春乃光

“物語”を生み出すのが好きなfantasist(妄想家)……夢見勝ちな私。巣立った“我…

春乃光

“物語”を生み出すのが好きなfantasist(妄想家)……夢見勝ちな私。巣立った“我が子(作品)”が、誰かのお役に立てれば幸いです。昭和な雰囲気が好き。(S40~50年代かな。憧れの30年代も) ※ 全記事、及び作品の著作権は作者(春乃光)に帰属します。二次使用は固く禁じます。

最近の記事

報いの森

闇への招待状 ひっそりと、闇の中に迷い込んでみませんか? あなたにも経験あるでしょう? 足掻いても足掻いても抜け出せぬ闇…… それは、あなたへの報いなのかもしれません。 善行には光、悪行には闇の報いが訪れる。 あなたはどちらを選択しますか? それは、あなたの心次第! 今宵、異次元の扉が開かれ、ソノモノは目覚めるのです。 どうか、“無間地獄”にだけは落ちませんように! 1  魔手がシートにのびる。爪がガリガリと音を立てる。急にハンドルが軽くなり、操作性を失った

    • 恋ひ初めの街⑤『未来へのプロローグ』

      恋ひ初めの街から この先の物語を綴るのはあなた自身 主人公はあなたです さあ、勇気を出して、一歩を踏み出しましょう その先に、あなたにしか紡ぐことができない新たな物語が待っているはず あなただけの素敵な未来が、 永遠に……

      • 恋ひ初めの街④【第3話】『ひまわり』(葉月)

        恋の余韻  初恋は突然舞い降りた。  ツバメが夏を求めて飛来するように、初めての旅立ちの季節を迎えた二人の少女の胸にときめきをもたらした。  だが、淡い蜂蜜色の盛りに仄かな甘酸っぱい余韻だけを置き土産に初恋は飛び去ったのである。 第一章・出会い ◆1  榎本裕里子の家は眺望の利く高台に建つ一軒家で、祖父母の代からの純日本家屋の木造二階建ての佇まいは、頑なに伝統を守り続けんと腕組みをして胡坐をかき、周囲の西洋風のモダンな家々ににらみを利かしている老人のように映る。

        • 恋ひ初めの街③【第2話】『七夕』(文月)

          第一章・七夕祭り 1  七夕祭りの一週間は心が躍る。  七月七日のクライマックスには、町内の十六歳から二十五歳までの男女を対象に自薦、他薦を問わず当年の彦星と織姫の候補者を募り、選出された二人をそれぞれの輿に乗せ、輿を囲んだ稚児行列ともども天の川に見立てた神社の参道を、年に一度の再会の場所と設定された本殿まで練り歩き、そこで初めて二人を引き合わせるという趣向が三十年来の慣わしになっており、中にはこれがきっかけでめでたく結ばれた彦星と織姫もいる。結果的に若い男女の出逢い

        報いの森

          恋ひ初めの街②【第1話】『雨傘』(水無月)

          1 嫌悪の街  こんな街は嫌いだ。  当時の面影はない。バス停の位置だけだ。確かにあの日以来ここに存在し続けている事実しかない。  辺りを見渡してみる。  あのとき、バス同士が辛うじて擦れ違うだけの幅しかなかった砂利道は、反対側の小川を越えて拡張され、アスファルトで舗装された。暗渠化された小川は、道路下の暗闇に閉ざされ、命の息吹は聞こえてはこない。古い木造の民家群と田畑のみの風景は全て冷たい人工の石の下に埋もれてしまった。  天を仰ぐと、ビル影が背後から迫り、息苦しい。

          恋ひ初めの街②【第1話】『雨傘』(水無月)

          恋ひ初めの街①『プロローグ』

          恋ひ初めの街 初恋が訪れた街がある 想い出がある 誰しもの胸に物語がある セピア色に褪せた記憶の片隅に ほとばしる青春の息吹が眠っている たぎる想いは 胸底から湧き出で 焦がし 切ない怒涛となって押し寄せ 時にはしどけなく身悶えて掻き毟る 旅立ちの歌を口ずさみながら振り返れば 置き去りにした足跡が 未来へと舵を切っていたことに気づくだろう もう迷わない 青春の悔恨を 狂おしく燃え盛る焔に変え 胸に灯したまま歩き続ける 新たな物語を紡ぐために

          恋ひ初めの街①『プロローグ』

          哀歌

          『演歌の花道(テレビ東京)』風 うらさびれた都会の夜に 月の明かりは儚くて 君と酌み交わす酒に酔う うつろな瞼に映る影 悲しくうたう父の顔 気づけば腕も細くなり 我が来た道を背中に問う 優しき母の膝枕 幼き我に子守歌 血潮のかぎり抱かれて 心を揺する叱り声 うらさびれた都会の夜に 街の灯りは侘しくて 昭和むかしを綴る酒に酔う *** 「しみるねぇ……」 故・来宮良子(きのみや りょうこ)さんに捧ぐ

          あなたは、かけがえのない家族だから【第4話】『君を恋ふ』

          1  僕の朝は、君の声で明けるのさ。  カーテンを引き、窓を全開にしたら、清々しい朝の気配を身に纏う。  と、君はまた僕に呼びかける。 「もう起きてるよ。心配しないで」  ──今朝はコーヒー?  ──紅茶?  迷いながら僕はケトルに水を入れ、火にかける。  ついでに食パンをトースターに放り込んで新聞を読む。  ついつい記事に夢中になっていると、君の声にハッとする。 「あっ、ごめんごめん。教えてくれてありがとう」  ぼくは慌てて火を止め、しばらく考えてから「今朝は紅茶にす

          あなたは、かけがえのない家族だから【第4話】『君を恋ふ』

          あなたは、かけがえのない家族だから【第3話】『へんせいけんたい』

          1  どうしたことでしょう。正気を取り戻した私は、仰向けに寝かされていました。腹部の痛みで七転八倒していたのを覚えていますが、その後の記憶が定かではありません。ということは、恐らく気を失っていた。  目玉をぐるりと回転させてみると、私の周囲を緑色の集団が忙しなく動き回っています。彼らの腰当りに目線があるということは、何らかの台の上に私の体は乗っているのでしょう。肉切り包丁を摘まみ上げて満足げに天にかざし、裏表を丹念に確認していましたが、冷ややかな視線を私に落としながら何

          あなたは、かけがえのない家族だから【第3話】『へんせいけんたい』

          あなたは、かけがえのない家族だから【第2話】『鏡』

          プロローグ  途中下船して小舟にのりかえた。  苦楽を共にしてきた家族との旅路が胸に去来し、たったひとり、遠ざかる船影を見送りながら、切なさと寂しさに苛まれた。  ──娘の手を取って引き寄せ、抱き締めてやりたい!  ──全身全霊で守ってやりたい!  願望は海の藻屑と消え、手を差しのべることは到底できはしないのだ。  家族をのせた船は、沖へ沖へと次第に小さくなり、やがて視界から消失した。  嘆き、叫んでも声は届かない。この、母の思いは最早伝わらない。  やるせない刹那を、

          あなたは、かけがえのない家族だから【第2話】『鏡』

          あなたは、かけがえのない家族だから【第1話】『メロン』

          プロローグ 健太からおばあちゃんへ  おばあちゃんは泣きました  ぼくがいなかへいったとき  ヨウキタ、ヨウキタ  といって泣きました  おばあちゃんは泣きました  ぼくがおうちへかえるとき  マタコイ、マタコイ  といって泣きました  おばあちゃんは泣きました  ぼくがでんわをかけたとき  アイタイ、アイタイ  といって泣きました  おばあちゃんはもう泣きません  とおいお国へゆきました  キタヨ、キタヨ  といっても泣きません おばあちゃんから健太へ  

          あなたは、かけがえのない家族だから【第1話】『メロン』

          武器をとれ【第6話】『スズメ』

          群れ社会  春麗かな休日、アパート二階の南向きの窓から外を眺めていたら、雀の群れが電線や隣家の瓦屋根にとまった。  切妻屋根の棟は東西方向に走り、片面を向けた瓦群の光沢が南中の陽を一枚毎に反射して波打つ。平屋の棟を目線は直角に掠め渡る。右目の視界にアンテナが映った。  数十羽の群れはそれぞれ散らばって己が場所に落ち着いたかに見えたが、忙しなく狭い範囲内で移動を繰り返す。  電線にとまっている連中は左程の動きは見せず、比較的おとなしくしている。  屋根の一団の中から、縄張

          武器をとれ【第6話】『スズメ』

          武器をとれ【第5話】『宇宙船 ノアの箱舟号』

          1  宇宙大航海時代の幕開けから数万年が経過した。  地球を離れ、宇宙の果てへと入植可能な惑星を求めて更なる人類の繁栄を目論んだグレートジャーニーは、何の障害もなく幾世代へと引き継がれてきた。  月の半分ほどの巨大な自給型宇宙船“ノアの箱舟号”の乗組員にとって、船内だけが故郷である。地球を知らぬ彼らは、いつの日か大地に足を下ろすことを夢見て大冒険を続けていた。船内で生まれた者の名付け親は、私、ハル(“ノアの箱舟号”に組み込まれたAI)に一任されている。その役割に相応しい

          武器をとれ【第5話】『宇宙船 ノアの箱舟号』

          武器をとれ【第2話】『カズタカ』

          1  カズタカとは小学校三年のクラス替えの折出会ったのだろうけれど、その日の記憶といえば、新担任の後藤先生が教室前の廊下にて自己紹介したときの印象しかない。 「先生、いくつに見える?」  腐った粘着質の肉塊でも頬張って異臭を放ちながら口腔内で転がすように、嫌に舌に絡みつく口調の問いかけに、皆、しばし沈黙して目を躍らせたのち、一匹の蝉が泣き始めた途端、方々から勝手気ままな声が上がると、たちまち時雨となって木造校舎のガラス窓を震わせんばかりに二階の廊下全体に反響した。 「先

          武器をとれ【第2話】『カズタカ』

          武器をとれ【第1話】『武器よコンニチハ』

          序 章・抑止力  ぼくは武器を高々と天にかざした。  ──幾人をも毒牙にかけてきたことか……  武器入手以来、ぼくの生活も意識も一変した。護身の手段が備わったことで、安心感は格段に増すし、いざとなれば、こちらから挑発して先手を打ち、力の拮抗を保つことすら容易くなった。これまで虐げられ続けた相手とも互角に渡り合えるまでになったのだ。  ──これぞ武装の賜物である!  ──やはり、戦力はバランスが大事なのだ!  ぼくは、つくづくそう思う。  ──だが、ひとたびバランスが崩れ

          武器をとれ【第1話】『武器よコンニチハ』

          永遠に、ぼくの心を

          以下のサイトで公開中です。   ◆『ノベマ』   作品ページへ ⇒ GO  【あらすじ】 幼馴染で初恋相手の田代章乃は立花健祐の前から突然姿を消した。 年に一度の『交換日記』の約束をして、誰もいないホームで初めての口付けを交わしたあと、彼女は列車に乗り込み、こちらに向き直ると涙を滲ませながら叫んだ。 ドアが閉まったあともしきりに何かを訴えかけていたが、全く聞き取れない。 結局、分からず仕舞いでそのまま別れたのだ。 それが章乃を見た最後となった。 お互い17歳、高

          永遠に、ぼくの心を