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わたしのアイドル

わたしのアイドル

わたしは小さな美容室にいた
髪のセットとメイクを担当していた
わたしのメイクが人気になっていった
わたしはこの仕事が好きだった
わたしのメイクで変わる人
笑ってありがとうを言ってもらえて
こんな幸せな仕事ないなと思っていた

この仕事が
辛くなる日が来るなんて
思ってもいなかった

わたしのメイクを見た人から
店長経由で仕事のオファーがあった

男性アイドルのメイクの依頼だった

女性のメイクしかした事ないのに
大丈夫なんだろうか

不安な気持ちのまま現場に向かった

その日はMVの撮影のようで
かなりの人がいた

彼等は5人組のアイドルグループだった
わたしは知らなかったけど
かなり、ダンスと歌の上手いアイドルみたいだ

後で、友人に聞いたら
凄いよ!今、どんどん人気が出てきたアイドルだよ
と言っていた

若干20前後の彼等は
10歳上のわたしから見てもプロだった

真剣に仕事に向き合う姿に
アイドルなんてどうせ
と思ってたわたしの考えは
180度変わった

休憩に入った時に
挨拶に行った
どの子も礼儀正しく
可愛い子たちだった

挨拶した後
5人で騒いでいた姿は
普通の男の子たちだった

私はその中のひとりを担当する事になった

化粧映えのする顔
笑うと年齢の割に子供っぽい印象
なのに、スイッチ切り替わると
突然、引き込まれる
ダンスがしなやかでキレイ
声はハイトーン
可愛く見えたり
妖艶に見えたり
いくつもの彼が現れる

いろんな人に愛想のいい彼は
わたしにも同じだった

いつでも
可愛い笑顔とコロコロした優しい声で
挨拶してくれた

メイク中、子犬のように私を見つめる

可愛い子

彼は観察眼がある
メンバーのちょっとした表情を読み取って
声をかけていた
それはスタッフに対しても同じで
わたしにも声をかけてくれる

少し疲れていた私に
今日の撮影、長引いてすみません
とメイクしながら、謝る彼

普通に世間話もする
わたしなんかに合わせなくてもいいのに
と、思いながら嬉しい気持ちになる

どんどん惹かれていくわたし

こんな至近距離
恋人同士の距離
勘違いしそうになる距離

平静を装いながら
彼をずっと見つめていたかった

でもね
もう、無理

苦しくなるこの仕事場は

これからは彼を遠くで
見守ろうと
彼のいる職場からさよならする事にした

それをスタッフから聞いた彼は

今日までなんですね、残念です
今までありがとうございました

こちらこそ、ありがとう
頑張ってね!
応援してるよずっと

ありがとうございます
ゆきさんのメイクすごく好きだったのにな〜
やっぱり、さみしいな

ふふ、ありがと!(この子はホントに)
次はファンとして会いに行くよ

はい、楽しみに待ってます

笑顔でサヨナラした

彼はアイドル
今からどんどん上に登り詰める人

近くにいても遠い存在
辛くなる前に
さよならできて良かった

今は、君を遠くから応援できる

少し前まで、近くに、触れる距離にいた彼は

やっぱり、遠い人で

ホントに好きなわたしの “推し”

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