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発達支援の質向上の本質って何だろう? – こども家庭庁と学童保育と放課後デイ–


こども家庭庁が2023年4月から業務を本格的に開始しました。少子化対策、虐待や貧困、いじめやヤングケアラーなど多種多様な社会課題に取り組む専門省庁です。幼稚園や小中学校教育については引き続き文科省の管轄となり、当初の思惑通りとはいかないスタートとなったようですが、放課後等デイサービスや放課後児童クラブはこども家庭庁の所管となりました。

こども家庭庁が取り組む大きな課題の一つにこどもたちの放課後の過ごし方があります。2023年12月27日付日本経済新聞によると、同庁は同年5月時点の放課後児童クラブの待機児童が1万6276人で、前年より1096人増加したと発表しました。また、利用人数は145万7384人で過去最高を更新したとのことです。増加の背景にはコロナ禍が収まり、親の働き控えが解消されたことがあるようです。放課後児童クラブは共働き家庭の子どもなどに家庭に代わる居場所を提供する福祉施策で、すでに厚労省からこども家庭庁に所管が変更されました。

国は放課後デイから学童保育にシフトしようとしているのだろうか

いずれにしても、放課後児童クラブや放課後子供教室など、いわゆる学童保育やアフタースクールは今後も不足することが予測されています。子どもが小学校に上がると預け先がなくなることで、保護者が就労を断念することもあることは社会問題です(小一の壁)。安心・安全に遊ぶ場所が地域にすくなった現代では、就労しているかいないかで子どもの居場所が左右されることはそもそも不公平に見えますし、子どもの立場からすれば安心安全な居場所は親が働いていようがいまいが必要です。

学童保育(アフタースクール)の数が増えない理由は様々なことが考えられますが、一つは場所があります。もし、学校が民間に対して積極的に教室を開放すれば、放課後の待機児童は減るかもしれません。学校はセキュリティ面を重視するでしょうから閉鎖的、と決めつけてはいけませんが、学校を地域の社会資源としてフル活用することは今後さらに必要になってくるような気がします。こども家庭庁は公表している「放課後児童クラブパッケージ」で、賃借料補助を増額するなどの意向を示しています。

インクルーシブ教育と放課後デイは相反?

2024年の報酬改定に向けた資料に掲載されている今後の障害児支援の方向性を読み解くと、行政としては小学生の放課後の居場所として、どうやら放課後児童クラブや保育所等訪問支援などをメインに考えているようです。国連が提唱し、日本が支持する障害者権利条約ではインクルーシブ教育の必要性が叫ばれていることも根底にあるでしょう。放課後等デイサービスの考え方自体、インクルーシブの逆を行っているとも考えられます。インクルーシブ教育が進めば、放課後等デイサービスは不要なのでしょうか。私はそうは思いません。

支援が必要な子どもには支援を

実際、文部科学省が2022年12月に行なった「通常学級に在籍する特別な教育的配慮を必要とする児童生徒に関する調査」では、対人関係や学習に著しい困難を示す生徒に対し、

・約80%は個別支援計画なし
・約80%は加配の支援員なし
・約70%は授業外での支援なし
・約40%は担任の配慮なし

という結果が出ています(こども発達支援協会資料より)。

インクルーシブ教育は必要なのでしょうが、対人関係や学習に著しい困難を示している生徒に支援が要らないかといえばそうではありません。私は、支援は必要だと思います。いわゆる定型発達の子どもたちとの対人コミュニケーションを取るためとか、将来社会で生きていくためとか、そういう支援も大事ですが、子どもたち一人ひとりが幸せに輝いて生きていくための支援という観点はもっと大事です。

必要な支援とはなんだろう?発達支援の本質とはなんだろう?

一般社団法人こども発達支援協会の前田智行氏のセミナーで、海外のある二つの研究が紹介されていました。一つは支援者が発達支援に必要だと思うニーズで、もう一つが当事者たちのニーズです。

支援者が考えるニーズのトップ3:
・社会適応
・行動技能
・社会技能
→社会性の障害と捉えている?

Bagatell, N. (2010). From cure to community: Transforming notions of autism. Ethos, 38,

当事者のニーズトップ4
・アレルギー
・意図しない体の動き
・胃腸の不調
・感覚に対する過敏
→社会との関わりより体のことが気になっている?

Bagatell, N. (2010). From cure to community: Transforming notions of autism. Ethos, 38,

このように、支援者側は当事者は社会に適応するための支援にニーズあると考えているのに対し、当事者の実際のニーズは自分の体に関することがほとんどです。

数ある研究の中の一部ですし、もちろんこの考えだけが正しいというわけではないでしょう。しかし、よく考えてみれば、人間なのですから自分の体のことが気になって当然です。ASDやADHDのひとにアレルギーや胃腸の機能が弱い場合の割合が多いという研究もあります。私たちは彼ら彼女らが大人になったときのために、アレルギー対策や胃腸の調子が悪いなと思った時の対処の仕方などの基本的なことを教えたり、病院や周りの人への体調に対することのヘルプの出し方などを伝える必要がありそうです。それこそ、日焼けのことやニキビのことや、成長に応じて発現する自分の体の変化などが気になるのではないでしょうか。意図しない体の動きや感覚の対する過敏は、今後当社で進める理学療法チームなどで研究の余地はありそうです。

社会適応も大事。でも、子どもたちや利用者さん目線で、体のことも含めて、必要とされていることは何なのかをあらためて問いながら支援する。子どもたちや利用者さんが安心安全に(うまく周りの支援を受けながら)生きていく。発達支援の質向上の本質はそこなのかもしれません。

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