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星空の下のディスタンス

丸いオブジェ型の青色のベンチに
腰を預けて夜の公園で
ラッキーストライクを燻らす。
空を見上げてもボヤッとした月が
間抜けに浮かんでいるだけで、
何かを話しかけて来てくれたり
慰めてくれたり、明日の生き方を丁寧には
教えてくれそうもなかった。

大阪の片田舎で思春期を過ごした。
田舎という事もあり星が割と沢山見えた。
大きな分かりやすい夏の大三角形などは、
直ぐに点を結ぶ事が出来た。
その周りにも赤っぽい星や青白い星が
散らばっていた。
夏の夕方の空の奥の方がオレンジ色になり
グラデーションで段々と紺色になっていく
空に薄らと光る星が思春期の僕の
片想いをより一層苦しませた。

部活帰りに見た夕空をあの娘も
見ているだろうか。
もしも、見ていてくれたら同じ空の下で
薄らと光る星を共有が出来たという事実さえが
生じれば、それだけで何故か鳩尾の奥深い
ポカンと空いた穴が何だかギューっと
圧迫感を感じる。
不安でもなく嬉々としたモノでもなく
例えようのない感覚だ。
でも、決して悪い気はしなかった。

現在、住んでいる街は、
大阪でも繁華街に近い事もあり
夜空は吐き気を誘発するようなナオンの明かりで
星が中々見る事が出来ない。

思春期のあの言語化が出来ずに、
モヤモヤして、布団の中で1人で燃えて、
現実のあの娘とは乖離した
僕の中だけのあの娘と夜間飛行をする。
夜間飛行に疲れたたら、
公園のブランコに腰を掛けて、
バヤリースを飲みながら夜空の星を眺める。
ウォークマンでイヤフォンを片耳ずつ分け合って
GReeeeNの「オレンジ」を聴いたり
海援隊の「人として」を聴いたり
あの娘のオススメの
九州男の「地球の歩き方」を聴いた。

普段は出歩く時間では無い片田舎の夜の世界で、
星空の下、イヤフォンを分け合って、
お互いの好きな曲を聴き合う。
それだけで、僕は不思議とあの娘の全てを
知ったような気分になれた。

僕の夜間飛行はあっという間に終わりを迎える。
気がつくと、父親のお下がりの目覚まし時計で
朝を迎える。
いつもの着なれた制服に着替えて登校する。
あの娘は、昨日の夜間飛行の事は何一つとして
憶えていなかった。

その日の秋を知らせる真っ赤な夕日に
僕の恥辱や憎しみや、
やり切れなさや、悲しさといった類の
感情を逆撫でされた様な気がして、
心の底から自分自身が嫌いになった。

それでも今晩も明日もこれこら先、
あの娘が輝く星でなくなるまでは、
僕は夜間飛行を続けた。

思春期の恋は、
僕とあの娘だけでは、どうにもならない。
四季の特色で勘違いをする事がどれだけ
大切な事だったのかと何となく気が付いた。

最近は心身共に余裕がなくて、
破裂寸前まで来ている。
次、破裂したら僕は終わりでしょう。
僕の破裂は一体何億光年を経て、
次の少年に届くのだろうか。

みなさま今夜もお疲れ様でした。
どうか心穏やかに過ごし下さいませ。

野良龍太郎より

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