳥たちの声だけがきこえる散歩。右手の方に眺めのよさそうな丘があるのに心ひかれつつ宿に戻る。
宿の方がいらしたので、テラスの木は何かを尋ねた。ネグンドカエデという木だとか。さっき父も同じことを尋ねたらしい。鳥の話をしたら、宿の方の鳥のアルバムを見せてくださった。鳥の説明も添えてあって楽しい。一眼レフカメラで撮影されるのだとか。見事な写真だ。
玄関の正面に見える白い山は何か尋ねたら、甲斐駒ヶ岳とのこと。近くにヤッホーの丘と地元の人が呼ぶ丘があって、そこへ行くと、天気がいいと、富士山が見え、反対は八ヶ岳が見えて360度パノラマビューとのこと。
そうだった。富士山が見たかったんだった。ここでは見えないとあきらめていた。ああ、そして今日は曇ってて残念。父と母にアルバムを届ける。朝食まで40分ほど。ダメ元でヤッホーの丘をめざしてみようと再び出かける。
早足でえっほえっほと歩く。ヤッホーの丘への道に入って、富士山が見える方向に振り返る。もしかして?よーく目をこらすと富士山の頭が見える!写真にはうつらなかったけど。うっすらだけど、間違いなく富士山。満足。でも、ヤッホーの丘へ行く時間がある。行ってみよう。
えっほえっほと歩くとバサバサバサッと音がする。キジが飛び立っていった。びっくりさせてごめんよ。
少し歩くと再び。ごめんよ。
鳥さんたちにご迷惑をおかけしながらヤッホーの丘へ。見晴らしがよくて気持ちがいい。八ヶ岳は雲の中だった。
急いで戻ると朝食ぎりぎり。みんな待っていた。一番早起きしたのは私なのに。ごめんなさい。
朝食はホットサンドとベルギーの方から教わったというスープ。
ゆっくり朝食をいただき、宿の成り立ちを聞く。障害のある人たちも旅を楽しめるようにと、また地域の防災拠点としても活用できるようにと考えられているとのこと。段差がなく、ゆったり過ごせるお部屋。明るくて、食事も美味しくて堪能させていただいた。父はずらっと並んだ見事な君子蘭にも感嘆の声をあげた。父も君子蘭を育てていたが今は放りっぱなし。花は咲くけど、あまり目につかないところに置いてあるのだ。ちょっとがんばろうと思ったみたい。
宿に別れを告げ、本日第一の目的地へ。
おとさん希望の中村キース・ヘリング美術館へ向かう。
駅前を通ったら、SLがあったので、わざわざ戻って見学に。父と月は楽しそうにSLに乗りに行った。
中村キース・ヘリング美術館は、ピラミッドの中に入るみたいな不思議空間とのことで、月が楽しみにしていた。月が母の車椅子を押すというので、おまかせ。父は暗い所は足元が見えず苦労しつつ、ゆっくり歩く。私たちは後ろからゆっくりついていく。
キース・ヘリングさんの作品はよく目にしていたけど、今回詳しくキース・ヘリングさんのことを知った。そして、キース・ヘリングさんの作品にほれこみ、この山に囲まれた自然の中を選んで美術館を建てた中村さんのことも知った。お二方ともエネルギーを感じる方たちだ。周りにどーんと訴える力を持っている。
エネルギッシュな明るい色と線のキース・ヘリングさんの作品は重いテーマをポップに持ち上げる。しっかり向き合うと、ぐんとキース・ヘリングさんの世界にひきこまれる。
キース・ヘリングさんの映像もあったが、とても繊細そうな方。この方のどこにこんなエネルギーがあるのだろう。
今はバンクシーさんが。あちこちに絵を描いているけど、キース・ヘリングさんもあちこちで描いていたんだなぁ。かなり際どく。そして、今まさに価値観の多様化やLGBTQについて問われているけど、キース・ヘリングさんの時代から、ずーっと積み上げられてきているのだなぁ。いっぱいエネルギーを受けとめ、いっぱい感じた。美術館は疲れる。心地よい疲れだ。集中力がいるのだ。空がまぶしい。
エネルギーをいっぱい受けて、お腹がすいた。お昼を探さねば。
今日は諏訪湖のガラス美術館へ行って見学と体験をして、宿へ行く予定。月は今日の夕飯は?明日の朝食は?と楽しみにしている。
今日の宿は夜も朝も和食だよというと、昨日は夜も朝も洋食で、今日は和食なんだね!とはりきっている。
ガラス体験楽しみだね!と嬉しそう。
そうさ。そのはずだったのさ。
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