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泡沫

夜中の繁華街を覚束ない足取りで、
擦り抜けながら帰路につく。

時刻は0時を過ぎているにも関わらず
繁華街のクソみたいなネオンには、
街灯に貪る害虫の様に人間が群がっている。

「自分はこいつ達とは違う」
何の根拠もないが、そう思いながら
懸命に歩き続けた。
いや、そう思わないとクソみたいなネオンに
飲み込まれてしまい、
自分が自分でなくなってしまいそうだった。

最近は、忙しくない筈なのに
忙しない日常が、まるで惰性の様に過ぎて
新月と満月の差異にも気付けなくなっていた。

それなのに、ほんの僅かな刹那の一時の隙が
生まれてしまうと、
「一体自分は何をしているのか」と考えてしまう。
思考を巡らせれば巡らせるほど、
明確な説明は出来ない。
ふと明確な何かが浮かび上がってきたとしても
それは、泡沫。
僕が掴み取る前に消えてなくなるし、
触れる事が出来ても直ぐに弾けて消えてしまう。

家路につくまでの道のりで、
ラッキーストライクにいくら火を着けたのかすら
記憶には残っていない。
唯一記憶に残っているのは、
自分が吐き出した煙と意地の悪さの向こう側に
霞んで見える悶える自分の背中だけ。

憂鬱を降らすファフロツキーズは、
帰路につく僕の邪魔をした。
傘を持たない僕は、行き慣れた公園で
雨宿りをしながら最後のラッキーストライクに
火を着けた。

もう涙も溜息も弱音も出てこない。
五感が外部から圧迫されて、
今にでも僕は泡沫の様に
弾けて消えてしまいそうだった。

貴方の裸体が唯一、
僕の心を解き溶かす事が出来る。
そこにセックスやエロスや性的な類いの事は
決して含まれてはいない。
単純に人間としての温もりだけが存在する。
それが、貴方にとっては
都合の良い関係だったとしても僕は、
まだ、もう少しだけその温もりを頼りに
何とか玄関の扉を開けに行く。
きっとそれだけで良い。
寧ろそれだけの儚くてクソみたいな夜で良い。

けれど、今夜だけは一人で自分に浸りたい。
僕は我儘で弱いから。
そんな男にしかなれる事が出来ないから
エピフォンのエレアコをまるで、
マーク・ボランになった気分で掻き鳴らす。

27クラブは僕を認めてくれるのだろうか。
僕は悪魔と契約は出来ない。
悲しくて狼狽した。

さようならが出来るその日までは、
まだ道のりは長そうだ。

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