【劇評322】玲瓏たる玉三郎演出の『天守物語』は、本年の突出した収獲となった。
透徹した美意識は、どこへ辿り着くのか。
泉鏡花作、坂東玉三郎演出の『天守物語』を観て、この稀代の歌舞伎演出家が、絢爛たる言葉の競演に、削ぎに削いだ美術によって、独自の時空を作っていることに感嘆した。
鏡花の生前には上演されていないこの戯曲は、レーゼドラマ、読む戯曲としてもすぐれている。特に幕開き、富姫の侍女、それぞれが、萩、女郎花、桔梗、撫子、葛と植物の名を持つ女たちが、秋草釣りを楽しむ件は、狂言綺語の応酬であり、白露を餌にするとの台詞によって、この芝居の幻想性は、