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あの人の奥さんがずっと嫌でした

わたしは夫が大好きで、結婚してよかったと思っているし、夫と一緒にいることを後悔したことはないけれど、夫の「奥さん」でいることはずっとずっと嫌だった。


わたしの夫は社交的だ。
内向的でコミュニケーションに消極的なわたしからすると、彼はコミュニケーションの魔神だ。

コミュニケーションが苦手な人にとっては悪魔にもみえるだろう。

彼は目の前の話し相手が人たらしだろうとコミュ障だろうと関係ないのだ。
ニコニコ笑いながらココロのスキマに入り込んできて、"いい感じの陣地"を勝手に作ってしまう。

みんな、なんだかわからないけれどこいつなら話してもいいか、という気になってしまうのだ。


その証拠に、彼がよく行くお店にはどの店にも顔なじみの店員さんが必ずいる。
彼らはお店の裏事情を教えてくれたり、こっそりおまけしてくれたりする。

あまりに親しく話すものだから、はじめのうちは「この店員さんは高校の頃の同級生か何かなんだろう」と思っていたが、それにしては同級生が多すぎた。

行くところ行くところに同級生がいる。
富山県の人はみんな必ず同じ地域に上京するのかってくらいいる。

あるとき夫に、さっきの店員は知り合いか、と聞いたら
「知らない。でもいい人。」
とだけ返ってきた。


たった一回、物件の見学に立ち会っただけの不動産屋のお兄ちゃんとも呑みに行ったことがある。

内向的なわたしには、何がどうなったらそうなるのか全くわからない。
きっとイケナイ魔術をつかって人をだまくらかしているのだと思う。

そうじゃなきゃ、こんなに街中に友達ができるわけがないんだから。

わたしがレストランで店員さんを呼ぶのをためらっているうちに、彼はコックさんとLINEを交換し、店員さんと3人で次の飲みの約束をしている。


夫がそういう人だからこそ、わたしが人に会うときはほとんど
「あぁ、あの人の奥さん!?」という反応をされる。

二人ででかけて二人で初めて入ったお店でも、夫はすぐに店員さんと仲良くなり、その隣に座っているのが奥さん、という印象になる。

いつだってわたしは「あの人の奥さん」だった。

それが嫌でしかたなかった。
わたしだって、一人のトモダチなんだ。
たしかに、面白いことは話さないし、コミュニケーションも上手ではないけれど、それでもあなたとトモダチになりたい一人なんだ。おまけじゃないぞ、と。

爪の先ほどのプライドがあってそれが、ずっと、チクチク痛かった。


けれどね、気がついたのさ。
「あの人の奥さん」でいるだけで、得してしまうこともある。

夫のおかげで、わたし一人だったら仲良くなれなかったであろう人と仲良く話ができる。

一人で歩いていても声をかけてくれる人がたくさん増えた。
元気かな?って気にかける人が心のなかに増えた。
彼らを思うだけで前よりちょっと楽しい。


それにわたしも、少しだけ話しをするのが上手になった。夫が繋いでくれた彼らが大好きで、大切にしたいから。


さらに、おもしろいもので。
夫のことを大切に思ってくれている人は、わたしのことも大切にしてくれて、早い段階で名前を聞いてくれる。

いつまでも「奥さん」じゃぁないのだ。
みんな名前で読んでくれる。

反対に、この人はなにかあるな、という人はいつまでもわたしのことを「奥さん」と呼ぶし、夫もあまり関わらなかった。


「あの人の奥さん」はわたしの世界を守るボーダーラインなのだ。
またしてもわたしは夫に守られている。







夫に自覚はないけれど。

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