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【ミニ社長塾 第15講】「付加価値のつくりかた」について、キーエンスの事例を見てみましょう!

おつかれさまです。
中小企業診断士で、社長の後継者に【徹底伴走】するコンサルタントの長谷川です。

元キーエンスの田尻望氏が書かれた「付加価値のつくりかた」という書籍をベースに、前回は「付加価値」についての話をさせていただきました。

今回は前回の続きで、書籍のなかにも書かれています「キーエンス」に根付く文化から「付加価値のつくりかた」を見ていきたいと思います。

ミニ社長塾の第15講、スタートです!

1.付加価値創造企業「キーエンス」とは

まず、皆さんは「キーエンス」という会社はご存じでしょうか?

キーエンスの事業内容は「センサ、測定器、画像処理機器、制御・計測機器、研究・開発用 解析機器、ビジネス情報機器」で、連結での従業員数が9千人ほどで、世界46か国に230の拠点を持つ大企業です。

そんなキーエンスですが、多くの方は給料が良いというイメージがあると思います。「キーエンス」とググれば二言目には「年収」というくらいです。

実際に社員の平均給与が2,000万円を超えているそうで、「30歳で家が建ち、40歳でほにゃらら……」という都市伝説を学生時代にはよく耳にしていました。私が就職活動をしていた12,13年ほど前には、高年収・激務の先入観が就活市場を独り歩きしていました。

※私は前職が化粧品会社の研究員でしたが、その前の学生時代は工学部→工学研究科とバリバリの理系でして、それこそキーエンスの検査装置には大変お世話になっていました。

そこで皆さんの疑問は「なぜ、そんなに給料が良いの?」というところで、その理由こそが「企業そのものが高い収益を上げているから」です。

※どのくらい高い収益なのかと言いますと、営業利益率は2022年3月度で55.4%! 書籍によると一人当たりの営業利益額は1億円超え! だそうです。

この高い収益を実現できているのは「営業の教育がキビシイ」や「営業の仕組みがスゴイ」といった表面的なものではなく、営業以外の方々も含めて社員一人一人がお客様に対して、より付加価値の大きい提案を行える構造になっていること、が挙げられます。

そしてもう一つ。「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という考え方が、経営理念として社員全体に根付いていることです。財務アタマの「高付加価値主義」を全社員の共通言語にしているところは、すごいところだと思います。

次は、いよいよ「キーエンス」の付加価値のつくりかたについて見ていきます。

2.「キーエンス」の付加価値のつくりかた

付加価値のおさらいですが、計算式では、

付加価値=価値ー外部購入費

となります。そして、「価値>価格」であれば、お客様には「高くないよね」「ウチの課題が解決できるのであれば、安くない!」となる、ということも以前にお話ししました。

キーエンスにおける付加価値のつくりかたのキーワードは次の3つです。

①マーケットイン型
②高付加価値状態での商品の標準化
③世界初・業界初の商品

それぞれ見ていきます。

①マーケットイン型

マーケットインについて、キーエンスの特徴は「圧倒的な顧客ニーズの探索」にあります。どのくらいかというと、顧客の工場(海外も含む)に赴き、現場スタッフの困りごとまで貪欲に見つけに行くくらい、だそうです。

私の実体験ですが、学生時代に教授とキーエンスの営業担当者の方が打ち合わせて、その足で研究室を見学されるのはありましたし、社会人時代も開発部の研究室にお越しになられていました。

また、装置の導入を検討していた際には、デモ機をお借りして実際に実験を行う、といったこともありました。

少し余談も含みますが、業界の人は意外に業界には詳しくない、という話があります。例えば、化粧品業界で私は仕事をしていましたが、業界の話は同業他社からは当たり前ですが教えてもらえません。処方技術はトップシークレットで、他社の情報は商品内容から推察するしかありません。

では、他社の動向を一番聞けるのは誰かというと、原料メーカーなどの第三者です。だからこそ、業界の人は意外に業界には詳しくない、という風に言われます。

このキーエンスの事例における第三者とは、意外なことにお客様にあたります。なぜならば、デモ機を使ったときに実際の実験におけるお困りごとを聞けたり、あわよくば比較検討をしている他社機器との比較を聞くことが出来ます。

書籍には書いていない、私の実体験も交えながら書いていますが、お客様の解決したいお困りごとに寄り添い、そのために何ができるか、ということを高いレベルで常に考えて行動しているのがキーエンスの特長です。

商品づくりも、書籍によると試作版を作り、それをもってお客様を訪問し、自分たちが作ろうとしているものがお客様の役に本当に立つのかを確認しているそうです。

この徹底した仮説検証も、キーエンスの特長と思います。

※同じ業界で、メーカーではないのですがお客様に寄り添った提案をされておられる「強くて愛される会社」に株式会社日本レーザーがあります。

②高付加価値状態での商品の標準化

①のようにマーケットインで商品・サービスづくりをしていくと、どうしても「特注品」になってしまいます。

特注品になると、どうしてもコストを下げることが出来ずに利益率が低くなってしまいます。

そんなとき、キーエンスはどのように考えるのか、と言いますと、「市場原理、経済原則で考えることが大切」と言っています。市場原理の方はマーケットインの方ですが、一方で「どうすると一番利益が出るのか?」で意思決定をするということです。

つまり、「特注品」にせずに「標準品」にしてしまう、そうなんです。

一体どうしてそんなことが出来るのか? というと、「圧倒的な顧客ニーズの探索」です。

多くのお客様の情報を持っているからこそ、お客様のニーズに応えつつも「このお客様のお困りごとは、あのお客様の解決策の役に立つかも!」と商品の標準化を狙っている、というカラクリです。

お客様のニーズ=問題解決したいことに対して、汎用性のある機能か、あるいは他の機能で集約または分散できないかを考え、商品化していく中で標準化しコストダウンを図る。これにより価値を高めつつも外部購入費を下げることに成功しています。

※別の業界ですが、全品片足のみ・左右サイズ違い購入可能で足の悩み解消の靴を製造販売されている徳武産業株式会社は、高付加価値状態での商品の標準化にあたると思います。

③世界初・業界初の商品

これこそが「圧倒的な顧客ニーズの探索」の神髄で、「顧客の潜在ニーズ」を掘り起こすことで、キーエンスの新商品の70%が世界初あるいは業界初になっています。

書籍「付加価値のつくりかた」より

なお、世界初あるいは業界初の定義ですが、今までにない特許技術を駆使したもの、というわけではありません。アイデアや機能の組み合わせを駆使したお客様の課題解決にかなった商品、という定義のようです。

これは、お客様の使い方まで熟知しているからこそできること、だと思います。お客様に徹底的に寄り添い、「より深い付加価値」に気づき、そして「まだ作られていない付加価値」を形にすることにより、他社の商品との差別化・独自化を図ることが出来ます。そうすることで「値決めの主導権」が取れ、高収益を実現することが出来ます。

3.「キーエンス」の“本当の”付加価値のつくりかた

2.でキーエンスの「付加価値のつくりかた」について、書籍をベースに解説をしましたが、要は「どこまで顧客密着できているか」ということが大きなポイントであり他社との差別化だと思いました。

これには、大企業だからそれが出来るんでしょ……と思われたかもしれません。なぜならば、顧客密着には時間とお金がかかるからです。

確かに、中堅中小企業では難しいところはあるのですが、私たちがベンチマークしている「強くて愛される会社」のほとんどが「顧客密着」ですし、なによりも社長塾の修了生企業でも「顧客密着」を意識して頑張っておられる会社はあります。

そんな中、今回の事例企業であるキーエンスの話の中で、参考にできるなと思ったことがあります。

それは、冒頭に私が述べた「営業以外の方々も含めて社員一人一人がお客様に対して、より付加価値の大きい提案を行える構造になっていること」の「構造」というのがポイントで、社員一人一人が付加価値を高める行動をとる仕組みがキーエンスにあることが分かりました。

営業や商品企画・開発などは分かりやすいのですが、営業事務や人事といったバックオフィスで働く方々も付加価値を高める行動をとっています。

営業事務の方を例に話をいたしますと、営業用の資料を作るなどの業務を営業担当から引き受けることにより、どれだけ営業の活動時間を作れるのか、ということで付加価値を創ることに貢献しています。

書籍に記載の具体的な数字を用いると、例えば一日30分かけている作業をサポートすることにより、210万円の成果アップにつながるとします。この作業を営業10人分を引き受けると2,100万円の成果アップに貢献することが出来ます。そして、このような作業を年間10個作れば2億1,000万円に繋がる計算になります!

※ちなみに、人事であれば、いかに付加価値の創造に貢献できそうな人財を採用するか、また採用した人に対してどの部署でどのように活躍できるのかを考えて配置することなどで付加価値を創ることに貢献しています。

このように、付加価値を高めることに何ができるかをそれぞれのフィールドにいる方が考える構造になっていることこそが、キーエンスという企業の強みであり、“本当の”付加価値のつくりかただと思いました。

会社全体として付加価値を高めていく流れを作る上で、それぞれの部署がどのような役割を持つのか。この視点は、中堅中小企業にとっても大変参考になるはずです。

今回のミニ社長塾はここまでです。また、次回の【ミニ社長塾】も、どうぞよろしくお願いいたします。

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