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アニメ映画レビュー『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』


◆視聴動機はこれだゾ

行きつけの銭湯に長嶋茂雄選手の背番号の鍵がなかったから。

…ではなく、ただ単になんとなくクレしん映画が見たいからだった。しかし一体なにを見ようか?ぼくは意外とクレしん映画を見ていない。恐らく片手で数える程度の本数しか見ていない。
なお一番好きなのは『嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』です。あれのおかげで熱海と汚いほうの水島監督のファンになったまでもある。

で、まあ、ね。せっかくなら第一作の『アクション仮面VSハイグレ魔王』から見てみようかねと。ちょうど30年前の作品だしね。あと夏を感じますからね。昔見たことがあるような気がしなくもないのだが、全然記憶に残っていないので白紙同然に視聴することにした。

◆一作目から攻めたつくりだゾ

この第一作のコンセプトは恐らく「オラの大好きなアクション仮面といっしょに活躍するゾ!」だろうか。

いちおう説明しておくと、作中作であるアクション仮面はアニメではなく実写番組である。なので、いつもの日常回において後楽園ゆうえんちで僕と握手できたり、サトーココノカドーの屋上で撮影会を開催できるかもしれない。ご長寿アニメなので何回か実際にやっていそうだ。
けれど、十八番のアクションビームを放てる機会は倒すべき悪役が目の前に現れたときのみであり、マジな英姿が見られるのは劇場版ならではの特権と言えるだろう。憧れのヒーローとの共演というビッグサプライズは、ちょうど四半世紀後の夏に公開された『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄~』に通じるものがある。

そんな夢のコンセプトを第一作から実現化させたのはわかりやすいセールスポイントだ。
実際公開当時から作中作「アクション仮面」のファンがしんのすけのようにいたのかは分からないが、ギャグアニメ発とは思えない単品の正義のヒーローとして真面目にカッコイイ。さらに玄田哲章さんが魂を吹き込んだことにより、真摯に男の生き様を増している。実際マジにかっこよかった。ハイグレ魔王に手を差し伸べた理由が「剣で勝負するって約束したろ?こんなふうに勝ったって、男らしくないじゃないか」は胸熱の極みだった。

そんな王道プロットである本作だが、その裏でクレしんにしては斬新な手法を取っていた。

それがパラレルワールドである。

◆パラレルワールドは便利だゾ

びっくりした。
まさか第一作からパラレルワールドだなんて用意してくるとは…「あれ?パラレルパラレルパラレル全開?なあみさえ?」と疑えば、マジだった。

まずアクション仮面が本作の舞台であるパラレルワールドから特撮俳優として出張して活動しているヒーローという事実を知ってびっくりした。そりゃあ特撮俳優がマジのガチでアクションビーム打てたらファンタジーすぎるから有り得ない。…いやまあ劇場版は大抵ファンタジー展開が多いけど、この際話は広げないでおこう。
というか、ひとつ言わせてほしい。
アクションビームはフツーに特殊演出だと思ってたよ!郷剛太郎はただの俳優だと思ってたよ!今まで!!

しかしながらこのパラレルワールド設定はクレしんの世界観設定において妥当な判断とすぐさま理解させられた。なお作中では「平行世界」という表現になっているが、本稿ではパラレルワールドと呼称する。

あまりこういうことを真剣に考える人はいないと思うが、現実世界で大事件勃発による大きな爪痕を残さなかったのが便利である。今回のハイグレ魔王の侵略は埼玉だけでなく千葉や神奈川まで拡大を広げるほどなので、クレしん世界の歴史に刻まれてもおかしくない。
…まあ、後の劇場版もドンパチスゴいことをやっているわけだが、「だってこれはパラレルワールドだゾ」の一言で片づけられるかもしれない。そういった時空ってことで。シンプルな話、サザエさん時空みたいなものだ。

◆意外とスロースターターだゾ

上映時間は93分と至ってスタンダードな尺。
だがこの映画、前半40分くらいまでは案外いつもの日常回に近しいノリだったのもびっくりした。

アクション仮面撮影中に爆発発生と「いつもの」ではない導入からはじまるし、一見怪しい駄菓子屋で№99のカードを引き当てる流れもやはり「いつもの」とは異なる雰囲気だったのだが(そこは最初トラップ系ホラーかと身構えていた)、野原家が海へ行こうとしたらパラレルワールド突入までは割かし日常寄りである。
しんのすけはみさえとドンチャカやっちゃうし、かすかべ防衛隊は子供らしくアクション仮面カードの話で盛り上がるし、風間くんが大人ぶっていながらやっぱり子供な一面がめちゃくちゃかわいい
なにより、いつものBGMがふんだんに使われていたのも意外だった。最近の劇場版のBGM事情はわからないが、前半は本当に毎週お茶の間で見るクレしんそのものとして成り立っている。

もっと言うならば、「いつもの」ではない日常が少しずつ非日常へ浸食されるような前フリだろうか。着実にヤバいことが巻き起こる下準備を整えていくような感じ。駄菓子屋パートではしんのすけをアクション戦士に選定した仕掛け人が実はリリ子ちゃんだったのがまさにソレだな。

巻き込まれ系のシチュエーションは劇場版クレしんにおける定番なのだが(ex.野原家に何者かが襲撃、イベント中へんたいへんたいへんたいだー)、本作も例に漏れずソレである。けれども、初っ端からワルにさらわれたり狙われたりではなく、しばらく日常パートをやるのはある意味斬新に見えた。このへん、制作当時はいったいどのような会議が繰り広げられていたのだろうか?割と興味深い。

◆ハイグレ魔王

本作のラスボス・ハイグレ魔王。

名前こそは聞いたことがあるが、ぼくが初めてコイツを見たのは池袋サンシャインシティのクレしんショップ。もう見た目からしてふざけまくっているギャグ時空の存在としか思えなかった。なにせクレしん特有のオカマキャラである。
オカマ=謎の強キャラという風潮は今の時代でも通じることであり、ぼくはそういうコンセプトのキャラは好きだが、大分手垢が着いてしまったテンプレ属性とも言えるかもしれない。

このハイグレ魔王、ちゃんと悪役をやっている。
しんのすけが飲み込んでしまったアクションストーンは浣腸でもしない限りすぐさま排出できないのだが、魔法でかんたんに取り出してしまったのはめちゃくちゃぞっとさせられた。その気になれば胃袋も取り外せるんじゃないか?つーか医療技術の発展も遂げられるんじゃないか??魔法サイコー!!

剣術戦で落下しそうなところでアクション仮面が手を差し伸べた後、軟体生物化したのは本当に怖かった。
"ハイグレ魔王 トラウマ"とサジェストかかっているだけあって、ギャグアニメらしからぬ強烈なインパクトがあった。他のガチホラー作品と比べるとそれほどではないが、『クレヨンしんちゃん』という世界観をブチ壊しかねない恐ろしさを秘めていた怖さだった。

敗北を潔く認め、地球侵略を諦めるも、「あんたたちみたいに強い男の子がいない時にまた来るかもね」とまだ未練がある様子なのがブレてなくて良かった。いやまたマジで侵略来たらハタ迷惑なのだが、しんのすけを強い男の子と認めるのが本気で逆らえないと認めているようでいい。

そしてなにより、

「うふっ♡あんたたちのこと、ちょっぴり好きになりそうよ」

オカマキャラだからこそできる、敬意の表し方だ。
クレしんは憎めない悪役が多いと聞くが、この一連の流れでぼくはハイグレ魔王を好きの領域に到達してしまった。「ただ負けるだけでは終わらせない、味のある悪役」として好き。
今作のタイトルを冠しているだけあって、アクション仮面の宿敵として十分キャラを立たせている。あと、こいつの過去がどうだったかその辺掘り下げないのもかえって良かった。つーか、オカマに悲しい過去とかネガ要素いらねえしな。おもしれーキャラで十分なのだ。

ちなみに翌年1994年に発売されたスーパーファミコン専用ソフト『クレヨンしんちゃん2 大魔王の逆襲』という実質続編作品にて再登場。有言実行の鑑じゃねえかハイグレ魔王!
しかもWikiを見たら「今回はアクション仮面を誘拐し、本次元でのしんのすけの友達を敵に改造」とえげつないことが記載されているので、気になってプレイ動画を探してみたら、

マサオくんだけひどい扱いだゾ…

◆余談だゾ

1993年はバブル時代と言われているだけあってか、今の時代ではとてもできないだろう危険なネタが多い。
例えばしんのすけがアクションストーンを飲み込んでしまったので、それをなんとか出させようと浣腸を試みる提案にはぶったまげた。実際浣腸せずに済んだのは良かったのだが、そんな発言だけでも相当ストロングスタイルである。30年前ってすげえな…
でも「カンチョー」と言われるとケツの穴に指を突くほうを連想させられるクチなので、当時のキッズはそっちを連想させられたかもしれない。無理矢理ケツの穴を刺激させてアクションストーンを出させる方法として。

中ボスポジとして立ちはだかるTバック男爵は北春日部博士から冷酷非情なホモ呼ばわりされた。火のタマタマドストレートすぎるだろ!別にホモらしい言動は見られなかったのだが、まあオカマであるハイグレ魔王と絡んでいる時点で変質者以外の何者でもないし、Tバック男爵という性癖暴露を疑える名前がもうヤバいし、言い逃れできないよな…

で、最後。
「ハイグレ」じゃなくて「ハイレグ」が正しいんですね。

…なんかもう「ハイグレ」で刷り込まれちゃっているんだよな…。ハイレグのほうが偽物感あるんだよな…まず発音しづらいし。ハイグレはハイグレードの略称とか「這い寄れ」みたいな語感の良さがあるからなのかもしれない。

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