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『アイスヘッドギル』は何故読んでて感情が揺さぶられない虚無漫画なのか(※第7話までの所感)


◆アイスヘッドギル

ジャンプで現在連載中の漫画、『アイスヘッドギル』
今年30号からはじまり、今週36・37合併号では最新7話が掲載された。ちょうど1巻分が溜まったペースだし、合併号で続きは2週間後だし、ちょうど物語の節目がついたので、表題について整理してみたい。

面白い漫画かと言われると、忌憚のない意見、正直つまらない。

嫌いではないし、はよ終われの枠ではないのだが、どのみち全然面白くなってくれない。つまらない。毎週どこにフックを見出せばいいのか分からない。視覚的に楽しめる要素も見つからない。主人公etcを応援したい要素すら見られない。
ハッキリ言って虚無漫画である。残念だが、この調子では打ち切りになっても無理はないだろう。最新7話で露骨に風呂敷を畳むのを匂わせてきたので、長期連載はきびしいように見える。

察しの通り、ぼくはジャンプ感想を毎週全作品欠かさず書いているのだが、この漫画は毎週「今週どんなふうに感想書けばいいんだ…」と頭を悩まされている。
が、最近になって「なんでこの漫画はこんなにも惹かれないんだろうか?」と気になりはじめ、分析意欲が高まり、再読しつつこの記事を書こうと筆を取ることにした。
「わざわざ再読して記事を書いているほど本当は惹かれているのでは?」「自己矛盾では?」とガバポイントをツッコまれそうだが、これはあくまで「何故惹かれないのか」という疑問の解明・原因のアウトプットであり、後学のために書いている。なんとかがんばって言語化してみたいという興味はあるのだ。

…あとまあ、全然真剣になって読んでいない(その気にさせてくれない)ので個人的復習も兼ねている。

◆賛否両論だったが期待要素はあった第1話

この漫画は第1話からあまり評判が宜しくなかったのだが、実はぼくはやや肯定寄りだった。
「地味だなあ…」「技名だせえ…」「アクションシーンしょぼいな…」「仲間を説得させるのあっさりじゃね?」「火柱を継ぐ男…?」といった怪しいところはあったのだが(こうしてまとめると結構多いな)、少なくとも期待させられる要素もあったのだ。詳しくは以下のジャンプ感想にて。

物語は「主人公ギル=ソールの親父ドレキ=ソールが王都の王子を殺害して失踪」からはじまる。ギルも追手から逃れ、島で新たな生活を送るある日、本作の敵・リッチとの邂逅・撃破を迎え、親父の真相を確かめるために王都へ向かうという如何にもなプロローグの第1話だ。
『ヴィンランド・サガ』を思わせるファンタジーな世界観であり、「親父は本当に王子を殺したのか?マジなら何故?」というミステリ要素を孕んでいる。それ自体は悪くないどころか、寧ろ良いフックだ。

この漫画で一番刺さったのは親父が7人の戦士を育てたことだった。
そいつらは現在どうなっているのか分からないからこそ、ぼくは「一人目は2話で仲間になって、二人目は敵なんじゃないか?」と敵か味方なのか分からない不確定要素に注目していた。これは企画要素にもなるのではないだろうか?と勝手に期待していた。

………現在、7話になっても戦士誰一人登場していない。

まあもう今になっては大分期待できない漫画になってしまったし、そもそもぼくが注目すべきポイントではなかったのかもしれない。実際そうなら素直に残念であるが。
というか、1話を再読したら「王都を仲間の血で染め」とあったので、既に戦士全員荼毘に付した可能性もあると考えられる。それだと何故「親父は7人の戦士を育てた」とわざわざ人数を明記したのか疑問だが…

この漫画で今のところ一番キャラが立っていたメラおばさん
第一印象はあまりよろしくないように見えて、なんだかんだ言ってギルのことを理解している(斧の扱いに長けている)のが読み進めるにつれて判明していき、最後は母親代わりのように見届けてやってくれたので、なんだかんだ言いながら悪いヤツではなかった人物だった。
…今思うと、解説役やツッコミポジとして一緒に旅させるべきだったのでは?そも、10さいくらいの子供にひとり旅させるのってきつくね??

◆他人事じみた虚無すぎる第2話

第2話は「旅中、宿と飯を求めるギルはゲストキャラと邂逅。その人の婚約者は行方不明なのだが、既にリッチに乗っ取られていた。ギルは仕留めた」という話である。

文面だと救いのない悲しい一話完結である。
だがしかし、全然悲しくないクッソどうでもいい話だった。1話は肯定寄りだったぼくでも「だめだこりゃ」と一気に否寄りになっていた。

この回はなにも知らない奴が勝手に犠牲者になって勝手に死ぬ、そんな話だ。
そりゃあゲストキャラだから最初は知らなくて当然なのだが、婚約者がどんな人物なのかを徐々に明かしてくれないから思い入れすら生まれない。「キレイで優しくて自慢のお姉さん」と言われても、顔アップ1コマすら描かれていない。
綺麗な女性がリッチに乗っ取られ、恐ろしいバケモノになり果てたなら悲劇になるのだし、そんな酷い仕打ちをしたリッチへのヘイトも生まれるだろうに、そういったちょっとした描写を取り入れる努力を放棄している。我ながら辛辣な言い方だと自覚しているが、マジのガチで虚無な話だもんこれ。

「婚約者殺すのひどくね??」というコメントを見かけたときはうんまあそうだなあとは思ったのだが、それよりもキャラ描写のおざなりっぷりに問題視するばかりだった。

◆全然話が進まないサナ編(3~7話)

新キャラのサナはギルの手記(キーアイテム)やゴロツキの金貨を窃盗して、この時点で印象最悪なのだが、それでも悲しい過去を匂わせているし、明らかに仲間になりそうな雰囲気があるので、そのうち謝罪する可能性は有るだろうと様子見はできた。…それを受け入れられるのか極めてハードルが高いのだが。だって好きになれたり同情できる要素がひとつも見当たらない。

…結果、仲間になっても船から降ろしたいキャラになった。
6話ラストはこいつの活躍というヒキで終わったが、印象最悪なままの奴が急にイイトコ見せてきても全然なんとも思えないんだよな…こういうのは謝罪から始めて、借りを返すと助太刀の流れに入ればまだ大分印象は変わるし、読み手の感情も切り替わると思うのだが。この漫画のなあなあすぎるポイントをわかりやすく主張していると言えよう。
そして最新7話になっても全く謝罪しないどころか、いつの間にかすっかり仲間なのが当たり前の雰囲気になっている。過程が猿空間送りされたようだ。

サナは別に嫌いでもないし虚無だし、次回誤ろうがもうどうでもいいの精神を保持できるのでどうでもいいとして、このシリーズ最大の問題点としてとにかく話が進むのが遅くてダルすぎる。
なにせ5話も連続シリーズに費やしている。最序盤なのに。ハッキリ言って異常だ。通常なら前編後編の2話構成にすべきだろう。各話のあらすじを簡単にまとめると、

3話:サナ登場&窃盗。窃盗ダメだと説得するも無理、サナ落下というヒキ
4話:ゴロツキの兄貴が登場。親父の話について勝手に盛り上がる。ゴロツキ兄戦開始
5話:兄貴戦。決着後、兄貴がリッチに殺される。すごい数のリッチが集まってきている
6話:ガキリッチ戦。サナは戦線離脱したかと思いきや、弓矢を放ってきたサプライズヒキで終わる
7話:ガキリッチ撃破。親父がリッチに乗っ取られた事実を知る

ゴロツキ兄弟いらなくね??

2年前、『レッドフード』という漫画がジャンプで連載されていたのだが、今回それを思い出した。
この漫画は画こそ魅力がある(『Dr.STONE』のBoichi先生も注目していた)ことで期待されていたのだが、肝心の内容は5話でやっと村を出たほどテンポが悪すぎるという致命的な問題を抱えていた。もうあまり内容を覚えていないのだが、スピード感はなく、ただただダルく、そして欠伸が出るほどつまらなかった。
ジャンプはいつの時代もスタートダッシュが肝心だし、チンタラ進まないのが批判され、あえなく打ち切りとなってしまった。以降、「早期で村を出る」がジャンプ打ち切り回避の基準となった

『アイスヘッドギル』もまさにそんな例に当てはまってしまった。こちらは1話で島から出たが、その代わりずっと雪山でどうでもいいバトルや内輪話をしていてダルすぎる。

◆どことなく不気味な主人公ギル

主人公ギルはどんなキャラかと説明されると、「なんか斧に長けている子」「慢心してないほうのギル」「煉獄Jr.」「なんか頭がおかしい子」「なんか妙に達観している子」としか言いようがない。

「頭がおかしい子」とは正直どうかと思う表現なので、そう表記すべきか躊躇っていたのだが、今回忌憚なく表現するとマジでそうとしか言いようがない。
2話でゲストキャラを看病ついでにメシに雪を足す(しょっぱさを薄めるためらしい)とか、3話の「おかず交換だね」とか、もぐらのように雪の中を潜ってサナと再会したくだりとか、愛着を持てないどころか近寄りがたい、何を考えているのか分からない。正直不気味さが際立っている。
恐らく天然の側面とあるとも思われるが、だからと言って可愛げを見出すのは勘弁してほしい話である。

特に「おかず交換だね」のくだりは本気で分からない。
宿でゴロツキの隣に座って馴れ馴れしく話しかけるのはまだいいとして、ゴロツキらしくメシを取られたのはまだしも、キレるのではなく「おかず交換だね!」って、いったいどんな思考回路しているんだこの子?
本筋に関わるシーンではないし、無理に粗探ししているとか重箱の隅を突いているとか言われても全然構わないのだが、初めて見たとき「うわ、きついなこれ…」となってしまった。
メラおばさんが一緒にいたらツッコミ役として機能できたのでは?この漫画はツッコミ不在の恐怖なシーンが多い。

あまり悲しい表情には見えないよ

最新第7話では親父がリッチに乗っ取られた事実を知るのだが、特にショックを受けないどころか、「おれが止める。父さんを」と覚悟完了しちゃっている。倒置法で。
なんでそんなに冷静なの?自分の親父が酷い目に遭っているのに、なんでそんなに達観しているの?

いちおうこの事実を知ったときギルはポカーンとしたツラになっているし(何を考えているのか分からないが…)、親父は完全死亡ではないし、精神も保っている状態でリッチに乗っ取られたのだが、キャラが物語の都合に動かされてしまっているきらいがある。

元々きびしい環境で育ったとはいえ、子供の割には妙に達観している描写がこれ以外にも見られているので、どんなキャラなのが掴みづらい。『HUNTER×HUNTER』のゴンのような、基本年相応な子供だが時折主人公らしく頭がキレる子を目指したかったのかもしれない。

斧についても「なんで斧なの?」という疑問は中途半端に拭えない。斧の修行をこなしまくったから現在の自分がいるとか、そういったマジ感を訴える回想もない。「なんか斧にだけは優れている」というズラしの為の属性付与をしたように見える。
あと決め台詞にしたいのか、「斧でおれには誰も勝てない」と言っているのだが、他の斧使いが登場していないから根拠が行方不明になっているのも特筆しておきたい。恐らく本当は「斧で戦う俺は強いぞ!」という意味合いにしたかったのかもしれない。

◆全然脅威が感じられないリッチ

リッチとは「地獄からやってきた存在」「人の身体を器として乗っ取る」「依り代の記憶を読み取れる」のが特徴だ。

これまでリッチに乗っ取られた犠牲者はザクロさん(第1話)、婚約者(第2話)、ゴロツキ兄貴(第5話)、親父(第7話)だ。見事にどうでもいいキャラばかり揃っている。

そしてこのリッチの強さがこれまた微妙を超えた微妙。
死体を操っているので物理攻撃しかしてこないし、リッチならではのバケモノじみたスペックや怖さが全く描かれない。禁術を唱えたりトキシックブレスを吐いてきたりもしない。地獄からやってきたファンタジー設定なのに。
そのおかげで「見るからにこいつやべえよ…」「どうやって倒せるんだ…」という気にさせてくれない。ただでさえバトル描写もつまらないので、ますますどうでもよくなっていく。

◆親父がよくわからない人すぎる問題

親父は本当に王子を殺したのか疑惑もどうでもいい。

少なくとも第1話の時点ではこういうことがあったと、親父も回想にて僅かに登場していたので、まだ様子見の範疇内だった。

………2話以降、親父の回想も情報も全く出てこない。

だというのに、作中では「王子を殺した偉大な男」「王子を殺したのはきっと親父じゃない」「命の恩人だ」と勝手に知らない親父のことについて盛り上がってて、全然話が見えない内輪話を聞かされている気分だった。

ぼくは他作品を例に挙げるのはあまり好きではないのだが、シャンクスがとても分かりやすい例になりそうだ。シャンクスはルフィにとって命の恩人であり、海賊王になる最終目的と兼ねてシャンクスに麦わら帽子を返す目的が第1話から描写されている。
ところが最終章に突入すれば、元より海賊なのだからワルにも見えてくる容赦の無さが発揮された。ルフィと再会できたときにはなにかを賭けて死闘を繰り広げるのでは?と今からハラハラさせられる。

…シャンクスを例に挙げたことでひとつ気づいた。
ギルと親父の人となりすらよく分からないのだ。
親子関係、斧は親父が作った、色々な格言を教えた。これくらいしか情報がない。ギルにとっては尊敬を抱ける親父なのだろうが、王子殺しなんかしていないという確固たる主張に全然説得力がない。ただ親子だったり斧を作ってくれたりで、それで親父は悪人じゃないと言われても「うん!そうだよな!」と全然同情できない。

親父は恐らく「謎を秘めた人物」としてあまり語りすぎないようにしたのだろうが、謎が謎すぎてもかえって興味を失わせてしまうのだなあと理解させられる。
そも、幼少期は一緒にいたのだから場面はもっと描けるはずだと思うのだが。主人公が真相を求める物語の軸となる人物なのに、なんでこうも描写しないのだろうか?

結局最新7話でリッチに乗っ取られたことが明かされたので、王子殺害についてもリッチが黒幕という大変つまらないアンサーなのだろう。と思わせて親父が真のワルでしたと裏をかく展開があるかもしれないが、この様子では「どうでもいいなあ」という印象に変わりはなさそうだ。

◆まとめ

この漫画は決してクソではないし、読んでいて不快ではない。作者は色々考えているし、練っているのだとは思う。だがしかし、肝心のアウトプットがヘタクソなのでイマイチ伝わっていない。そんな印象を受けた。
しかしこうしてまとめてみると、ダメなところが多くてびっくりだな。毎週一話ずつ読んでいるうちは大して問題がないと思っていたのだが、塵も積もれば山となる形式のダメな漫画だったのか。

今回この記事を書くに至って読み返したことで作品への理解度が少し高まったのは効果的だし、キャラや設定が魅力的ではないどころかマジで語ることがないから、全然語られない空気漫画である理解も深まった。

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