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夜泣きと煙草と夏の終わり

「もう切ろうか」

 そう言うと、眠たげな声で「やだ」と駄々をこねる。子どもみたいな言い方に、思わず笑みがこぼれる。眠そうにふわふわした声になっているくせに、なかなか電話を切ろうとしない。時折ふっと寝息に近い呼吸音が聞こえてきては、「切らないで」と繰り返す。「寝てないから」と。
 いや、寝てたじゃん。
 そう思うけれど、それを言葉にすることはない。分かっている。彼は、一人で眠ることが極端に下手だ。


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