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【劇評286】觀玄改め、八代目新之助の『毛抜』は、荒事の本質に届いていた。

 堀越勸玄は、ひとかどの役者へと進み始めた。

 十二月の歌舞伎座は、八代目市川新之助襲名、初舞台の演目として歌舞伎十八番の内『毛抜』が選ばれた。新之助は、弱冠九歳。大らかな荒事ではあるし、家の藝とはいえ、役と本人にあまりにも落差があるのではないか。演目と配役が発表されたとき、危ぶむ声があがった。

 現実の舞台を観て、いらぬ取り越し苦労だとわかった、新之助は、現在ある力を振り絞りこの役に取り組んでいる。その誠実さに胸を打たれた。
 以前、故十代目坂東三津五郎の聞書きをした。そのなかで三津五郎は、『矢の根』と比較して「荒事のなかでも『毛抜』の場合は、もう一つむずかしいのです」と語りはじめている。

 巨大な磁石の力で、姫の髪飾りに作用して、髪の毛が逆立っている事件を、新之助の粂寺弾正が解決する筋立てである。
「荒唐無稽といえば、荒唐無稽な理屈なのですが、弾正は『名探偵コナン』のように事件を解決していきます。でもその探偵ぶりが理知的に見えたら、弾正は小さくなってしまうんですよ。あくまで荒事の精神で、解決していかないとだめなのです」(坂東三津五郎歌舞伎の愉しみ 岩波現代文庫))
と、『毛抜』の本質を言い当てている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。