アマミヤ【短編小説】
「私さ、雨宮先輩の事が好きなんだよね。卒業してしまうのが寂しい」
「それって、恋じゃなくて“憧れ”でしょ?」
どうしてクラスの女子達が話すバスケ部男子への想いは「好き」で盛り上がるのに、私が話す元剣道部女子への想いは「憧れ」で片付けられてしまうのか。
「彼女の事が好き」と友人に話す度「それは恋じゃないよ」と否定される。
私だってクラスの皆と好きな人の話しがしたいのに「間違ってるよ」と言われて、最初は心底不愉快に感じたけど、同性に恋焦がれている自分は、世間でも少数派である事を知る程に肩身が狭くなり、女子達の会話を聞くのがとても辛くなった。
柔らかそうな癖毛を二つ結びにして、細く真っ直ぐ伸びた白い脚。少し猫背気味の彼女は百合の花のように美しい。
4時間目の授業が終わると、彼女は毎日必ず職員室を訪れていた。確実に会える瞬間を逃したくない、私は授業が終わると毎日急いで職員室に向かって彼女を待った。階段を降りてくるのが見えると「こんにちは」と声をかけに行く。
静かな性格の彼女と「こんにちは」以外の言葉を交わす事は殆ど無かったけど、たまに「部活はどう?」と聞いてくれた
「雨宮先輩がいなくて寂しいです」
「新人戦出たんでしょ?」
「初戦で負けてしまいました」
「2年生相手に一本取れたんだから、自信持って」
ほんの数秒でも会話ができた時、彼女の一言一句全てをノートに書き起こした。何度も読み返し、頭で再生してる時間は甘やかであると同時に、彼女が卒業するまで残り数ヶ月の間、もうノートのページは何枚も進まないであろう虚しさが喉の奥を突く。
彼女と手を繋いで一緒に下校したり
休日一緒に食事をしたり
家で勉強を教えてもらったり
妄想は全て妄想で終わり
卒業式の日を迎えてしまった。
最後に校内を周る卒業生を、在校生が廊下に並んで見送っていた時、彼女が私の前で立ち止まり
“ 雨宮 ”と書かれた名札と手紙をくれた。
私の頭を撫でて最後に「泣かないの」と言って
彼女は行ってしまった。
初めて見た彼女の文字は、真面目な性格と端正な顔立ちがそのまま現れたように綺麗で、蝶々と白い百合が描かれている上品な便箋は彼女そのものに思えた。
「好きでいてくれてありがとう。転校すると聞きました、転校先でも剣道部があれば続けてほしいです」
両親の離婚で母の実家に引っ越し、転校先での学校生活、進学、就職。環境が変わる度に新しい出会いに期待したけど、彼女だけがいつまでも特別で、男であれ女であれ、彼女より誰かを愛おしいと思う事は無かった。
母を安心させる為に結婚したくて、我武者羅に運命の人探しを続けていたけど上手くいかず
私は百合の花を抱きしめたまま一生独身かもしれない。そう諦めかけていた頃に旦那と出会った。
旦那は間違いなく私の運命に引き寄せられたと思う。4年前に結婚し、息子はもうすぐ3歳になる。保育園に持っていく紙オムツに、名前スタンプを手際よく押していく瞬間はとても気分がいい。
「 あまみや はると 」
息子の顔はどんどん彼女に似ていく
一輪の百合は根を張り続け、白い花びらは曇ることなく光を反射し続ける。世界は今日も明るい
アマミヤ【終】
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