切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

いいかい、良くお聞き。

眠りの中、お前が憎からず思う者の声で、後ろから名前を呼ばれても、決して返事をしてはいけない。ましてや、振り返ったりしたら、お前は囚われて二度と戻っては来れない。

いいね、忘れてはいけないよ。大人になっても、眠る前には必ず、私が教えた事を思い出すんだよ。

子供の頃に、そう教えてくれたのは、母だったのか祖母だったのか、今ではもう覚えてはいない。

繰り返し繰り返し、教えら

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切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

星がめぐる微かな音のする、真夜中。

囚われたのは、私なのか、あなたなのか。

いにしえ、月の女神は穢土に棲まう男に恋をした。生まれては必ず死するさだめの人間の男に。

嘆く女神は希う、老いるを知らず死ぬるを知らぬ永のいのちを。

そうして男は繋がれた。

永遠のいのちと永遠の眠り、朽ちることも果てることも許されない抜け殻となって。

女神は夜ごと訪れる、愛しい男の眠る場所。折り重なる互いの熱を、

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切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

ゆらり、

大気が揺らぐ。

婀娜めきながら、篭る熱に陽炎が立つ。

震えるたびに形を失くす曖昧な輪郭は、何人も触れることを許さない。

呼ぶたび舌に甘い、真名。

それが、快楽の名前。

目を開けたまま見る、夢の具現。

追いかけても届かない、光ほのめく、偽りの焔(ほむら)。

切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

蜉蝣のように儚げでありながら、私が死しても尚、世界の頂点に君臨する不死の民。この世に一人残され、孤独に生きることを宿星とした、尽きるを知らぬ生命。

どこまでも道連れに出来るのならば、この身の内から引き裂かれるような、痛みにも似た感情から逃れられるのだろうか。

どうぞ、我を狼男にさせたまえ

男を食べる者にさせたまえ

女を食べる者にさせたまえ

子供を食べる者にさせたまえ

どうぞ、血を恵みた

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切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

秘密の呪文を教えよう。

そっと、盈月の晩に唱えてみるといい。

どうぞ、我を狼男にさせたまえ

男を食べる者にさせたまえ

女を食べる者にさせたまえ

子供を食べる者にさせたまえ

どうぞ、血を恵みたまえ、人の血を恵みたまえ

どうぞ、今夜それを恵みたまえ

偉大な狼の霊よ

我が心、我が身体、我が魂をすべて捧げよう…

煌々と輝く十五番目の月の許、狗の名残りの歯は鋭い牙となり、指先からは柔らか

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切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

うつおのふねで、構わない。それ以上は身にあまる。

この世のすべてが等価交換ならば、僕には等しく差し出せる対価が無い。

君の想いと釣り合うだけのものが、僕にはこの命以外に無い。

欲しいものならばある。

決して言葉になど出来はしないのだから、気づかなければ良かった。目を瞑り、耳を塞ぎ、心を鎖してしまえば、或いは、今まで通り幸せなままでいられたのかもしれない。

それでも、

僕には、欲しいもの

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