「恋とか夢とかてんてんてん」世良田波波 一巻の感想

※初めに
こちらは漫画「恋とか夢とかてんてんてん」一巻の私的感想になります。
レビューなどではなく、点数もつけません。
ネタバレがあります。
よろしくお願いいたします。それでは、どうぞ。


「この世界に存在していいし きみを勝手に好きでこんなに幸せだ」

主人公・貝塚道子、カイちゃんは、もうすぐ三十になるフリーターの女性である。
夢を追って東京に来たが何者にもなれなかった。そんな辛い現実を見つめながらも日々を彼女は懸命に生きている。なんのために?
そう。彼女は今、恋をしていた。
お相手は仕事場の一流企業に勤める年若い青年。エリートでかっこよくて自分と同じく猫が好き。高円寺君と呼ぶその青年に、彼女は勝手にのめりこんでいく。
……といったお話なのだが、まあ御察しの通り、イタイ。ものすごくイタイ。いや、カイちゃんがとてつもなく残念な人だというのではなく、自分のこの胸がひどく痛いのだ。

きちんと夢をかなえ自分の思ったような暮らしをおくれている人が、この世界に何割いるのだろうか。
きっと、かなり少ない事だろう。
それにはセンスも必要だし運も必要だ。何かの資格のように頑張ればいつかと思えればいいが、カイちゃんのように絵描きとなると……
夢破れた者の方が圧倒的に多い。多すぎる。
ようするに、そういう経験をした人にとても刺さるお話なのである。

カイちゃんは生きることに行き詰まり、絵を捨て高円寺君への恋路に走る。
文字通り、走りまくり。ついには転勤した彼を追いかけて大阪に転居してしまうのだ。
暴挙ではあるが、みなたぶん心当たりがあるだろう。
あるあるではないだろうか。
ゆえに結末も見えてきてしまう。心当たりのある塞ぎかかった傷痕が。


「だって29歳で結果出せてないってことは その夢もう終わりでしょ」

大阪に移住したカイちゃん。ボロアパートに住み近くのコンビニで働き始める。愛しの高円寺君ともなんとか交信に成功し「変わりたい!」と一歩踏み出すことにした。
したわけだが、なんともその一歩が危なっかしい。
「高円寺君のどこが好きなの?」とこちら側にいる読者が問いかけたくなる。「本当に好きなの?」と。
しかし、カイちゃんは突き進む。
ついにはホテルに二人たどり着くが、どうやら高円寺くんには彼女と付き合う気などなく……というか恋人もしっかり東京にいる最低男であるということが判明してしまった。
しかししかしカイちゃんは止まらない。いや、止められない。
だって彼女の夢は、今や、高円寺くんなのだ。

高円寺くんがコンプレックスを吐露する場面があるのだが、そのシーンで彼が言う。
「29歳で結果を出せてないってことは、その夢はもう終わりだ」と。
彼女の夢も一回終わっている。
しかし、この夢はあきらめたくないのだ。
彼女の純粋で貪欲で嘘つきな感情は恋というより夢に対するものとよく似ている。そう感じる。

この道はどう考えても勝算はなく、彼女の想いは届くことはないだろうと思う。少なくとも今のままでは。
高円寺をぶん殴ってやりたいのは山々だが、彼も苦しい。
彼女が本当に触れるべきは彼の体などではなく、その傷だと考えるわけだが……
恋ってわからないし、難しい。
この世界には数多の人がいて、数多の夢がうずまいている。
それも怖いし難しい。
でも、彼女が間違っているとも思わない。
失敗なんて誰が決めるのか。
進んでくれ、カイちゃん。そうつぶやきながらページをめくった。
私の分まで、あの日の泣いていた私たちの分まで。

次巻が楽しみです。


つたない文章を最後まで読んでくださりありがとうございました。













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