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【詩】 鈍色と目 

春がそっぽを向いていて
とても長い冬だった
心の風邪をこじらせて
母の心はかたまった
薬も言葉もきかなくて
かける言葉を失った
匙を投げては拾いあげ
一人相撲の長い冬
どこも見てない遠い目に
わたしを見てとつぶやいた

毎日毎日少しずつ
わたし達は歳をとる
あと何回会えるかな
数えながら手を握る
鈍色の日々に母が言う
生まれてくれてありがとう
どこも見てない遠い目で
わたしだけを見て言った
産んでくれてありがとう
母の心にささやいた

秋をも溶かす夏が過ぎ
去年と違う冬が来た
長い旅から帰還した
母の心は色づいた
石蹴りしながら散歩した
鈍色の日々はもう終わり
赤い小さなルビーの指輪
いつも母を守ってる
わたしを見つめる茶色の目
生まれたときに見つけた目


晴海 たお

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