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交わることはなかったけれど。

#青ブラ文学部 企画 「習作」のための課題
#始まらずに終わった恋 に参加(チャレンジ)します。


他愛もない、どこにでもある思い出を綴ろうと思う。
時は1980年代後半、世の中がバブルに沸き、女性がバレンタイン商戦に我先にと躍らされていた時のことになる。
私はその熱狂の外側で、地道に進物洋菓子の店員をしていた。サービス業種は人様がお休みの時が一番の稼ぎ時である。当時20代で貯蓄も少なく、とにかく働いて稼がなければならなかった私は、休日に他店(勤務していたメーカーは神戸発祥の老舗で、市内に何店舗か展開していた)に出向するなど、休日返上で菓子を売っていた。

そんなある日、少しだけ懐かしいと感じられる人が、私が働く店を訪れた。

「いらっしゃいませ。……お久しぶりです。近くまで用事があったんですか?」
「うん、所用がね。同僚がここのチーズケーキが好きだから、買っていこうと思って」
ケーキやプリン、ムースが並んだ透明なガラスケースをはさんで会話を交わす。店を訪れた人は、私の前職、そこでの同僚だった。
店頭では会話を続けることはできない。上司が「休憩に入ってお知り合いとお茶を飲んできたら」と薦めてくれたので、それを受けてその人を誘ったのだが「仕事中に申し訳ないから、また別の機会に」と辞退された。その時はそのまま店員と客として別れたのだが、その人、その男性は、その後も一週間に一度は店頭に姿を見せてくれた。

恋愛事には疎い無粋な私だが、多忙なはずの彼がこうして何度も店に足を運んでくれる様子を見ると、うぬぼれてもいいのだろうか、と考えた。それの真偽を確かめようかと私が連絡を取る前に、前職の後輩から私に電話が掛かってきた。

「ねえ、Aさんだけど。Mさんの職場に足繁く通っているでしょ?」
「うん。何度も来てくれているよ。休憩には入れるし、終業後でもいいから『お茶か食事でも一度どうですか?』って私から誘っているんだけど、遠慮されちゃうんだよね」
私の言葉を受けて、後輩の声がやや熱を帯びた。そして告げられたのは、
「あの人、何やってんのよ!私にMさんの職場のこと、訊いてきたくせに。デートくらい誘えっての!!」
彼の行動の裏話だった。

あらま。それならば、とても光栄なことなのだけれど。私のような堅物に心を寄せてくださるなら、喜んでデートするのに。そう思って考えた。
ここは、女からリードすべきなのか?それとも彼からのアプローチを待つべきなのだろうか。そんな逡巡が1ヶ月ほど続いた。どうやら彼も同じ迷いを抱えていたらしい。そして、よくある話だが、客として足を運び、そこから全く進展のないまま、彼は転勤で遠い地に赴任していった。

釣り逃した魚は大きい、と巷では言うが、この場合は私が釣り逃したのか、釣られず仕舞いだったのか。苦笑いと共に、今は消息の分からぬ男性の笑顔を思い出す。恐らく、私たちは縁がなかったのだろう。真のパートナーは別にいたのだから(少なくとも彼はそうである。素敵な女性と結婚、幸せな家庭を築いたと人づてに消息を聞いたから)。

これが、私の二十代、#始まらずに終わった恋 の思い出である。私としては過ぎし日の微笑ましい記憶だが、ご閲覧くださった方には、彼と私の顛末がどう映っただろうか。もどかしいんだよ!という天の声が私には聞こえている(笑)


 文章題名:交わることはなかったけれど
(テーマ:始まらずに終わった恋
本文 1302字(原稿用紙4枚相当)

最後に、若い世代の方(バブルを知らぬ世代)へ小母さん(^^;)の老婆心を。参考までリンクします。

では、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。山根あきらさんに、この場を借りて御礼を申し上げます。

| 8つの課題 |

次に挙げる8つのタイトルの中から、いずれか1つを選択して、創作してみよう。小説、エッセイ、詩、短歌、俳句、評論文、学術的論文etc.。ジャンル・形式は問いません



◎「#始まらずに終わった恋

◎「#やばい恋心

◎「#聖なるウソを呟いて

◎「#気づかなかった愛

◎「#癒えない傷とともに

◎「#灼熱の悲しみに悶絶して

◎「#言いそびれた『ありがとう』

◎「#言えなかった『ごめんなさい』



青ブラ文学部募集要項



2023年9月3日までに投稿された作品を
山ちゃんランキング(マガジン)」に登録します。




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青ブラ文学部企画 ✒️| 「習作」のための課題(9/3まで)
山根あきら/妄想哲学者🤔 さま
2023年8月28日 17:01 記事より

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