【#シロクマ文芸部】ポロポロポロ
手渡されたのは光る種。
「いいよ」
そういう私に
「もらってよ。後で役に立つから」
と伯母に手渡された。
苦しそうな声で電話がかかってきた。
伯母の家まで1時間半。
「そのままで。絶対動かないで」
と家を飛び出す。
最悪の場合を考えながらドアを開けるとグッタリと横になった伯母がこちらを見て笑っている。
「お腹空いたでしょ。お昼用意しなくちゃ」
なんでこんな時まで、と言いそうになるのを押さえて「食べてきちゃった」と笑いながら近寄り背中をさする。
「気持ちいいねぇ」と目を細める伯母。
どうか心臓の音が伯母に聞こえませんように。
不安が顔に現れませんように。
苦しげな呼吸の伯母と他愛のない話をしながら1時間ほど過ごす。
もう無理だ、と判断をして病院へ連絡。
伯母をよろしくお願いしますと挨拶をして帰ろうとしたら、呼び止められ小さな巾着を渡された。伯母が常に持っていた巾着。
「いいよ」
と断ると
「もらってよ。後で役に立つから」
といたずらな笑みを浮かべた。
家に帰り巾着を開けると光る玉のようなものが出てきた。
宝石ではない。質感的には種のよう。
光る種を巾着に戻し、その日から伯母を真似て肌身離さず持ち歩いた。
春が来る少し前、伯母が亡くなった。
なにが夢でなにが現実かわからない。
横たわる伯母へ悲しみをぶつけたいのに涙が一筋も出ない。
苦しい。苦しい。大声で泣きたい。
四十九日が終わりふと巾着を開いてみた。
光る種を見た瞬間ポロポロと涙がこぼれた。
光る種と同じ形の涙がポロポロポロポロ。
「おばさぁぁぁん!」
大声でワンワン泣いた。
いや泣くことができた。
手渡されたのは光る種。
ありがとう伯母さん。
役に立ったよ。
(679文字)
小牧幸助さん、ありがとうございました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?