【劇評245】菊之助、勘九郎。哀惜こもる『ぢいさんばあさん』。
目を瞠らせるスペクタクルばかりが歌舞伎ではない。
台詞を大切にした世話物が観たいと思っていたところ、十二月大歌舞伎の第二部に、『ぢいさんばあさん』を見つけて嬉しくなった。
森鴎外の原作、宇野信夫の作・演出だけれども、さすがに芝居巧者の宇野信夫だけあって、ある意味では荒唐無稽な話でありながら、観客の涙を誘う仕立てになっている。役者にとっては、宇野が作った虚構を、いかに活き活きと見せるかが課題となる。
まずは、若き日の美濃部伊織(勘九郎)とるん(菊之助)の初々しい若夫婦ぶりを見せる。
はじめはるんと実の弟宮重久右衛門(歌昇)のやりとりから始まる。短気のために同僚と喧嘩沙汰を起こした弟を、るんが諫める件りだが、菊之助、歌昇、ともに一本調子で曲がない。
菊之助は弟を叱りつけるばかりで、実弟への愛情が見えない。歌昇はまっすぐな気性を強調するばかりで、反省の色がない。単に台本の表面で芝居を作るのではなく、姉弟の深い結びつきを描きたい。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。