生まれてからずっと あたしにとって憧れだったそれを “生まれつき”持っている女性がいて しかし彼女はその価値を知らない 運命のいたずら､幸か不幸か あたしがそれを教えてしまって 彼女は今パニックの最中だ 女性として生きることは 女性に生まれていてさえも 容易なことではなかった

容姿以外に取り柄がなく 誰も自分の内面を見てくれない､といって 苦しんでいる女性がいるのは知ってる けど､やっぱり 女の身に生まれて いちばん大事なのは容姿だよ あたしの境遇では 『中途半端なパス度しか持てなかったら』 ほんとうに死ぬしかなくて 女性らしい容姿の獲得に命を賭け

性転換以前のことはほとんど思い出せないのだが､昨日知ったのは “彼”の望みは母親と縁を切ることで そのためにはどんな代償も引き受ける覚悟だった 性転換を契機に“彼”はこの世界から消滅 肉体はあたしに引き継がれたので 自殺ではない 記憶喪失して性別も変わったけど 生命だけは守った

若い女の子は可愛く思えるんだよ あたしからすれば可愛い後輩 でもダメだ､女同士ってめんどくさいね あたしからすれば単純な､明確なアドバイスさえも､彼女は聞く耳持たないだろう､あたしに嫉妬してるから こんな声で歌ってたら あたしはもう純然たる女性 女から女への嫉妬は避けられない身

別の生の記憶なのか 胸やお尻が膨らんでいくことも 血が出ることも 自分の身体が 女になってゆくのを 嫌だ､気持ち悪いと感じる感覚は 実感として分かる けれどもこの生においては 身体が女性化することも 胸の膨らみも 女であることが 無条件に嬉しい 奇形のはずの子宮があまりに貴重で

家系図が気持ち悪かった 子どもの頃からずっと 歴史書によく出てくる この世では重要な家系図なるものが どうしようもなく気持ち悪くて 自分がそこに組み込まれるのは 絶対にイヤだった 男児を産むのが使命､とか 想像を絶する気持ち悪さだ こんな世界にいたくない 生まれてきたくなかった

わたしの書いている文に トランス臭がまったくないのは 『女なんかに生まれたくなかった！』 と強く思っている､男の子 という捩れた位置に生まれたから 女性の持つ妊娠出産能力をオトコに悪用されるのが嫌で女の身には生まれず 自分の股間のちいさな棒 『このピンを外したら女性の姿に､､』