切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。

いいかい、良くお聞き。

眠りの中、お前が憎からず思う者の声で、後ろから名前を呼ばれても、決して返事をしてはいけない。ましてや、振り返ったりしたら、お前は囚われて二度と戻っては来れない。

いいね、忘れてはいけないよ。大人になっても、眠る前には必ず、私が教えた事を思い出すんだよ。

子供の頃に、そう教えてくれたのは、母だったのか祖母だったのか、今ではもう覚えてはいない。

繰り返し繰り返し、教えられて来たはずなのに。忘れるなと、念を押されたはずなのに。

私は返事をした。そして、振り向いた。

囚われると知っていて、そうした。


いや、違う。


囚われたくて、私は請われるままに振り向いた。

現では、決して伝えられない秘め事。

果てるその時、抱いて永眠ると決めた想いを、夢の中でなら伝えられる。

だから、愛おしいその声に罠だと知りながら答えた。


今なら言える。


Je te veux

お前が欲しい。


ここでなら、夢の中でなら、伝えられる。

私は、お前が欲しい…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?