ウチの夫の愛情が斜め上すぎる件

わたしの夫はわたしのことを大切にし過ぎている。

なんだノロケやがってと思われるかもしれない。
けれど、わたしの夫のことを少しでも知っている人ならばただのノロケ話にはならないことはわかるはずだ。

わたしの夫の愛情は斜め上すぎる。
それはもはや、大切にされていないのではないかと思うことすらあるレベルだ。

たとえばある日の夜中、急にカフェラテが飲みたくなったことがあった。

パソコンで作業をしながら「あぁ、カフェラテが飲みたいなぁ」とぼやいていたら、ちょうど散歩をしたかったとかで夫が買ってきてくれるというのだ。

夜中に?散歩したかったの?

その理由が本当かどうかはさておき、楽しそうに出かける準備をするものだからお願いすることにした。

お気に入りのカフェラテを飲みながら今日の作業を仕上げるぞ!と意気込んで待っていたが、待てど暮らせど返ってこない。

近くのコンビニだよな。往復で30分もかからないと思うんだけど…
まぁゆっくり歩いているのかもな。散歩したいって言ってたし。

1時間後。
まだ帰ってこない。

まさか何か事件に巻き込まれたのか?
ソワソワしてLINEを送るが返ってこない…

どうしよう。探しにいったほうがいいかな。
いやでも…もう少し待つか。

一時間半後。
LINEが返ってきた。

「ボーッとしてた。もうすぐコンビニ」
時空が歪んでるのかな?

え、お使い頼まれたまま1時間ボーッとするってどういう状態なの?
ちょっとわたしには経験がないからわからないんだけど。
そのボーッとはお使いというクエストを完了してからではダメなの?
勇者にお願いごとを依頼したまま忘れられてエンディングを迎える村人の気持ちがちょっとわかったわ。

お使いクエストを頼んでからもう2時間経とうかという頃に、のほほん勇者がご帰還なすった。

「あそこのコンビニに行ったらハルちゃんの好きなお菓子もあったよ!」
得意げに袋を広げる勇者。

さすが、勇者様!このお菓子なかなか売ってなくて買えなかったんだよね。そういうのをコッソリ覚えていてくれるのもウチの勇者のいいところ。

「嬉しい!ありがとう!」
「あと、これも好きだよね。フレンチトースト!」
「うん。ありがとう!」
「あとは俺のタバコと明日の朝ごはん」

カフェラテは、よ。
もうビニール袋折りたたんでしまおうとしてますけど、カフェラテはどこですかーーー??!

今まさにゴミ袋のストックとして生まれ変わろうとしているビニール袋にはカフェラテの影も見えませんし、なんだったら勇者様の頭の中からもカフェラテがバシルーラ*されているみたいですが、そもそもこのクエストは姫様にカフェラテを届けるクエストじゃなかったですかーー??

なぜあなたはニコニコして満足げなんですかーー?
魔王城どころかクエストの一つも攻略できてませんがー?

いや、売り切れてたとかなにかあるかもしれないから、いきなり怒るのはよくない。まずは聞いてみよう、笑顔で。引きつった笑顔で。
「カフェラテは?」

「あ!!!忘れてた…」

なぜ。
君はなぜ外にいったのだい?
何をしにいったのだい?
何かのついででお願いしたんじゃないはずだ。
君が外に出る目的はカフェラテだったろう。

やはり、ボーッとしているうちになにかの事件に巻き込まれて記憶を消されたのではないだろうか。
そもそもこいつは間違いなくわたしの知っている夫なのだろうか。
すり替えられている可能性もある。

ひとまず事情を聞くことにした。
カフェラテをどの時点まで覚えていたのか。
ボーッとする前までだったら、MIBの線も視野にいれなければならない。

彼いわく、コンビニに行くまで覚えていた。ハルヤの好きなお菓子を見つけて、これを買って帰れば喜ぶだろうと思った。ハルヤの喜ぶものを探してたら忘れた。とのこと。

今ハルヤが確実に喜ぶのはカフェラテです!!

これを話しながらわかりやすく落ち込んでいく夫。
え、なんかわたしが悪いみたいな感じになってる。
カフェラテを2時間焦がれてすでにカフェラテ喉になっているわたしにこの仕打。凹みたいのはわたしのほうなんだがおかしくないか?
せっかく買ってきてくれたのに文句を言うわがまま女みたいな空気になってんのおかしくない?

でもわざわざ買いに行ってくれたし、お菓子買ってくれたのも嬉しいから、励ましておくか…
「好きなお菓子買ってきてくれてありがとうね!カフェラテはまた今度よろしくね!」

「うん。カフェラテはいつでも売ってるしね!!」

えーー…

えー…

ぇ-…

(白目)

*バシルーラとは敵をどこかに吹き飛ばす(消滅させる)呪文である。

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