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その6:つけ麺の攻略法

つけ麺がラーメン好事家のみならず、たまにしか外食しないという方にまで浸透して久しいです。にもかかわらず、未だに

「どうやって食べるのが正解なの?」
「いまいち良さが分からん」
「ラーメンの麺とスープを分けただけでしょ?」

といった旨の感想を、普段ラーメン・つけ麺を食べる機会が少ない友人から異口同音に聞きます。

そこで今回はズバリ、つけ麺の攻略法です。この1記事のみで、つけ麺に抱いていたモヤモヤが全てスッキリと晴れる、そんな内容を綴っていきます。せっかく作り手が一生懸命に作ってくれたつけ麺を、最大限に美味しく味わおうではありませんか。

まずは「あつもり」をやめよう

今回の記事はほぼコレに尽きると言っても過言ではありません。茹でた麺を冷水で締めて提供する「ひやもり」(冷盛、冷や盛り)、さらにそれを再度温め直して提供する「あつもり」(熱盛、熱盛り)のどちらかを選ばせてくれるお店が多いのですが、この「あつもり」をやめましょう。

大半のつけ麺用の麺は、「ひやもり」の状態で美味しくなるよう設計され、それに沿って製麺されます。「あつもり」専用に設計された麺でもない限り、「ひやもり」用の麺を温かい状態で食べることは、マズくて食べられないレベルじゃないとしても、美味しさはいくらか必然的に損なうのです。

あつもりマインドからの脱却

「ひやもり」の方が麺が美味しくなることは頭で理解できていても、「つけ汁が冷めたら美味しくない」という心理が働くのは理解できます。しかし、その固定観念はせっかくの未知なる美味しさとの出会いを妨げます。

冷めても美味しい、いや冷めるからこそ美味しい。そんなプレゼンを、つけ麺の生みの親と言われる山岸一雄さん(「東池袋大勝軒」創業者、故人)が、書籍「佐野実のラーメン革命 -麺は男、スープは女-」における佐野実さん(「支那そばや」創業者、故人)との対談の中でされています。以下に抜粋して引用します。

2,3回食べたらスープが冷めるから嫌い、という意見があるけど、これは全然わかってないね。私に言わせれば、冷めていく過程でさらに味わっていく、これが上手な食べ方。冷めるほどにうまさが出てくる。(原文ママ)

これに関して、私も強く同感です。というか、私なんかが同意してなくても、つけ麺の生みの親がおっしゃってるんだから、誰も言い返すことなんてできないよ!という感じもしますが、それでは「偏愛ラーメン学」らしくないので、これを紐解いていきます。

温度低下で変わる味の「感じ方」

つけ汁の温度が下がっても、つけ汁を構成する旨み成分のバランスは同じはずです。例えば豚骨スープ1:魚介スープ1の割合なら、提供時から食べ終わりまで比率が極端に変わることはないと考えられます。そうなると、山岸さんのおっしゃる「冷めるほどにうまさが出てくる」と感じられるのは何故なんでしょうか。

それは「五味」がそれぞれ異なる特性を持っているからです。五味とは、
・甘み
・旨み
・塩味(えんみ)
・酸味
・苦み

の5つです。「辛み」は味蕾細胞ではなく感覚細胞(痛覚や温覚)への刺激のため、五味には属しません。

五味のうち、甘み・旨み・苦みの3つは「分子」ですので、その運動は温度によって変化します。逆に塩味と酸味の2つはイオンなので、温度との関係性がほぼありません。そのため、先述の通り旨み成分のバランスが変わってなくても、味が変わったように感じるということが起こるのです。

一般的にラーメンのスープ・つけ麺のつけ汁は、他ジャンルの料理のスープ類よりも旨みの強度が高いです。スープ単体ではなく、中華麺を食べさせる力が要るため、必然的に高まっていったのだと考えられます。

そしてタレに醤油・塩などを使うことから、塩味の強度も高いです。とあるラーメン店主がスープとタレの関係を、自動車を例えにして「スープはエンジン排気量、タレはステアリング性能」といった旨の表現していました。つまりスープの特色を決めるのはタレ、当然それなりの強度を必要とします。他の要素も入っていますが、特にこの2要素が強いのが一般的です。

2段変化の料理だと捉える

温度で味の感じ方が変化する旨みと、変化しない塩味。その2要素を巧みに操ることで、麺を最初から最後まで美味しく食べさせる。山岸さんがこの理論を元につけ麺を開発したかどうかは分かりませんが、「冷めるほどにうまさが出てくる」理由の1つであると考えられます。

尚、私は多くのつけ麺を食べてきた経験から、つけ汁が温かい時と冷めた時とで「2段変化」する料理として捉えています。

温かい時:旨みが強いため、麺とつけ汁のバランスを楽しむ、言うなればラーメン的な要素が強い料理
冷めた時:塩味が強いため、その塩味が麺の甘みを引き立てる、ざる蕎麦・ざるうどん的な側面を楽しむ料理

実際にここ数ヶ月の間、可能な限りラーメンスープやつけ汁の温度を測ってみましたが、ラーメンのスープが最低55℃~最高67℃、つけ麺のつけ汁が最低52℃~最高57℃でした。そして食べ終えた後に再び測ると、ラーメンスープが50℃前後、つけ汁が40℃前後に収束するという結果でした。(小数点以下繰り上げ)

提供時にはいずれも温かいダシとして適正と言われる温度帯(諸説あり)の範囲内ですが、食べ終わった後のつけ汁は人肌程度の温度まで下がっていました。「つけ汁が冷めたら美味しくない」と思う方の大半は、ここに引っかかるのだと思います。

先述した2段変化のように、そもそもつけ汁が冷めた後は別の楽しみ方をする食べ物と捉えると、温度低下も愛おしく感じられるようになるのではないでしょうか。あつもりをやめるだけで、1度で2度楽しめる料理と出会える、そう思って頂けると嬉しいです。

麺の浸け具合を変えて楽しもう

冒頭で述べた通り「あつもり」をやめて欲しいというのが本稿の主題なので、ここからはオマケというか豆知識的なセクションです。主に初めて訪れる店で実践して頂くと効果がある内容です。

つけ麺は当然のことながら麺とつけ汁が別々の器で提供される料理です。つけ汁の中に麺をどれだけ浸すかは、食べ手が自由に決められます。そこで、せっかく自由なので、色々なパターンを試してみて欲しいのです。

麺の全長を浸せば、2段変化のくだりで述べたようにラーメン的な美味しさがあると思います。1/2程度にすると、ハッキリと麺の存在感が強まり、つけ汁は麺の補佐役といった位置付けになります。どのバランスで食べるのが最も自分にフィットしているのか、それを見つけてみるのも面白いのではないかと思います。

店によっては、つけ汁の濃度が相当濃いため、「ドボ浸け注意」的な旨の但し書きを掲示しているケースもあります。実際のところ、インパクトを楽しむためにひと口だけなら良いかも知れませんが、高濃度のつけ汁に毎回全量を浸していると、序盤~中盤でつけ汁がなくなる可能性もありますから、確かに要注意です。(恥ずかしながら実体験あり)

麺は箸を持つ側、つけ汁はその逆

最後はさらにオマケ中のオマケ、つけ汁と麺それぞれの器の位置の話です。店によりますが、つけ汁と麺をおぼん・トレーの類で1度に提供、つけ汁または麺が出来上がった方から先に提供、この2パターンが考えられます。

トレータイプの場合、仮に麺が右・つけ汁が左に配置された状態でトレーごと受け取ったとします。蕎麦を食べる際に蕎麦猪口を「箸を持たない方の手」で持つことと同様、つけ汁は箸を持たない方、必然的に麺が箸を持つ方の手に近い方が食べる時に便利です。

右利きで箸も右手で持つという方ならこれで問題ないんですが、左手で箸を持つ方には不便です。逆も然り。受け取った後、食べ始める前に箸を持つ方に麺を、逆につけ汁を配置しましょう。

出来上がった順タイプの場合は、提供される順番に関係なく、トレータイプの時と同じように対処しましょう。読むと当たり前のように感じるかと思いますが、わざわざ逆の配置をして、とても食べにくそうにしている方、幾度となく見てきたんです。

その度に、余程その場で声をかけようと思いましたが、「赤の他人に突然声をかけるな」「恥ずかしいから人前で言わないでくれ」「わざと食べにくくして楽しんでいるんだから邪魔しないでくれ」などの理由で殴り合いに発展すると思ったので、声をかけたことはありません。

(※タイトルや本文と写真のラーメン店とは一切関係ありません)

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