【ショートストーリー】梨と上司
仕事をしている時、別の部署の女性の上司の鎌本さんの実家が梨農園ということで少し安くなるらしいので、
「どうですか?」と、訊かれた。
先日スーパーで売っている梨の値段が高くて、「夏の終わり」と頭に思い浮かべる物で甘くてみずみずしい梨は、今年は食べずに終わってしまうのかと岸野華絵は思っていた矢先のことだった。
仕事なのにそんな仕事以外の話を。上司だから出来ることかな。
ある日、
「またそんな事を言って、勘弁してくださいよ」華絵の担当の上司は、頭が上がらないようだ。電話の相手は、おそらく鎌本さんだろう。彼女は、はっきりものを言い責任感が強く、皆からの信頼されている反面、恐れられている。
鎌本さんとは仕事でも仕事以外も華絵は、滅多に話すことはなかった。
なのに連絡先を交換することになった。
梨のことで。
すると即、メッセージが届いた。
「お疲れさま、登録お願いしますね〜」に絵文字入りだった。
続きの鎌本上司の軽い文章のメッセージは、あの近寄り難い印象が吹っ飛んだ感じだった。
華絵も返事のメッセージを送る。
すると、またも絵文字入りのメッセージが届いた。
何だか友達が出来た気がした。
でも、会社では鎌本上司は忙しいそうで、顔を合わすことはなかなかない。
そして先日、梨を鎌本上司から安く買わせていただいた。
夕食後にいただく、皮を剥いて、丸ままかぶりついた。果汁が口から溢れそうになる。
これこれ、この甘くて芯にいくと酸味があって。
やっぱ、芯は取って8つ切りにしたほうが美味しいかも。だって子供の頃の運動会を思い出す。ママがお弁当の後に皮を剥いた8つ切りの梨を出してくれた、梨ってそんな味がすると、華絵は口の中が梨の果汁いっぱいで思った。
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