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覚悟を決めた夏

親の意見は絶対だ。
子どもの頃は特に。
事実かどうかは別として、ずっとそう思って生きてきた。

夏になると思い出すことがある。
小学生の頃の夏休みに、毎年おこなわれる家族旅行だ。

***

私の親は、昔から旅行が大好きだった(特に母)。
ときには空が暗い時間帯から車に乗り込み、12時間近くかけて東京に出掛けたこともある。

いっぽう私は、旅行が得意じゃない。
正しくは「旅行」ではなく、「両親との旅行」が苦手だった。

それに気づいたのは、自分が親になってから。
子どものときは、親といる時間が長いから旅行が苦手だなんて、思いもよらなかった。

***

夏休みに家族で旅行すると、決まって私は体調を悪くした。
車に酔いやすく、何度も停車してもらいビニール袋に向かって、うなる。

観光地に行けば、人が多いせいかめまいがして、「休憩したい」と親に度々お願いした。

すると、大抵母に「せっかく来たのに、もったいない」とため息をつかれてしまう。

***

母が立てる旅行のスケジュールは分刻み。
私にとっては、かなりハードなものだった。

一日のうちにいくつもの観光地を回り、何度もご当地名物を胃に収め、夜遅くまで出歩く。

体力があって旅行が好きなら、「それが醍醐味じゃん」と、楽しめるだろう。

でも、環境の変化に弱い私にとっては、しんどいだけだった。

夜、「やっと寝られる!」と思ってベッドに入っても、ホテルや旅館特有のパリパリのシーツがしっくりこなくて寝付けない。

睡眠が足りてない分、二日目以降はさらにコンディションが悪かった。

「できるなら、家族旅行には行きたくない」というのが本音だった。

だけど、当時小学生の私は何日も一人で留守番できない。

家族旅行はどうにも避けられないものだった。

だから、「嫌でも我慢して着いて行く」しか選択肢がなかったのだ。

***

でも「親の意見は絶対」という考えは、思い込みだった。

気付かせてくれたのは、ライターである佐藤友美さんの著書、「ママはキミと一緒にオトナになる」だ。

「僕には、僕の気持ちというのがあるから、ママはそれを大切にしてほしい」

引用:ママはキミと一緒にオトナになる

家族で温泉に出かける話が出たときに、行くのを拒んだ、当時6歳の息子さんの言葉だ。

衝撃だった。

「子どもだから声をあげられないというのは思い込みで、親に自分の気持ちを伝える権利はあるんだ」と。

そう気付いたのと同時に、大人にはっきりと意思を伝えられるのが羨ましかった。

だって私は最近まで、「育ててくれた親に反論するのは申し訳ない」と思っていたんだもの。

「親の意見は絶対だ」

ああ、そっか。
それを選んだのは、私自身なんだね。

***

今年の7月にも、家族旅行は決行された。

私、娘、両親の4人で長崎のハウステンボスへ。3泊4日とまあまあ長い。

この旅行の主催者も母だ。
私が子どもの頃と変わらず、「予約したから」と事後報告だけしてきた。

とはいえ、前日までキャンセルできるのだから、気が乗らないなら母に言えばいい。

だけど、私にはそれができない。

両親は孫と旅行に行きたい。
娘はじいじとばあばとのお泊まりを楽しみにしている。

両者の気持ちがお互いに向き合っているから。

ああ、家族っていろんな意味で厄介よね。

だけど、私だってもう大人。
親との距離の取り方は、うまくなってきたつもりだ。

基本的に旅行先では、私と娘は両親とは別行動にして、ゆるめのスケジュールで動く。

たとえば、疲れたらホテルに戻ってベッドでゴロゴロしたり、お店に入るのがしんどいときは、コンビニで買ったおにぎりを部屋で食べたりする。

子どもの頃と比べたら、かなり自分のペースを保てるようになった。

それでも、完全に心が解放されることはない。

別の場所にいたって、親の視線を感じるから。

しょっちゅうLINEで

「〇〇には乗った?」
「お昼ごはんは食べた?」
「次のシャトルバスは〇分と〇分だよ」(ご丁寧に時刻表の画像付き)

と連絡がくる。

「私ってそんなに頼りないのかな」。

大人になっても信頼されていないみたいで、スマホを開くたびにため息が出る。

けれど、今の親との関係を選んでいるのは私だ。

この息苦しさから抜け出すには、覚悟を決めてアクションを起こすしかない。

***

自分がどうしたいかは、自分で選べる。
年齢関係なく、親と違う意見をもつのは自由だ。

「親に言われたから」なんて言い訳にしかすぎない。
悔しいけれど、選んできたのは自分自身だから。

だけど、今の私なら大丈夫な気がする。

「収入を増やして、実家を出る」

この夏、決意を固めた。

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