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人生の大切なことは、男性専用サウナでナンパしてきた72歳のおじいちゃんに教わった。


全裸のおじいちゃんに突然話しかけられた。
「あんちゃん、水、いる?」


ここは札幌の某男性専用サウナ。
当然、僕も全裸だ。


「あ、ありがとございます。」
全裸のおじいちゃんから全裸のおじさんへ水が渡された。



「あんちゃん、どっから来たん?」
「あー。東京・・・の方っすね。」
「そなんや、おれ神戸。ちょっと話さへん?」
「あ、えー、まぁ、はい。」


「あんちゃん、めちゃノンケっぽいなぁ」

ノンケとは、異性愛者を意味するゲイ用語。
公共の場で、
ゲイという言葉を使わずに、
比較的低リスクに、
俺ゲイやで。
そんで、あんたがゲイってこと分かってんで。
そんで、あんたのことタイプやで。
を、一気に伝える超高等テクニックである。

(めちゃくちゃゲイってバレてるじゃん、おれ)

と思いながら、
「え、あ、はぁ。」
肯定でも否定でもない返事をする。


「あっち行こや。」


倉庫みたいな、ボイラー室みたいな、ここ、入っていいの?感満載な場所に連れてかれた。

なぜかちょうどよくパイプ椅子が2つある。
椅子をちょっとだけ離してから座った。



「あ、手ぇ出さへんから安心し。俺、こうやって話すの好きやねん。」
「そうなんですね。」
機械の音が低く響いている。

「あんちゃん、すけべそうな顔してんなぁ」
「なんすかそれ。」
いきなりめちゃくちゃ失礼である。

「めっちゃええ体してんな。柔道?ラグビー?」
「どっちもやったことないんですよ。」
「そうなん?かっこいい体やなぁ。」
ちょっと嬉しい。

ガチムチを目指すゲイを見つけたら、
柔道やってるん?
って言っておけば間違いない。
慣れてきたら、
柔道とラグビーどっちやってたん?
も試してほしい。



「そうなん?にしても、笑顔もかわいいなー。」
「ありがとうございます。」
けっこう嬉しい。


「めちゃくちゃモテるやろー。」
「いやいや、そんなことないですよ。」
「嘘やん、絶対、うそ。めちゃイケメンやん」
かなり嬉しい。

「やっぱり、すけべそうな顔してんなー」
「だから、なんすかそれ。」
再び失礼である。
でも、まぁ、いいか。褒めてくれたし。

「若い子と話すとな、パワーもらえんねん。」
たしかに、それは、なんとなくわかる。



(若いって言われたの久しぶりだ。)
普段褒められることがあまりないので、お世辞だと分かりつつも、ニヤニヤしてしまう。
ここぞとばかりに脚を触ってきたおじいちゃんの手を優しく払う。


というか、これは、ナンパ?
よくわからないが、
とりあえずナンパということにしとこう。
女から男のナンパを逆ナンと呼ぶらしいが、
おじいちゃんからおじさんのナンパはなんと呼ぶのだろう。世界一どうでもいい。きっとそんな言葉はない。









そのままボイラー室的なよく分からない場所で話しました。
1時間くらい。なが。

小説っぽく書いてみようと思ったけど、ここまでね。疲れた。ここからはいつも通りいきます。

正直、おじいちゃんと話すの、最初はちょっとめんどくさかった。
だって、まだ1セットしかサウナ入ってなかったんだもの。

サウナー(サウナ愛好家)の方はわかっていただけると思うんだけど、
1セットで終了って1番もどかしくない?
0だったら、このあと入ればまぁいいかー。
2だったら、2セット入ったし、まぁいいかー。
1は、なんとも言えない。寸止め。あああ。そこで止めないでぇって感じ。
伝わらないですね。すみません。  

でも、せっかく俺なんかに声かけてくれたんだからちょっと話すか、と。
喉乾いてるところに水もくれたし、ね。

雑談していくうちに、
あ、このおっちゃん優しくて
おもしろいなァと思うようになった。
何より、めっちゃ褒めてくれるし。
何回手払ってもめげずに脚とか腕とか触ろうとしてくるけど。







「大通り公園行こや。涼しいし。」
「あーいっすね。行きましょ。」
「コンビニでなんか買おか。なんでも買ったるで。」
「え、なんでもいいんすか。ありがとございまーす。」


いつの間にか、仲良くなってしまいました。
だって、1時間も話したんだもん。ボイラー室で。

ちょうど2つだけあったパイプ椅子は何だったんだ。
出る時は、元通りくっつけてきたけど。一応。

セイコーマートでアクエリアスとエクレアを買ってもらい、
大通り公園のベンチに座る。午後11時。
スケボーをする若者の笑い声が響く。
夜風が心地いい。
隣のベンチでは若者のカップルが密着してる。
向かいのベンチでは、40代くらいのスーツを着た男女が談笑中。
そしてこのベンチ。
おじいちゃんと巨体成人男性(30代前半)




50年前にゲイを自覚したこと。
一度結婚したこと。
昔は海外勤務していたこと。
若いころ恋をした警察官のこと。

「なんでも聞いてええでー。イチゴイチエやし。」
っていうから、本当に何でも聞いた。
そしたら、本当に何でも答えてくれた。

その話の中から、
おじいちゃんに教わった人生における大切な話。
haruya的ランキングでお届けします。
唐突。

5位。

「人生で大事なことは自由やな。誰にも何にも縛られず、好きなことをやる。やり尽くして、死ぬ。それが大事。あとは感謝されること。やっぱ嬉しやん、ありがとって言われるの。だから俺はリタイアした後もいまの仕事やってん。あ、あとな、健康と、仲間と、お金。これは大事や。リタイヤしたら社長も誰もみんな同じやろ?肩書きなんてくだらないねん。この3つがあれば、老後は楽しいで。今から、それができるようにしとき。」

4位。

「やって良かったこと?そやなぁ。海外の1人旅やな。どんどんいろんなとこ行きや。死にさえしなきゃ人生何とかなるって思えるで。」

3位。

「あんな、将来に希望もつのは大事やで。こんなふうになれたらいいなぁとか、あんなふうになりたいなぁとかな。でも、そんなん、分からんやん。何が起こるか分からん。明日生きれるかどうかも分からん。だから、あんまり深く考えずにな、その時できることやってくしかないねん。」

2位。

「ええか、あの子かわいいなって思ったら、すぐ声かけるんや。え?断られるのが怖い?何いうてんねん、人生ダメで元々。とにかく声掛けや。なんて声かけていいか分からんかったら、道きくねん。道。そしたら大体教えてくれる。」


1位。

「俺、性欲強いでぇ。いまだに。男は勃たなくなったらオワリや。終わり。だから、毎日、ニンニク食べてる。あんちゃんも、今から食べとき。」


全ゲイに伝えたい。
おじいちゃんの人生経験。
ありがたきお言葉。
これ以外にもたくさんありましたよ。メモしてるんで、残りはまたの機会に。

最初、話すのめんどくさいとか思ってごめんなさい。「ナンパしてきた」とかいうタイトルにしてごめんなさい。「ナンパしていただいた」に謹んで訂正致します。
タイトルを「僕みたいな人間をナンパしていただいたお爺様に教えていただいたありがたきお言葉」 に、謹んで訂正致します。



俺、性欲強いでぇって言える70歳に私はなりたい。



 
「名前は?」って聞いたら、
「それは、言わん。イチゴイチエやし。」って。
何それ。かっこいいな。

「なんか僕に聞きたいこと、あります?」
「せやな・・・、


あ、ナイモン(マッチングアプリ)ってどうやって使うん?」

おじいちゃんの飽くなき出会いへの情熱に感心しつつ、ナイモンについての説明を終える。
我ながらうまく説明できた。と思う。
クールモンキーはほとんどいないこともちゃんと説明したし。


「それじゃ。」と突然立ち上がるおじいちゃん。
全てはナイモンのやり方を聞くための口実だったんじゃないかと疑うくらい突然の「それじゃ。」



「またどっかで会うかもな。
あんちゃん、きっと良い出会いあんで。あんまり悩むなや。」
「あ、これ、やるわ。あんちゃんにいいことあるように。」
「じゃ、またな。ありがとな。パワーもらえたわ。」

小さなお守りみたいなものをくれた。
ちょっと高めのおみくじを引くと、おまけに入ってそうなやつ。金色のちっちゃい仏さんみたいなのが透明のケースに入ってるやつ。

裏に、(勇気の神)って書いてある。



顔を上げる。
あれ、おじいちゃんいない。


ふーん。これがイチゴイチエか。 

イチゴイチエ。

あれ、漢字が浮かばない。

眠すぎる。あまりにも。

大通り公園を1人で歩く。

スケボーをする若者の声は、もうない。

ペットボトルにちょっとだけ残ったアクエリアスを飲み干す。

ぬるくなったアクエリアスが喉をゆっくり降りていく。


こんなに甘かったっけ。





あ、明日ニンニク買おっと。













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