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わたしのトランスジェンダー人生攻略

 音楽と旅行、海外料理店巡りが趣味の18歳。先日高校を卒業したばかりです。進学の意思はあるものの、事情によりいまは浪人中。そして、いわゆる「トランスジェンダー」の当事者です。「ふつう」よりちょっと大変なこの人生、なんとか攻略して幸せを掴みたい。わたしのこれまでのまとめとこれからへの決意表明です。

トランスジェンダーとは

 トランスジェンダー、という概念についてみなさんはどの程度ご存じでしょうか。あまり知らない方のために簡潔に説明しておくと、トランスジェンダーとは心の性と身体の性が一致していない状態の人を表す言葉。人口の0.5%程度いるとされており、性的少数者を表す"LGBT"では"T"にあたります。より専門的な言葉では、心の性は「性自認」、身体の性は「生物学的性別」などと呼ばれますね。ちなみに、わたしは「男性に生まれたけれど性自認は女性」の俗に「MtF(Male to Female)」等と呼ばれるタイプのトランスジェンダーです(逆はFtMと呼ばれます)。

 ただ、一般にトランスジェンダーについて為されるこのような紋切型の説明は非常に誤解を招きやすいものとなっています。というか誤解されている場合が多々ある。次の節でその誤解を正させてください。

よくある誤解:LGBT

 まず、LGBTという表現について。LGBTと一括りにされていますが、L,G,BとTは本質的に異なります。レズ,ゲイ,バイセクシャルがそれぞれ個人の性的指向を表す心寄りの単語であるのに対し、トランスは生物学的性別と性自認が一致していない人を指す身体寄りの単語。ですからそもそもの概念からして全く別のものなんですね。「性的少数者」という括りで連帯し権利の回復を目指そう!という運動のため生まれた単語なので仕方ないのですが、TはL,G,Bとは全く異なる概念ということはもっと周知されてほしいです。
 ちなみにですが、トランスかつレズ,トランスかつゲイという方も当然存在しますよ(わたしはトランスかつバイです)。性的指向とトランスであることはそれぞれ独立していますからね。

よくある誤解:性自認

 つぎに性自認という言葉について。"自認"ということばの性質故にトランスはよく「ただのわがままではないか」と勘違いされますが、決してそうではありません。わたしたちが「自分の性別は生物学的性別とは違う方である」と感じているのは物心がついたころ、つまりトランスジェンダーという言葉を知らなかったころからであり、この"自認"は生まれつきのものです。「女装」「男装」「男の娘」といった異性装と同一視されてしまうこともありますが、それらはあくまで「趣味・嗜好」であり、性自認が身体の性と異なるというトランスとは全く別の概念。混同しないようにしてくださいね。

 かなりよく誤解されているポイントなのですが、わたしたちは社会的利益やよこしまな目的のために女の子に/男の子になろうとしているわけではない、元から"そう"として産まれたのだ、という部分はどうしてもわかっておいてほしいです。このあたりの誤解のせいで差別がちょっとね…。

わたしが女の子になるまで

 ここからはわたしが女の子として生きるためにとってきたプロセスとこれからしなくてはならないことについて具体的に紹介します。長いので適度に飛ばしながら読んでネ。あと手術の節は骨を削るとかの具体的な話をしているので敏感な方はご注意を…。

・自認~カミングアウト

 幼稚園に入ったころから自分の性別に違和感があり、男の子として扱われるたびにふわっと「違うな…」と感じていました。ただ、その時点ではトランスジェンダーという概念を知らなかったこともあり、自分が変わっているだけだと思い小学校の終わりまでは違和感は胸に留めたまま生活。はっきりと自分がトランスだと気付いたのはその違和感が生活を侵蝕するほどにまで大きくなった中二の終わり頃です。その頃から悩みをSNS等で打ち明けるよになったため、友人にはその流れで中三の内にカミングアウト。性転換に向かうための治療を始めるには両親の理解が必要なため、最速で性転換を行うためのリミット(理由は後述)だった高一の秋に両親にもカミングアウトしました。運良く受け入れてもらえ、治療費も出してもらえることになりました。

・カウンセリング~診断

 高一の冬からはカウンセリングのため専門のジェンダークリニックに通院しました。未成年者はガイドラインにより実際の治療を開始する前に1年間カウンセリングを受けることが義務付けられているためです。いつから違和感があったか、具体的に男性であることのどういった点が嫌か等を1年間かけてじっくり聞かれたと思います(このカウンセリングにはそのカミングアウトが「気の迷い」でないか確かめる役割があります。その必要性については現在も議論が盛んです)。それからちょうど1年が経過した高2の2月に「性同一性障害」の診断がもらえ、具体的な治療を開始できる運びとなりました。

・ホルモン注射

 諸検査を受けたのち、高2の3月から女性ホルモンの筋肉注射をスタートしました。週1回お尻に打ちます(お尻は神経が少ないので痛くない)。粘性のある液体にして1週間かけてゆっくり吸収されるようにしてるらしい。科学ってすげー…。女性ホルモンには筋肉より脂肪がつきやすくなる、輪郭が丸みを帯びる、肌ツヤがよくなる、ニキビができづらくなる等の強い効果があるため、3ヶ月が経ったあたりから明確に外見に変化が現れました。1年と数ヶ月経った現在ではかなり女性に近い身体になっている気がします。個人的には輪郭が丸くなる…というのに腕の血管が浮かなくなったり胸とお尻が膨らんだりするのが含まれてたのが結構うれしいカモ。
 一生続けなきゃいけなかったり生殖能力がなくなったりとデメリットもそれなりにあるんですが、女性として生きていく†覚悟†はできてるのでそこまで負担ではないかな…という感じです。通院はめんどくさいけどね。

・高声化手術/喉仏削り

 22年の11月に声を高くする手術を受けました。甲状軟骨形成術(IV)という、人間の声の高さが声帯の長さに依存していることを利用し、声帯が付いている骨を糸で引っ張って固定して声帯を長いままにする手術です。男性の声は平常時で100~150Hz、女性だと200~300Hzが一般的だとされているのですが、わたしはこの手術で130Hzから220Hzまで声が高くなりました。声質は変わらないまま声の高さだけ変わるのでマジですごい。これも医療ってすごいなあ…って感じでした。一応音域が狭くなるから歌が歌いづらくなるとかデメリットもないではないんだけどね。
 ちなみに、局所麻酔下で起きたまま手術をし、糸を固定する際はあ~と声を出しながら高さを調整してもらいました。起きたまま喉をいじられるのは怖かったけど、まあかわいい声で喋れるようになったのでよしとしましょう。ダウンタイム(術後の回復時間)は普通の高さの声で喋れるまで2週間、大声が出せるまで3か月です。ついでにほぼ男性特有の部位である喉仏も目立たないよう削ってもらったぞ。

・顔面女性化手術

 これは23年の3月に受けたばかりの手術です。正式な名前はFFS(Facial Feminization Surgery)で、男女では顔の骨格が異なるため男性らしい骨を削って女性らしい顔にしよう!という趣旨のもの。今回は眉骨(まゆげの下の骨、男性だけ出ているとされる)と頬骨(同じく男性のほうが出ているとされる)を削ったんですが、かなり顔が変わりました。骨格の顔への影響は大きいんだなあと感じさせられる手術でしたね。
 ただ、今回の手術は全身麻酔だったのですが、喉にチューブを入れたことが原因となり声帯に麻痺が残ってしまったらしい。その影響でいまは400Hzぐらいの声しか出ません。これが治らないまま別の全身麻酔の手術を受けるのはリスクが高いらしく、このあと予定していたタイでの性転換手術を延期することになってしまいました。このままだと2浪になりそう。早く治ってくれ~;;

・性別適合手術

 そして最後に必要となるのがいわゆる「性転換手術」。ホルモン注射開始から1年以上が経過していること、18歳以上であることが手術を受ける要件となっています(高1の秋にカミングアウトしたのはここから逆算していった結果です)。日本では受けられる病院が少なく、かつ症例が少ない、術式が未熟等様々な問題があるためタイに渡航して手術を受けることが一般的。いくつかの方法から選択できるのですが、私が希望しているのは男性器を切除後S字結腸の一部を移植して女性器のようにするというものです。見た目上はほとんど生来のものと見分けがつかなくなるらしい。タイすごすぎる…。
 ただ、この性別適合手術でネックとなるのがそのダウンタイムです。術後数週間はえげつない(マジでえげつないらしい)痛みに耐えなければならず、またおよそ半年が経過するまでは穴が塞がるのを防ぐために太めの棒を毎日3~4時間入れていなければならないらしい。わたしが浪人を選択したのも、(戸籍変更の手続きが煩雑なことや後述する埋没をなるべく完璧にしたいことなど他にも理由はありますが)このダウンタイムで大学にろくに通えず留年してしまうのを避けるためです。トランスジェンダー、厳しいぜ…。

・社会への適合(埋没)

 受ける手術はこれでほとんど終了です。あとはFFSの2回目(下顎を削る)や豊胸も受けるつもりでいますが、あくまで女性として美しくなることが目的のためここでは紹介を省かせてください。
 このあと私が目指していくのが埋没です。埋没とは周りに元男性/女性であることを隠し、完全に本来の性別として生きていくこと。現在も例えば美容室などでは女性として扱われていますが、それだけでなくこれからできる知り合い全てに男性だったことを隠して生きていきたいと考えています。というのも、トランスであることを公表している人はどうしても生まれた性別のまま性別違和なく暮らしている人(シスジェンダーといいます)とはどうしても別の扱いを受けることになってしまう。社会的抑圧もそうですし、友人関係もそう。恋愛関係なんか最たる例じゃないでしょうか。だから、シスジェンダーと同じように幸せに暮らすためには埋没がほぼ必須なのです。
 仕草や言葉遣いはできるだけ直したつもりでいますが(どうしても男性として育てられた以上男性的な仕草や言葉遣いが身についてしまう)、まだ顔は絶対女の子!というほどはかわいくないし、きっと高校時代どうだった?みたいな話もうまく合わせられない。大学に入るまでのの1年か2年でそこを徹底的に叩き込み、大学進学後は完全に女性として生きていきたい所存です。幸せ、なりたいからね…。

わたしの決意表明

 ここまでそれほど紹介してこなかったけれど、トランスジェンダーが自認する性で生きていくことにはかなりの障壁がある。治療を大量に受けなければならないという身体的・金銭的負担はもちろんだし(手術全体だけでもプリウス1台分はかかっている 大抵の治療は保険非適応だし、名目上は保険が適応されることになっている国内での性転換手術も受ける条件である1年以上のホルモン注射を満たすとホルモン注射が保険非適用なことから混合診療の原則より保険が効かない 日本のトランスに関する制度はこのぐらい整っていない)、行政制度がトランスに対応しきれておらず身分証明書から「男」の文字を消せなかったりもする。SNS上ではそのアイデンティティそのものを否定するような言説が罷り通っているし、トランスであることを理由とした謂れのない社会的差別(ex:就職)は依然として存在する。かつて勇気を持ってトランスであることを公表し社会を変えてきた活動家たちのように、わたしにもこんな社会は間違っている、変えていかなければならないという思いはもちろんあって、一時期はトランスであることを公表して生きていこうとすら考えていた。でも、どれだけ努力しても個人が社会の変化に貢献できる量には限りがあって、というかおそらく価値観の浸透って歳月が果たす役割が大きいこともありわたしがこの世界をがらっと変えられるわけでは決してない。だから、トランスジェンダー当事者である以前にわたしはひとりの人間だから、いまでは埋没して個人としての幸福を追求したいと思っている。性格よくないかもね、こんな生き方

 毎日自分の身体が気持ち悪くて、鏡を見られなくて、男性として扱われることが辛かった。人に見られるのが嫌で外に出られなくなった時すらあったし、どれだけ努力しても決して「本物」の女性にはなれないと絶望して自死を考えたことだって何度もある。わたしは治療費を親が負担してくれ未成年のうちに治療にアクセスできるかなり恵まれた環境を生きている方のトランスで、でもそれを恵まれていると思ったことは一度もない。わたしはカミングアウトのときに「わたしが死ぬのと治療費を全部出すのといいか選んで」なんて言ったとんでもない親不孝者で、でもそれを間違ったことをしたとは思っていない。それはトランスジェンダー自体がめちゃめちゃな抑圧をされる呪われた先天的な属性だからで、それはわたしがまともに生きていくためには最低限必要なことだったから。わたしがこんなに苦しいのはわたしのせいでも親のせいでもなくて、きっと社会、あるいはこんな心の性で産み落とすと決めた神様だ。ある宗教ではこういった状況をchallenged、神に試されたひと なんて表現するらしいけど、さすがに人間ナメすぎだと思う。

 でも、ここまで頑張ったんだから、みんなが支えてくれていたから、ここで全部諦めて死ぬのはもったいないなと思っていて

 治療や差別、苦しみはこれまでもこれからも当然のようにあって、それにこの身体と肩書き(埋没ではあるけど)で就けない職業とかやれないこと、引け目を感じることなんて数えきれないほどたくさんある。だから、「普通」の人生を送ろうとしたってそれで享受できる幸せは確実に「普通」のもの未満だ。

 でも、ここまで頑張ったから、きっと周りより努力してきたから、そうやってようやく掴んだものが普通未満の幸せだったらあまりにも悔しいから

 だから、なるべく差別されないようにするためにも、大きな幸せを掴むためにも、わたしはもっと努力して社会的地位やら年収やらを手に入れなければいけない。きっと茨の道だけど頑張ります。ここまでやってきた以上、絶対後悔したくないから。

 Chu♡利己的でごめん

おわりに

 質問等あればコメントかDMでどうぞ。単なる興味からの○○ってどうしたの?といった質問でも喜んで返しますし、これ以降性転換を考えている当事者で具体的な体験談や病院名等が気になる人は捨て垢でもよいのでDM頂ければ相談乗ります。ぜんぜんごはんのお誘いとかでもいいです。
 また、もしトランスジェンダーを取り巻く問題に興味があれば『THE TRANSGENDER ISSUE』という本が論点が整理されておりおすすめです。知り合いなら貸せますのでそれもこっそり教えてくださいね。

それでは今回はこのあたりで。

幸せになります


つづき:

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