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【劇評277】上方と江戸。語りの芸をみせる鴈治郎、幸四郎の『祗園づくし』

 語りの芸を観た。

 十月歌舞伎座第二部は、なんといっても『祗園恋づくし』である。劇作の名手、小幡欣治が、四代目坂田藤十郎(当時、中村鴈治郎)と十八代目中村勘三郎にあてて書いた芝居で、上方の言葉と江戸の言葉が正面からぶつかりあう。今回は、現・鴈治郎と幸四郎の組み合わせ。京都の茶道具屋のあるじ大津屋次郎八を鴈治郎が、江戸の指物師留五郎を幸四郎が演じて舞台がはずむ。

 まず、下女のお綱(鴈之助)とお千代(芝のぶ)のやりとりが成熟していて、巧みに書かれた筋売りによって、今から何が起こるのかを期待させる。
 この芝居の趣向は、鴈治郎が次郎八の女房おつぎを、幸四郎が次郎八が夢中になっている祗園の芸妓染香を兼ねるところにある。単に早替りの喜劇に終わらない。嫉妬と愛憎のからむ真を描いた戯曲を、舞台の役者も観客席のお客が、ともに楽しんで、一体感が生まれた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。