猫歩く橋
「猫歩く橋」
近所のおじさんはお洒落の最先端だ。
僕は、
雑誌でもネットでもなく、
近所ですれ違う見知らぬおじさんの服装をチェックする。
時におばさんの格好に感心することもあるので注意を怠ることはできない。
おじさんインスパイアのファッションをした時のポイントは、猫背で少し前屈みの姿勢。この姿勢を保つことで完璧なシルエットができあがる。
今日も今日とておじさんからヒントを得たコーディネートで散歩へ出掛ける。
なんと言ってもポイントはベージュのフィッシングベストだ。
古着好きがフィッシングベストを着ているのを見るようになった。
だが、それを見て僕は既視感を覚えた。
そう、近所のおじさんだ。近所のおじさんはずっと前からポケットが沢山ついたメッシュのベストを着ていた。
近所のおじさんはおしゃれを先取り。と言うかお洒落側がおじさんへと歩み寄ってきている。
つまりはおじさんのファッションに時代が追いついたのだ。
散歩は楽しい。
僕にとって、この橋はランウェイだ。
多くのファッションモデルたちと出会うことができる。
この橋にはオブジェがある。
人の上半身(顔なし)やその他にも抽象的な作品がいくつかある。
この上半身像を僕は*トルソーと呼んでいる。
今日もおじさんとおばさんがランウェイを歩く。
中には自転車で通り抜ける斬新な見せ方をしてくれる人もいる。
お、あれはなんだ?かわいいロゴキャップだな。
なんのロゴだ?
エイチ、オー、エヌ、ディ、エー...
HONDA!?ホンダのキャップだ!
メモメモ。今度古着屋で企業物をディグってみよう。
お、あれはなんだ?おばさんが着てるアウターいい色だな。
あれはいったい何色なんだ?
何とも言えない絶妙な色だ。
少し光沢感があってお洒落だな。
紫か?緑か?差し込む光の具合で異なる色に見える。
あの虫の色に似ているな。
あのー。あれだ。あれあれ。あれだよ。なんだっけ。
そうだ、玉虫!
あ、玉虫色か。
玉虫色のアウター欲しいなー。
お、あれはなんだ?あまり見ない靴だな。
あ!DUNLOP
ダンロップだ!タイヤで有名なあの会社だ。
そういえば、ダンロップロゴのキャップ被ってるおじさんもたまに見かけるな。
タイヤだけじゃなくてお洒落ブランドの一面まであったのか。
メモメモ。カッコいいな~。
ダッドシューズが流行ってるとか聞いたことがあるけど、これが本当のダッドシューズじゃないか。やっぱりおじさんは最先端だ。
ところで、ダンロップの靴ってどこで買えるんだ?
やはり、この橋はランウェイだ。
頭の中で理想のコーデをトルソーに着せる。
うん。間違いない。おじさんは最先端だ。
*トルソー:商品を着せてディスプレイする人型の物のこと(全身の物をマネキンと呼ぶ)
著:橋野航
Literature×Local「ディグる」より『猫歩く橋』
Literature×LocalはInstagram(@08hassy16)にて公開中
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