クリエイティブリーダーシップ特論:2021年第3回 森一貴氏

この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコースの授業である、クリエイティブリーダシップ特論の内容をまとめたものです。
 2021年第3回(2021年4月26日)では、森一貴さんから「社会に自由と寛容をつくる」についてお話を伺いました。

森一貴氏について

 森一貴さんは、東京大学を卒業後、大手コンサルを経て鯖江市「ゆるい移住」の活動を機に福井県鯖江市に移住している。コンセプトとして「社会に自由と寛容をつくる」を掲げ、フリーのプロジェクトマネージャー/サービスデザイナーとして、人々の「できる」という確信=Capabilityを引き出す活動を展開している。職人に出会いものづくりを知る、福井のものづくりの祭典「RENEW」事務局長であり、半年間家賃無料でゆるく住んでみる全国連携移住事業「ゆるい移住全国版」プロデューサーでもある。鯖江市にてシェアハウスを運営している。

・2015~         福井のものづくりの祭典「RENEW」 
                        プロジェクトマネージャーおよび事務局長(2017~)
・2018~         3 軒のシェアハウスの明るい家主
・2019            田舎フリーランス養成講座 鯖江会場・初代統括
・2018~2019 ゆるい移住全国版 元プロデューサー
・2018~2019 生き方見本市 HOKURIKU(現・生き博)
                        プロジェクトマネージャーおよび初代事務局長
・2016~2019 探究型学習塾ハルキャンパス元塾長

「社会に自由と寛容をつくる」とは…

 森さんは「社会に自由と寛容をつくる」を実現するため、以下3点に注目していることである。

その① 「幸福」とはなにか?/「自由」とはなにか?
・幸福は一意に定義できない
・多様な選択肢およびそれを可能にする文化とシステムが重要
 =「できるという確信」(ref. Amartya Sen)

その② 幸福な社会はいかに実現可能か?
人が「選択肢をつくる」ことには限界がある
→「選択肢をつくる」という行為そのものを民主化する必要がある
 ※民主化=誰でもできる
→政府/企業が能力をひらく必要がある(ref. Ivan Illich)

その③ 私たちの役割とはなにか?
・私たちの役割は、「人々のデザイン能力をエンパワーしていくこと」
・デザイン能力とは自分たち自身で考え、決定し、生み出していく能力のこと
 (ref. Ezio Manzini)

「できるという確信」のデザインとは…

 森さんが重要だと思うこととして、「人々が、社会を変えていけるような社会をつくること」があり、そのためには「できるという確信」のデザインがポイントとなるとのことである。
 これまでの社会モデルは、専門家や権力者が政策、都市、プロダクトやサービスを作り、ユーザー(市民)に提供するものであった。今後のモデルは、人々が欲しいものを自分たち自身で生み出していくのである。その際、専門家や為政者、企業などのプレイヤーも欠かせず、主な役割は次のようなものである。
・人々が社会を変えやすいシステムを構築すること
・人々が社会を変えるプロセスを支援するファシリテーター(教育者)になること

 森さんは、今後のモデルについて、「つくることの民主化」という言葉も紹介していた。それは、個人もしくは組織が、何かを変える能力を持つことを後押しすることである。森さんの事例として、「RENEW」、「ゆるい移住」、「ハルキャンパス」また「シェアハウス」の紹介があった。森さんは、これらの活動を通じて、「できるという確信」を後押しをしてきたのである。

「つくることの民主化」の具体例とは…

RENEW/
現地(産地)の人々が「まだやれるかもしれない」、「何かできるかもしれない」と確信できることで、持続的で内発的な動機のデザイン(=産地のエンパワメント)をする活動である。年に3日間、対象地域の工房を一斉開放し、来場者が工房見学やWSを通じて職人の技や想いを体験するイベントである。

ゆるい移住/
半年間家賃無料にて、日本全国5都市に住める体験移住プログラムであり、人生を模索できる余白のデザインを目指している。このプログラムでは、自分自身の生き方を自分たち自身で構築していく。

ハルキャンパス/
子どもたちのやりたいことを、ともに実現する探求型学習塾であり、ほしい未来を自分でつくる人を育てることを目指すものである。

シェアハウス/
空間に関わる人々が主となれるよう、「主客融解のデザイン」を試みる活動である。「主客融解のデザイン」とは、人が集う場において、主(=提供者)と客(=受け手)の二項対立を崩し、人々が主体的に関わる場をデザインすることである。

今後の活動について…

 森さんのやりたいことは以下とのことであり、「社会に自由と寛容をつくる」というコンセプトの実践の場を広げいていくとのことである。個人的にはどれも興味がある領域であり、特に「intangible領域」というものに関心が湧いた。
 ・intangible領域へのアナーキズムのインストール
  cf. リレーションシップアナーキー
 ・Embedded Education = まなびのデザイン
 ・よわいデザイン

授業にて特に印象深いことは...

 森一貴さんの活動の経緯がとても印象深かった。森さんは「ロジカルシンキング」へ虜となり、移住を通じて「自分でつくる」ことを始め、そして、「できるという確信」のデザインへと活動を広げてきた。その背景には、森さんの人柄や努力があるとは思われるが、「ロジカルシンキング」が契機というところが私のキャリアとも通じるところがあり、学ぶところが多かった。質問にて、森さんへ活動の継続性の確保について伺ったところ、お金がなくてもやりたいと思えることが大切であり、面白いという思いがきっかけのことが多い、とのことであった。最近、「ロジカルシンキング」はいまの時代に合致していない、という意見を聞くことがある。さらに極端だとMBAをネガティブに捉える声を聞くこともある。私は、学問や物事の観点において良し悪しはなく、それらを極めてプロとなること自体は問題ないと考えている。今回の授業を通じて、どのような道を歩もうが、自らが面白いと思うか、主体性を持てるか、そして日々の選択が社会にどう影響するか、自分の周りをどう変えるのか、という考えにもとづき自分の芯(旗)を持つことが重要であると思った。そして、私も「できるという確信」を積み重ねていきたい。

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