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本棚に人生がある。

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思えば、本ばかり読んでいた。幼い頃からひとりの時間が多かったので、他にすることがなかったからで、こんな人生になってしまった。けれど、もちろん後悔などない。今日も、明日も、明後日も…
短くてサクッと読める本についてのよしなしごとを書いていきます。ぴしっとした書評、のんびりした随想が…
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記事一覧

河合祥一郎訳の『新訳 ドリアン・グレイの肖像』は、クリアな世界を構築する。

 すっかり忘れていたのだけれども、オスカー・ワイルドは、中学生時代に愛読した。今、思えば…

長谷部浩
7日前
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【リファレンス1】イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』。原典のあれこれ。

  観劇をきっかけに、読書の幅を広げるのは楽しいですね。  イキウメの『奇ッ怪 小泉八雲…

長谷部浩
2週間前
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日本民藝館を暑い午後に訪ねた

 駒場にある日本民藝館に行ってきた。  三十年振りかもしれない。  簡素な佇まいは、以前と…

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長谷部浩
1か月前
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【劇評家の仕事1】 野田秀樹の『正三角関係』を観る前に、『カラマーゾフの兄弟』を…

 劇場に行く前に、戯曲を読むかどうか。  これはなかなかむずかしい選択です。  もっとも…

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長谷部浩
2か月前
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河合祥一郎による『新訳 サロメ』(オスカー・ワイルド)を読み解く楽しみ。

 翻訳家・東京大学教授の河合祥一郎さんから、オスカー・ワイルドの『新訳 サロメ』をご恵贈…

長谷部浩
3か月前
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松岡和子の人生に迫る『逃げても、逃げてもシェイクスピア』

二○二一年五月、松岡和子は、『終わりよければすべてよし』を筑摩書房から刊行し、シェイクス…

長谷部浩
3か月前
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九段理江『東京都同情塔』の挑発。

 友人の編集者に勧められて、九段理江『東京都同情塔』を読んだ。 ザハ・ハディッドの新国立競技場が建っていた仮想未来を描いた作品で、「「犯罪者」に対するこれまでの偏見や差別を、まずは言葉から変えていく」旗印のもとに、都心に豪華なタワーマンションが構想される物語だった。  こうしたディストピアアイデアとしては、松尾スズキが、ずいぶんまえに、覚醒剤の町を書いていたのを思い出した。全財産を寄付すると、覚醒剤が無限に供給されるポンプを装着できる。ただ、その町から出ることはできない設定

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永井紗耶子の『木挽町のあだ討ち』は、芝居町の人々の生をひととき輝かせる。

 すでにお読みになった方も多いと思う。  永井紗耶子の『木挽町のあだ討ち』は、「藪の中」…

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長谷部浩
1年前
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伊丹十三監督の別荘で、ルポルタージュの根本を教わった。

 伊丹十三監督の作品が忘れられない。湯河原にあった別荘を利用して撮った初監督作品『お葬式…

長谷部浩
1年前
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三島由紀夫が「奔馬」の装幀に選んだ書について思うこと。

 昨日、勤務先の講義に、ゲストを迎えた。先端芸術表現専攻の一期生で、ベルリンで書家として…

長谷部浩
1年前
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デヴィッド・バーンの『音楽のはたらき』。私たちの舞台は「ショー」なんだ。

 怜悧なビジネスパーソンであり、アート分野の革命家でもある。  デヴィッド・バーンの『音…

長谷部浩
1年前
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京都にある佐々木能衣装を訪ねる幸せ。

 京都市上京区裏門通り中立売上ル神在家町二○二番地。  ある歌舞伎役者の紹介を得て、京都…

長谷部浩
1年前
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ドナルド・キーンの食卓

「演芸画報」以来の長い歴史を受け継いでいた「演劇界」という雑誌があった。 その題名とはう…

長谷部浩
1年前
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野田秀樹と対談していた脳科学者中野信子の『脳の闇』を読んでみた。本音が炸裂する。

『兎、波を走る』のパンフレットで野田秀樹と対談していた脳科学者中野信子の新刊を求めてきた。すぱっと小気味のよい断言にひかれたからだ。  題して『脳の闇』。現代人の不安や恐怖は、脳の病理であるとして捉える本で、著者の個人的な体験を踏まえているので、説得力がある。  ただ、説得力がありすぎるのも問題で、脳の機能を科学的に解析できるという考えは、一歩誤ると、危険なのではないかと考えさせられた。  どうも日本の論壇には、こうした脳科学者に、自分たちのやっかいな人生を読み解いてほ