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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2024年2月の記事一覧

【劇評329】勘九郎、長三郎の『連獅子』。名人、藤舎名生、裂帛の笛に支えられ、難曲を見事に踊り抜いた。六枚。

【劇評329】勘九郎、長三郎の『連獅子』。名人、藤舎名生、裂帛の笛に支えられ、難曲を見事に踊り抜いた。六枚。

 勘三郎のDNAが確実に、勘太郎、長三郎の世代にまで受け継がれている。そう確かに思わせたのが、十八世十三回忌追善の三月大歌舞伎、夜の部だった。

 まずは、七之助の出雲のお国、勘太郎に猿若による『猿若江戸の初櫓』(田中青磁作)。昭和六十年に創作された舞踊劇だが、江戸歌舞伎の創始者、中村座の座元、初世中村勘三郎をめぐって、その事跡をたどる。

 七之助、勘太郎の出から、七三でのこなしを観るにつけても

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伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。

伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。

 伊藤英明のスタンリーは、沢尻エリカのブランチと対になっている。
 粗暴で野性に満ちているかに見えて、その奥には、恐ろしいまでに傷つきやすい心がある。テネシー・ウィリアムズは、ブランチを自分の分身としただけではない。スタンリーもまた、劇詩人のもうひとりの分身なのだった。

 『欲望という名の電車』を観ているあいだ中、そんなささくれだった男が気になっていた。演出の鄭義信は、伊藤のスタンリーに、聖痕を

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沢尻エリカのブランチを観た。その日、彼女は、新国立劇場の祭司となった。

沢尻エリカのブランチを観た。その日、彼女は、新国立劇場の祭司となった。

 テネシー・ウィリアムズ作 鄭義信演出の『欲望という名の電車』を観た。新国立劇場中劇場が、完全に満席な状態で、満員御礼だった。
 数は力であるという考えに、従えば、この沢尻エリカ復帰プロジェクトは、ビジネスとして圧倒的な成功を収めたことになる。

 あらためて、思ったのは、テネシー・ウィリアムズの戯曲の強さである。どれほど、恣意的な改変を行っても、構造は揺るがない。むしろ、その改変が思いつきに見え

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