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シャワーヘッドを買い替えた話

デフォルトのシャワーヘッドを買い替えるとQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が爆上がりする、という話と、それに絡めて「シャワーヘッドおすすめ20選」の記事に溢れるネットメディアについて思うところなどを書きます。

シャワーヘッドが壊れた

少し前に、家のシャワーヘッドが壊れまして。

やむなく、一時的にデフォルトの備え付けシャワーヘッドに戻したけど、勢いないし、シャワーというよりは、どちらかと言うとホースの水をそのままかぶってる感じに近く、あまり快適でない。

節水効果もゼロ。さらに、手元でオフにできるボタンが無いので、止める時にいちいち屈まなくてはいけないので、ぎっくり腰の後遺症的な痛みがまだ残っていた当時の私にはクリティカルな問題で。

検索結果を席巻している「mybestインスパイア系」メディアとは?

「シャワーヘッド おすすめ」で検索すると、検索結果が大変なことになっている。

・シャワーヘッドのおすすめ人気ランキング10選
・【2019年版】シャワーヘッドのおすすめ20選。節水や美容にも…
・シャワーヘッド鉄板おすすめ人気ランキング10選【節水・水圧で…

10選20選はアタリマエ。2019年最新版。おすすめがランキングになった、似たようなフォーマットのサイトがたくさん出てきて選べない。

いわゆる「mybestインスパイア系」サイトの乱立によるものである。

「mybest」とは、SEO界隈では知らない人のいない、絶賛急成長中のWebメディア。

かつて全盛を誇った「キュレーションサイト」がDeNAのウェルク問題で次々と自主閉鎖に追い込まれて行く中、その勢いを奪うかのごとく急成長を遂げ、昨年8月時点で1500万UU、今は推定3000万PV/月ともいわれているサイトで。たぶんもっとある。

基本的には、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングにある商品ジャンルの「おすすめ人気ランキング20選」を作成し、商品ジャンルのキーワードで検索の上位表示を獲得し、アフィリエイト収益を得るのが基本モデル。

このmybestのモデルにインスパイアされて「雨後のたけのこ」のように出てきているサイトを「mybestインスパイア系」と言います。(ってか「mybestインスパイア系」という言葉は、今、私が勝手に命名しただけなので、検索すると、ラーメン二郎のインスパイア系のおすすめラーメン屋がわんさか出てきて、胃もたれしそうになる。)

「mybestインスパイア系」は、最初はアフィリエイター中心だったんだけど、ここ1~2年で、マイナビやカカクコム、gooやexite、サイバーエージェントのような「インターネットの雄」が次々と参入、小規模のアフィリエイトサイトも含めて、しのぎを削る戦いが繰り広げられている感じです。

mybestモデルの特筆すべき点の一つは、かつてキュレーションサイトで問題になった、コピペによる低品質コンテンツや無断の画像盗用などの問題が起こりにくいスキームになってる点。

商品をダイレクトに紹介しているので、Amazonなどに掲載されている商品情報をアソシエイトの契約に基づいて、違法になることなく画像や商品説明文を引用できる上に、サイト上のレビューなんかも参考にできます。

「シャワーヘッドソムリエ」みたいな専門家を立て監修してもらうことで、いわゆるE-A-Tと呼ばれるうちの権威性や信頼性なんかも担保できたり、ソムリエがインフルエンサーだったりすると双方にとってメリットあったり、商品も売れるし、ユーザーも選ぶ手がかりも得られるし、メーカーは商品紹介してもらえると嬉しいし、今の所、スキのないモデルだと思います。

一定数以上の選択肢を与えられると選べなくなる

で、シャワーヘッドに話を戻すと、mybestインスパイア系のサイトがたくさん検索結果に並ぶとユーザー的には、軽くめまい。そもそもシャワーヘッドなんて全部同じに見えるし。

人間、一定数以上の選択肢を与えると選べないので離脱する、というデータがあった気がしますが、私も完全に先延ばしに。ぎっくり腰の後遺症的な痛みもなくなりつつあったので、もういいかなと、忘れることに。

しかし、先日、しびれを切らした妻より、LINEで「これがいい」と、若干高めの美容シャワーヘッドがリンク付きで送られて来て、追い込まれた次第。(判断を誤った。)

これまで使っていたシャワーヘッドはこれ

そもそも、変更前はこれ使ってたんです。

手元で止められて、5段階調節。しかもお値段お手頃。

ただ、結局、5段階調節を喜んで使うのは最初だけで、数日で使わなくなるので無意味だったのと1年半くらいで壊れた。なので、調節なくてもいいから、渾身の1パターンを持つような同価格帯がいいかなーなんて思っていたけども、

妻からLINEで推奨されたのは、上記の10倍を軽く超えてくる価格の美容モデル。説明責任を果たしながら、適度な価格帯で着地させるという新しいミッションに。

結局、ほぼ思考停止で「お風呂のソムリエが愛用している」シャワーヘッドを買った

結果、検索結果の2位くらいにあった、こちらの記事で

「お風呂のソムリエが愛用しているのはこれ!」

とあったヤツにしました。

価格も最初に想定していた価格帯からは外れるものの、妻からのオーダーを考えれば、許容範囲。手元のストップボタンもある。デザインも安っぽくない。美容によさそうな雰囲気もある。

ゴールは達成!満足度も高い!

結果は成功で。水のキメが細かくて、気持ちが良い。まぁ、beforeが1,300円なので6倍の7800円モデルで満足度下がるほうが難しい。

妻のみならず、肌の弱い娘にも好評で、今の所ナイチョイだったという感じ。(月1でのカートリッジ取替が負担になりそうだけど。)

そういうわけで、シャワーヘッドに悩まれたら、こちらも選択肢の1つにすると良いのではないでしょうか。(自信はありません。)

ネットメディアの裏側を知ってても、「思うツボ」にハマりにいってしまう

と、ここまでがユーザ視点編。

「お風呂のソムリエが愛用しているのはこれ!」って、強いコピーだし、この記事全体で、ここに落としに行こうとしてるんじゃないか、ネットメディア側からすると「思うツボ」なんじゃないか、と思いつつ、

とはいえ、正直、あんまり興味もないシャワーヘッド選びにこれ以上、労力をかけたくない、めんどくさい、と半ば自ら望んで思考停止状態になって、購入へという結果に。

購入後は、比較対象は以前使っていた1/6の価格のモノなので、満足度は高く、3万円オーバーのヤツを使った場合の感想については、正直知りたくない。結果としては、満足できる買い物だったのではないかと。

ここからは、メディア運営者視点編として、先日読んだ本の学びを絡めながら、現時点で思うことを自分用のメモ代わりに残しておく。

キーワードは、経済合理性・表現の自由・医療の不確実性・思考停止・自己責任・社会的責任、このあたり。

経済合理性の強い引力

まず、ネットメディアは経済合理性をある程度優先せざるを得ない、という視点は重要。ボランティアではない。

どんなメディアも、売れなければ存続できません。この場合、売れるとは必ずしもお金をもらうことではなく、テレビやネットのように見られることも含みます。これは、影響力があるといい換えてもいいでしょう。メディアは影響力を元にした、特に日本では広告収入を主とするビジネスです。影響力がなくなれば、ビジネスが成立しなくなります。結果として、どんなメディアも、経済合理性により、売れるものを作ろうとします

メディアのみならず、全てのビジネスがそうだけども、経済合理性の持つ引力、ともすれば、経済合理性一本槍になりがちなくらい、強い引力を持ってる。ぼーっとしてると、この引力に思いっきり引っ張られてしまう。

PVを目指すと横に広げるしかなく「よくわかってない」情報を扱うしかなくなる

で、収益目標やそれに準ずるKPIを持ったネットメディア、特にSEOによるトラフィックを重視する場合に陥りがちな状況がこちら。

私は当時、人手不足から、営業やウェブ・マーケティングなどをするなんでも屋でした。特に、編集長になってからは、経営陣から現場に降りてくる売上目標を達成するために、いかにPVを上げるかに悪戦苦闘していました。そのため、デザインやプログラミングだけでなく、次第にビジネスマナーや、ライフハックといった内容にも手を出すようになっていました。 なぜかというと、特定の分野のキーワードというのは、数に限りがあるため、どこかでPVを取り尽くしてしまうものだからです。つまり、一つの分野で取れるPVには、上限があるのです。そのような中でPVを上げようとすれば、横に広げていくしかないわけです。しかし、そうすると自分たちでもよくわかっていない情報を扱うことになり、正確性が損なわれます。

ウェルク問題を糾弾する最初の提起をした筆者ですら、このように述べていて。

もしかしたら、WELQは私だったかもしれない、と。 よくわかっていない情報は、そもそも扱ってはいけないのです。

そう、ジャンルが違えば、私もWELQだった、というのは、ネットメディアを運営していてSEOにトラフィックを依存して、成長させることを重視していたあらゆる人に当てはまるのではないかと。

逆に、よくわかっている情報ほど、安易におすすめできなくなっていくジレンマ

一方で、よくわかっている情報ほど、扱いが難しかったりする。自身の専門領域で知見があればあるほど、一概には言えず、ケーズバイケースであることをよく知っているわけで。「おすすめ20選!」みたいな無責任な羅列ができてしまうのは、よくわからない分野であればこそ。

「医療の不確実性」という言葉があります。私が医学部に入って、医療倫理学の最初の授業で習ったものです。これは、医療者であれば、誰でも専門教育の初めに教わる基本で、簡単にいえば「医療に100%はない」という意味です。だから、病気を100%治すとか、防ぐ方法というのは、あり得ません。「ほぼ」100%ということはあるかもしれませんが、それでも「万が一」の可能性は否定できない。だから、医師はどんなに簡単な治療であっても、誠実であればあるほど「保証はできない」というしかないのです。

本来的には、選ぶ側の「自己責任」のはず

知らない分野は無責任に20選を作れて、知ってる分野だと知りすぎて一概には言えなくなる、ゆえに相対的には、よくわかってない人の無責任な20選が無責任なロジックとともに、ネットにあふれてしまう。

著者も健康や生命に関わらない内容であれば、自己責任で判断すべき、という見解だったり。

もし『 10 分で東大に合格する方法』なら、それを信じ込み、結果、受からなかった人がいたとして、自己責任といわれてしまうのでは。同様に、健康本の医療批判を信じ込み、医師の元に行かずに亡くなられた人がいても、それがどこまで出版社や著者の問題かは、難しい。読んだうえで(読者が[著者注])きちんと判断するべきでしょう、ということになる。  

人間「信じたいものを信じたいように信じる」ように出来ている

情報をもとに判断し、行動を起こすのは自己責任であり、受け手側の問題。とはいえ、人間は「信じたいものを信じたいように信じる」生き物で、操作する意図を持って発せられた情報を見抜けない人がいるのであれば、自己責任や表現の自由という言葉で正当化される問題ではないのかもしれない。

そもそも人間には「信じたいものを信じる」傾向があります。トランプ大統領誕生で注目された「ポスト・トゥルース」、つまり「客観的事実」が重視されず、感情に訴えかけるようにエンコーディングされた情報が流通し、社会が混乱する政治状況というのは、まさにそれを象徴しているのです。

ネットでの経済合理性を「正しさ」にあわせにいくことで、正しさに引力をもたせる

WELQ問題を経て、グーグルはアルゴリズムを思いっきり変えていて。それがユーザーにとってベストではないけれど、自分たちの経済合理性に沿うように操作しようという悪意を防ぐという意味では、現時点での最善解なのだと。そして、それこそがネットのよいところでもある。

グーグルの決断により、ネットでは経済合理性は「売れるから正しくないものを作る」ではなく、「正しくないと作っても売れない」という180度逆の方向に向かうことになりました。これまで、不正の追及というのは既存メディアでも多々、おこなわれてきており、その地力が新興メディアよりもよほど高いことは、疑いのない事実です。しかし、このように「経済合理性を逆転させる」というゲーム・チェンジができるのが、ネットの特徴であり、これまでの既存メディアにできなかったことでもある、といえるでしょう。このことにより、ネットでの情報発信に真っ当な工夫を凝らす動きも目につき始めています。

相互監視や通報で「相対的な正しさ」をアップデートしていく

このグーグルの動きは、WELQ問題を発端とする世論の流れを受けてのことであり、生活者含めた相互監視や通報によるアプローチがネットメディア、ひいては世の中を良くしていくための重要なアクションであると。

生活者もメディアを通じた情報を享受するだけでなく、メディアや行政、企業が暴走しないように、一定の関心を持つ必要がある。このように、行政や企業、メディア、権力者がそれぞれ、お互いが公正にその役割を果たしているかどうかを、チェックする。これが、西田氏の定義する「相互監視」です。 西田氏は「公正さが相対的なものである以上、このようなアプローチがより重視されるのではないか」と話します。

自身の倫理観と相互監視によって経済合理性をうまく働かせることで、良いコンテンツが正当に評価されていくような仕組み作りをするためには、自分自身が社会の参加者である自覚を持った行動が必要、という、なんだか政治と選挙みたいな結論になってしまったけど、世の中のシステムはそういう意味では現時点の妥当解なんだな、ということを再認識したり。

※今回は、9月15日(日)~9月22日(土)分の週報になります。









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