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PMF後にやったこと~200以上の医療機関へのカスタマーサクセスを5ヶ月で垂直立ち上げした話~

こんにちは、UbieでBizdev / Customer Successをやっているhassyと申します。

このnoteはカスタマーサクセスの垂直立ち上げのストーリー

「カスタマーサクセスの垂直立ち上げ」という事例を通じて、「PMF後に、いかに事業化を行い、スケールのための基盤をつくってきたか」の記録です。すなわち、事業化するにあたり、必要な要素としてのカスタマーサクセスの垂直立ち上げの部分にフォーカスしています。

教科書どおりにうまくいった!という、きれいなお話ではなく、様々な制約条件の中でまずは必要最低限の水準までなんとかたどり着いたという、泥臭く不器用なストーリー

スタートアップに限らず、全ての新たな事業を起こそうとしている方々へ意味をもたらせることを願って、こうしてチャレンジの過程を積極的に発信しています。

書いていたら長くなってしまったので、「短期立ち上げ編」と「中長期の仕組み構築編」に分けて公開します。

入社後、カスタマーサクセス垂直立ち上げようとするものの、4つの厳しい制約に直面する

私は2020年8月に事業開発としてUbieへ入社しました。入社エントリにUbie入社までの経緯は記載しているので、お時間ある人はぜひ。

前職でエンタープライズ向けのSaaSのカスタマーサクセス立ち上げと、PdMを経験していたこともあり、最初のミッションは、医療機関向けSaaSプロダクト「AI問診ユビー」のカスタマーサクセス立ち上げ。

まずは現状の確認するか…と、いろいろ確認してみて、良くも悪くもびっくりしました

AI問診ユビーは2019年後半から本格的に拡販を開始しており、入社時点で約200の医療機関で導入いただいていました。しかし、その規模にも関わらずカスタマーサクセスが組織として存在していない

なんで??どうやっていたの??

実は、個々の事業開発/営業メンバーがいわゆる導入まで、その後はユーザーサポート(営業事務も兼務)がお客さまを支援している状態。手前味噌ながら、個々のメンバーが優秀だからこそ成り立っていたのですが、この顧客規模と拡大スピードをみても、そろそろ限界、という状況でした。

そしてスタートアップあるあるですが、実際に何かを立ち上げるといくつかの制約にぶつかります。Ubieの場合は、4つの強い制約に直面しました。

1. 残り時間が無い
まずは契約の情報を確認してみようと、ドキュメントを漁ると、「契約更新まで全く時間がない」と分かりました。

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AI問診ユビーは年単位の契約が基本です。2019年後半から拡販が開始したので、残り数ヶ月で契約更新を迎えるお客様が数十いらして、しかも契約更新の時期が11月~12月の2ヶ月あたりに固まっていると分かりました。(2019年内は補助金を追い風に受注が拡大していました。そして2月以降は新型コロナウイルスの影響で、波が上下しています。)

マジで時間がない。脇汗が止まりませんでした。

2. カスタマーサクセスに関するデータがない
時間が無いのであれば、どこに時間を投下するかが重要です。どこから手をつけるか決めようと、お客様の情報を確認するために探しました。しかし、見つからない。情報は個人に蓄積され、ほぼデータがないとがわかりました。合掌。

フィールドセールスにおいてセールスフォースに蓄積する仕組みが整った段階で、カスタマーサクセスはこれから…という段階で、情報収集と整理からスタートしました。

3. 顧客規模に対して人がいない
200を超える医療機関に使っていただいている中で、カスタマーサクセスの活動ができるメンバーは自分を入れて5名程度(もろもろ兼務含む)。リソース確保から必要でした。

4. カスタマーサクセス経験者がいない
入社前から知ってはいたのですが、カスタマーサクセス経験者がいませんでした。その状況での垂直立ち上げは少し大変でした。というのも、実際にやってみて痛感したのですが、業界やビジネスモデル、プロダクトやフェーズが異なるとやるべきことも変わる。時間が無い中で進めていくのに不安と焦燥感に襲われました。

このような形で、必要なものがほぼ無い状況からのスタート。

もちろん、このフェーズのスタートアップへの入社です。驚きはしたものの、覚悟を決めていたので落胆することはありませんでした。むしろアドレナリンが湧く。

しかし、現実を見据えると時間がありません。そこで契約更新に向けての短期的な動きと、仕組みづくりの中長期的な動きを同時並行で進めました。本noteでは短期的な動きをご紹介します。

時間がない時は、合議ではなく意思決定を独立させる

1. 残り時間が無い → オンボーディングも契約更新対応も同時にやる
最初は契約更新の波が近づいたので、まずは契約更新対応のみにフォーカスしようと考えていました。

というのも、カスタマーサクセスのプロセスのうち、まずは契約更新対応からやるべき。それはアセットである既存顧客は毀損するとダメージが大きい一方、オンボーディングの失敗はまだ取り返しうる、というセオリーを信じていたからです。
しかし、リソースが無い中で、月にある程度の数の新規受注があるという時点で、これはもう同時にやるしかないな…と考え方を改めました。もう普通のやり方じゃ無理と悟けてきたのはこのころ。

そこで、オンボーディングと契約更新にフォーカスし、それぞれ担当するオーナーを決めて、適宜アラインしながらも独立した意思決定を推進していくこととしました。

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これにより同時に対応を進め、お互いの学びの随時シェアにより全体の改善速度も早くなりました。上記の画像のように、Miroで細かく、雑に、クイックな状況共有で改善を積み上げて行きました。

Ubie独自の部分として、ホラクラシーという組織の仕組みがあります。それにより、同じような領域に取り組んでいても、バッティングやボールの抜けを防ぐ意思決定を円滑に進められました。

データが無い時は、社内システムも小さく早く作る

2. カスタマーサクセスに関するデータがない → 社内システムもMVPから、最初から作り込まない

まずデータがなにもないとどうしようもない…と、まずは情報整理とデータ化に着手。はじめはフィールドセールスが使用していたセールスフォースを使おうと考えました。

しかし前職でのPdM経験から、間違ったものを正しく作ると大きな負債を積んでしまう…。とはいえ、きちんと要件を詰めたりデータ構造の検討等に時間を割いたりするのは難しい。

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そこでオンボーディング・契約更新の管理用にGoogle Spreadsheetを作成し、簡易的な管理システム(風なものを作りました。いわゆる管理表です。
もっとも、データ構造を意識し、以下のポイントを外さないように気をつけながら荒く作って運用しました。

・不確実が高い中でも変更しやすい
・ピボットテーブル等により集計しやすい
・セールスフォースやBIツールの要件定義やデータ設計に役立つ

そして、200を超えるお客様情報のうち、「契約更新のタイミング」しか確かなものがなかったので、それが近い順に全てのお客様情報を社内外にヒアリング。

こうした地道な作業を経て、状況の可視化とデータ収集を進め、優先度等を意思決定できる状況をつくりました。地道の中の地道。でも大事。

人がいない時は、フォーカスするポイントと分散させるポイントを見極める

3. 顧客規模に対して人がいない → フォーカスと分散を使い分ける

200を超えるお客様に対して、我々はざっくり5人(兼務含む)。時間も限られた中で、全てのお客様に理想の対応をするのは現実的に不可能でした。

そこで、契約更新時期x社内で掘り起こした定性的なデータxプロダクトの利用データをもとに、本当に簡単なヘルススコアを作り、対応の優先順位をつけました。

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また、プロダクトの利用データは、かなりの種類が取れていました。しかし、リソースが無い中で欲張って活用しようとすると混乱を招くので、認識がぶれないようにチーム内で重要視する指標を一つにフォーカス。簡単なダッシュボードをつくりました。これにより、少ないリソースの効率を高めていきました。

優先順位に従って、お客様へヒアリングや支援をしていくと、かなり成功しているパターンと、そうでないパターンが徐々に明らかになります。そこから課題を抽出し、解決策の仮説検証を繰り返して徐々に成功事例が生まれてきました。

また、メンバーの経験やスキルによって、どのタスクが効果的に遂行できるかも変わります。

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そこで、特にオンボーディングにおいては、工程を細かすぎず、粗すぎずというレベルまで砕き、部分的に他のチームや業務委託のメンバーにサポートしてもらった上での、タスク分散で乗り切りました。

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このような形で、リソースを可視化&調整していました。これだけだと本当に管理票に見えるのですが、インプットになるデータ構造を意識して様々な角度でデータ活用できるようにしています。この意識が中長期の仕組みづくりのプロトタイプとして機能します。

経験者がいないときは、教科書を読み、知見がある人を探す

4. カスタマーサクセス経験者がいない → 教科書活用&外部の知見を得る
前職はホリゾンタルなデスクワーカー向けのSaaSプロダクトを提供していたので、AI問診ユビーのような医療機関向けのサービスは初めてでした。

しかし、お客様とコミュニケーションを重ねていくと、以下のような難しさがあることが明らかに。

・医療機関の中では医師、看護師、受付、医事課…といったようなそれぞれ専門的な役割を持った関係者を全てアラインしながら、オペレーションを変更する必要がある
・医療機関の中ではノンデスクワークしていることが多く、一人一台PCを使えるという状況ではない
・ITリテラシーも医療機関や関係者の中でも大きなバラツキがある(特にノンデスクワーカーは低い傾向にある)

今までの知識や経験で通用することもあれば、新たに学ばなければいけないことも多い。ドメイン知識は社内メンバーから学ぶことができますが、それを短時間でカスタマーサクセスの施策や仕組みへ昇華するためには経験者の知恵を借りる必要がありました。

そこで、まずは、業界等の独自性を考慮するのをやめ、カスタマーサクセスの教科書的なセオリーを積極的に取り込んで考える時間を節約しました。

そして、独自性が必要な部分は、同じ業界はさすがに難しいものの、近しい構造をもっている業界のカスタマーサクセス経験者に教えを請うというアクションを取りました。具体的には、会計系、労務系、ノンデスクワーカー系といったSaaSのカスタマーサクセス経験者の方々へ相談し、知識の共有やアイディアの壁打ちをお願いしてショートカット。協力いただいたみなさまに感謝です。

これにより、仮説の精度や施策の方向性において、選択肢の幅をぐっと狭められたので、意思決定や仮説検証の速度がかなり早くなりました。

結果

ここまでの垂直立ち上げの取り組みの結果、2020年8月~12月の5ヶ月間で、オンボーディング数十件、契約更新を100件弱を対応することができました。そして、リテンションレートはざっくり90%後半をキープすることができています。(一方で、時間軸を考慮するとカスタマーサクセスの力だけでなく、そもそもプロダクトの力が大きいというのも事実です。)

今回は、あくまでも短期決戦として、限られた時間の中で最低限のことをやりきるというお話でした。並行していた、この規模のプロダクトに必要なカスタマーサクセスの中長期的な仕組みづくりや、細かいHowはまたどこかで、別のnoteでご紹介予定です。

特に、スタートアップでは、PMF~事業化の過程で、厳しい制約の中、「なんとかする」のを求められることもあるかと思います。そのような状況にある方々にこのnoteが届くことを願っております。

まだまだ初期段階なので、みなさんのご経験やご意見等、コメントやツイートでいただけると嬉しいです!

最後に

Ubieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げています。ミッション実現のために、医療機関(病院/クリニック)向けのプロダクトだけでなく、生活者向けのプロダクトや製薬企業向けの事業等を複数同時に立ち上げ、ワンプラットフォームを構築する「多拠点同時突破」にチャレンジしています。

これは一つの企業内で複数の事業/プロダクトを同時にPMF、事業化、スケールに、再現性をもってチャレンジするということ。

本noteより前のフェーズにおけるUbieの状況が知りたい方は以下のnoteをご覧ください。

いわゆる価値検証、PSFあたりは兵頭の転職noteがおすすめです。

PMFまで&セールス/マーケティング(いわゆるGo to Marketあたり)に関しては、柴山のnoteがおすすめです。

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