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#11『正欲』

読み終えた率直な感想は、ぐはって感じ。
今年の年明けに自分のテーマは「多様性への受容だ」と言っていたあの頃の自分がどれだけ浅はかだったのかと面食らってしまった。

多様性という言葉が、それとなく生活に浸透してきてる。普段の日常の中に発せられたとしても浮いてしまわない言葉になりつつある。自分の中でもなんとなく多様性とは「相手の気持ちを考えること」だと思っていた。

でもこの小説を読んでなんというかそんなに簡単に捉えていいものではなかったのではとかなり反省させられた。というか、もう一度考え直さなければいけないと思ったし、そんな簡単に答えを見つけ出せるものでもないものなんだと猛烈に反省した。

この小説には、人それぞれの「興奮するもの」と、いわゆる世間や社会の定義する「性的なもの」のズレの中で葛藤する登場人物たちの心情が描かれている。

ああ、こんなたった3行で表せるほど簡単なものじゃないし、自分の表現力の無さが書いてて嫌になる。
逆に朝井リョウさんはこの本の中で、このなんとも言えない引っかかっていた部分を見事なまでに表現してくれている。
朝井リョウさんの小説を読むたび、その時の心のモヤモヤを言葉にしてくれてありがとうという気持ちにさせられる。

この小説を読みながら、色々な思いやり考えが浮かんでは消え、もうぐちゃぐちゃになった。

多様性を受け入れましょうって言ってらなんでもアリじゃんかと思った。一人一人違うのだからそれを認めてみんな仲間外れにしないようにしていきましょう。なんて絶対に無理だと思った。そもそも自分の中に無いもの(価値観)を受け入れる余裕なんて自分の中にない。人は、わからないものに対してとてつもなく拒絶反応を示す生き物だ。だから「多様性を受け入れてますよー」なんてほざいてる奴は所詮、自分自身の今までの生きてきた中で想像できる範疇で、受け入れた気になっている。
(もっとも自分に言い聞かせてるようなもんだ。)

「“自分想像できる多様性だけ礼賛して秩序を整えた気に
なってそりゃ気持ちいいよな”」



もうこの言葉で浅はかな自分の考えをズタズタにされた。相手の気持ちを考えるなんて出来ないけど、その人の気持ちや立場を想像してあげる。でも結局は、その人が感じたことはその人しかわからない。くらいに考えてたけど、自分が全く受け入れられない価値観を目の前にされたらその人の立場を想像することなんてできるのだろうか。

自分が想像できるものなんてあくまでマジョリティの中のマイノリティくらいだ。いやそれすらもできていないかも。

そもそも相手の気持ちを想像してあげるなんて何様のつもりだ。お前はそんなに余裕のある人間か。
そんなに人のことを構ってやれることほど人間できてんのか。
なんて自分で突っ込んでしまうけど、じゃあどうやって分かりまえばいいのだろうか。
想像だけして相手が実は嫌な気持ちになっていたらどうしたらいいのだろうか。
相手のことなんてわからない。絶対に分かり合えない。という前提のもと話あえば少しはマシになるんだろうか…

そして読み進めて思ったのは、何より怖いのが、マイノリティを排除しようとする気持ちとマジョリティの価値観をマイノリティに押しつけて変えてしまおうとする気持ちだ。

少数派は、変だから消してしまおう。
少数派は、おかしいから形を変えて多数派に入れてしまおう。

おうおう、凄いことになるぞ。でもこんな考えが思いつくってことは、そんなことが俺の人生の中で繰り返し色々なところでされてきたということだ。
所詮、俺の想像できる範疇なんてそんなもんだ。

でも、多様性って言葉を使えば、そのマイノリティをどうにかしようとするマジョリティ軍だって受け入れなきゃいけなくなるのかな。だってみんな違ってみんないいんでしょ。
こんなの屁理屈かもしれないけど、多様性ってのはそんだけ汎用性の高い言葉なのかもしれない。

この小説は、色んな角度から鋭利に切り裂いてきた気がする。

「多様性を礼賛してマイノリティを助けてあげてる」とか思ってるそこのお前!
お前が想像できない世界があることをもっと知れ!礼賛してあげてるなんてお前は何様なんだ?

「社会のバグはどこかに隔離しておけ」と自分がわからないものにすぐさま拒絶反応を示し自分の身だけを案じ、変わろうとしないそこのお前!
年齢という武器しか持ってないくせに偉そうになった気でいるんじゃねぇぞ!おめーみてーなやつがなかなか変わらないから生きにくくなってる人が増えてんだぞ!

「多様性ってなにそれ、かっこいいの」とかスカしてるそこのお前!スカして自分は一歩引いて全力は見せません。点数つけてもらうよな土俵にすら立たねーで外野からギャーギャー言ってんじゃねーぞ。一生評価され続けなきゃ生きていけないことをもう少し理解しろ。

「俺はマイノリティだからどんなに頑張っても幸福にはなれない」とか悲劇のヒロインツラしてるお前!苦しみは全部わからないけど、苦しいのお前だけだと思うなよ。この世は全て自己責任だからな!そのまま悲劇のヒロインでいたいならいいけどよ、周りを巻き込むな!そして周りの人が垂らしてくれた蜘蛛の糸を掴むか掴まないかで大きく未来は変わるかも知れないんだぞ!

「これ、いい感じに書けてるんじゃね?」とか思ってるこの俺よ!ちょっと本読んだくらいで人よりも思慮深いとか思ってんじゃねーよ。おめーは、まだ何にもないぞ。何者でもないぞ。ただのバイトリーダーだぞ!社員なのに舐められて、上にはヘコヘコして、評価されることを怖がって、自分に被害がないように保険はって、見て見ぬフリをして、面倒ことは人に任せて、楽ばっかしようとして、陰で悪口言って、人によって態度を変えて、俺がいないと回らないと思いやがって!!!!


…感じてしまうことは誰も支配できない。
だって感じてしまうのだから。

その感じたことを思うがままに話せるような人にどれだけ巡り会えるかが「明日生き延びたい」と思えるかになのかも知れない。

ぐるぐるぐるぐるぐる…考えて書いてため息ついてとぼとぼ歩いて今日も帰る。

ああ、明日生き延びたいといつまで思えるかな。

朝井リョウ 「正欲」 一生の課題図書になりそうです。

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