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【劇評272】幸四郎、勘九郎、猿之助の役者が生きる第二部。

 八月納涼歌舞伎第二部は、幸四郎、勘九郎の役者で見せる『安政奇聞佃夜嵐』(古河新水作、巌谷槇一脚色 今井豊茂補綴・演出)。

 明治の新作歌舞伎だが、異色なことに、石川島監獄に入れられた自由民系運動家と大久保利通の暗殺者の脱獄が背景となっている。

 上演例が少ないのも、むべなるかな。

 ぐっと興味を誘うのは、序幕第二場の佃島寄場構外である。盗みの罪で投獄されている青木貞治郎(幸四郎)、神谷玄蔵(勘九郎)が、寄場を囲む海を泳ぎ渡る場面が、滅法おもしろい。


 このふたりの友情が、かりそめのものだとわかってからは、人物と物語は流転していく。
 笛吹川船頭儀兵衛住居の場では、熱を出した子をめぐって、彌十郎の船頭、米吉の女房おさよの情愛のこもったやりとりが見せ場となる。
 彌十郎は、一徹なおやじとみせて、深い情愛がある。米吉は、過去のある女房を見せるには、まだ時間がかかるだろう。ひとつひとつの仕草を丁寧に見せていく姿勢に好感が持てる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。