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ギエピーの穴久保幸作先生新作『サウナウォーズ』感想

穴久保先生ってこういうガチのシリアス漫画描けるんだ…
というか週コロって案外フリーダムなんだな…

と感心させられた。ギエピーと作風違いすぎてびっくりしたけど、びっくりするほど面白かったです。

◆ギエピー!!

まあ説明不要だろうが、はい。
かつてコロコロキッズだったぼくも読んでいました。下ネタだらけなのでタイトルにポケットモンスターを冠する直球意味深スタイルなこの漫画、賛否両論だとは思うけれども好きですよ。当時はピッピ好きだけど特に尊厳破壊は気にしてなかったな。
つーか、ぼくが生まれて初めて単行本買った漫画がギエピー。
今では世界中探しても見つからない、最高のボロボロ本さ。

ちなみに一番好きな回はエビワラーをエビフライにする話。あれはギエピーに絶対勝てない最強のカタルシスだった。軽くググったらブルーをブルドックソースにする話もあるんだな。
次点、ギエピーがポケモンの石像をなんでも鑑定団に持っていこうとする話。確かロケット団のアジト(だっけ?)へ行く回だったっけ。あの回読んだときは「そんなこと(メタネタ)やっていいんだ!?」と衝撃を受けたまでもある。

このツイートほんと好き。
「そう「ギエピー」ですよね」とあたかもみなさん当然ご存知な言い回しがいつ見ても笑う。

◆サウナウォーズ

さて本題。
最近知ったばかりなのですっかり出遅れてしまったが、3月にこの読切『サウナウォーズ』が発表された。更には穴久保先生がTwitterを始めた。

クソガキの頃から知っていた漫画家と感動の再会…!
まあ6年前にもニコ生やっていたのだが。というか還暦なのもびっくりだよ。30年も漫画家続けているのもびっくりだが。

この漫画、シリアス>>>>>ギャグのガチストーリーまんがになっている。いちおうギャグはなくはないのだが(自虐ネタは笑っていいのかどうか分からないよ!)、導入から「あれ?これシリアス…??」と穴久保先生の漫画とはとても思えないくらいの雰囲気が醸し出されている。サウナで死にかけるとは何か事故でもあったのだろうか?ウォーズってタイトルだし、まあアホなことでもやったんだろうな。そう想像が膨らんでいく。

そこから本編は穴久保先生の趣味であるサウナについてのモノローグが始まる。最初ヒゲ生えたジジイ(といってもそこまで老けていない/まだ60代だしなあ)だったのがサウナ効果でイケメンに若返っているのは、まあ、「サウナってこんなにすごいんだぜ!」な誇張表現かもしれない。あとなんだかんだでジジイが主人公の漫画はウケが悪いかもしれないし…
しかしサウナに入りたくなる漫画だ。ぼくも温泉が趣味で、よく通っているソコにもサウナがあるが…1分もたたずにのぼせちゃうんだよなあ………まあ今度またチャレンジジョイしてみますよ。

漫画編集の谷くんと出会い、サウナを題材とした漫画を描かないかと提案してくればほう興味深い。ぼくも日本全国のおいしいお茶漬けを題材にした漫画が13年前から欲しがっていますからね。サウナってのもいいじゃないですか。温泉好きにはたまらない観光漫画になりそうですよ。
と、コロコロキッズにはあまり刺さらなさそうな話題で盛り上がる中、明らかにライアーゲームに出てきそうな謎の変態仮面が登場してサウナウォーズ開幕宣言。そう、そこから予想だにしていなかった悲劇が待ち構えていたのだ…というお話。ギエピーみたいなノリを想像すると面を食らう。

◆解説?

まず、サウナが題材の漫画を週コロに掲載させた時点ですごい。
週コロは本誌よりも対象年齢が若干上ではないかと考えられる。前身となるのがコロコロ卒業生に向けた『コロコロアニキ』だし、ぷにるや弾子はコロコロテイストのまま大きなお友達を狙っているからなあ。
過去の名作の復刻連載も兼ねておっさんホイホイの要素もあるわけだ。

とはいえ、コロコロは案外企画もの(ホビー系以外も含む)を好むきらいがあるんだよな。サウナだけではおっさん趣味と言われるかもしれない。
ところが、サウナとデスゲームの悪魔合体はどうだろうか?子供たちの心を掴んでいるんじゃないだろうか?一体どこまで耐えきれるのか?一体どうやってこの灼熱地獄から抜け出せるのか?その辺興味深いフックにもなっている。

あと穴久保先生こういう圧力のある絵も描けるんだなとビックリした。
絵柄は確かに穴久保先生のソレなのだが、インタビューによるとポケモンばかり描いてきたから人の描き方が分からなくなってきたとのことで、いやいや十分描けてませんかね!?だから最初「えっ?マジで穴久保先生?」と驚愕していたわけだ。

◆マジか冗談か

そしてなによりこの漫画、日常と非日常が混ざり合った奇妙な作風になっている。もっと言うなら、「え?デスゲ?ハハハ冗談だよね?」と言いたくなる冗談じゃ済まされないムードが徐々に成立しているのだ。
冒頭はまるで穴久保先生のルポ漫画みたいなムードで始まったのだし、最初こそは日本一のプロサウナーを決めるちょっとした軽い企画もののノリだった。全然そうじゃなかった。

漫画のネタになりそうだが、このまま我慢大会するだけでは面白くない。緊張感を高めるために、ドアに鍵かけられるとかホラー漫画っぽいシチュを望んでいたらマジでそうなってしまい、「以心伝心しちゃったよ~!?」とまだ半分冗談なノリになっていた。
けれどこれはあくまでルポ漫画みたいなノリだからこそアリなんだろう。作中人物も「冗談だよな」と受け取っていたからだ。そも、現実でガチのデスゲが起こってしまってはまずいし。銭湯の営業ガバガバになるし。

もうその時点でアヤシイが、ここからマジのデスゲだとようやく気付けば、漫画生活30年以上送っている穴久保先生の脱出大作戦が描かれる話。これがもう、ギエピーを生み出したとは思えないくらい意外とIQ高い。ツッコミ所はあるかもしれないが、ベテランサウナーの穴久保先生に穴なんかないだろ!いい加減にしろ!

強化ガラスをこすりまくって摩擦熱でぶっ壊すのは如何にも「わ!コロコロっぽいノリだ!」と確信した。未読だけど、『ゲームセンターあらし』っぽいノリっぽくね?

サウナに閉じ込められる恐怖が伝わってきたのも嬉しい誤算だ。
イメージしやすいんだよな。あんな灼熱地獄に閉じ込められるとかマジで冗談じゃねえよってなるもん。サウナストーンに水がかかって室温100度オーヴァーが特に絶望感あった。数字の脅威の示し方としてこれは地味に秀逸だと思う。

死人はひとり出たし、黒幕はぶっ潰せなかったまま、打ち切り漫画みたいで終わったのだけれど、えっと続き来るよね…?カタルシスはなくはないのだが、ちょっと投げっぱなしな構成になっちゃったのは気になった。ただ逆に言うと、どうやって完結させるのかちょっと見当つかないとも考えられるのだが。そこは穴久保先生のウデマエに注目しよう。

穴久保先生が「オラー!!」と叫ぶだけで不覚にも笑ってしまい大変申し訳ございません。


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