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Doo Wopを聴きながら──20数年後に

どんな人でも、おそらく"波"はあるだろう。ずーっと一定してハイテンションな人とか、ずーっと一定して落ち込んでいる人とか、というのはちょっと想像しにくい。どんな人でも、ちょっと落ち込んだり、ちょっと嬉しくなったりはするだろう。また、そうあってほしい、という気持ちもある。ささやかな喜びはどんな人にもあってほしいし、逆にガッカリするようなことが全くない人生というのも味気ない気がする(あえてガッカリを味わいたいとは思わないだけで)。

ぼくはおそらく感情の起伏が、まわりの人が思っているよりは激しい人だろう、と振り返って思うことがある。あまりそういうふうには見えないかもしれない。表に出すか、出さないか、はともかく、ぼくは好・不調の"波"をけっこう意識する人だ。いまでは、若い頃ほどではないと思っているが…

最近どう? と自分に問うてみると、「う〜ん。いまいちだな」とこたえる。

すごく悪いわけでもないが、よくもない、というわけ。不調がまったりやって来てる感じというか。そういう言い方をすると、嫌だな。

ぼくの音楽好きは仲間内では有名(?)だろうけど、本を読んでいるよりレコードを聴いている時間の方が幸せですと言えばわかります?

調子が悪いと、"癒しの音楽"が聴きたくなる。何が"癒し"になるかは、人によるわけで、ぼくの場合は、たとえばDoo Wopを聴く。

Doo Wop(ドゥー・ワップ)、1950年代を中心に、アメリカの都市の街角(ストリート)で流行ったリズム & ブルース(黒人音楽)の、ハーモニー(コーラス)グループのスタイルを指す。(こんな説明は雑に過ぎるが、万が一、これを読んで初めて興味持ったという人は調べて。)

Doo Wopだったら、ぼくは何でも好きだ。上手い・下手もある意味では関係がない。ストリート・ミュージックなのだから。

Doo Wopといえば、10代の後半(1990年代の後半)に、Rhinoから出た"The Doo Wop Box"(1〜2、そのあと3)を狂ったように聴いていた頃を思い出す。

きっかけは、山下達郎さんのラジオ「サンデー・ソングブック」で1996年11月に4週間かけて放送された「オール・アバウト・ドゥー・ワップ」だった。それ以前からも好きで聴いてはいたが、あの4回の放送が決定打だった。23年前のことだ(その時の放送を録音したカセット・テープをいまでも大事に所持している)。

しかし、その頃は「いかにもDoo Wop!」といえるようなスタイルをもった音楽を夢中になって聴いていたわけで、たとえば、The Dubs "Don't Ask Me (To Be Lonely)" には惚れ込んで繰り返し繰り返し聴いたが…

The Larks "My Reverie" を気に入って好きで好きで聴いていたかというと、そうでもない。

"My Reverie"は、Doo Wop Box ⅡのDisc 1の1曲目なのだ。だから強烈な印象になって残った。しかし、ぼくがそれ以前に聴いて、思い描いていたDoo Wopのイメージとは明らかに違っていた(ドゥー・ワップ・グループと言うには上手すぎる感じもしますね)。

"Don't Ask Me"はいわばDoo Wopの王道──黄金時代(?)のレコードで、「それを好きになれないならもう聴かないでよろしい!」と言っていいが、"My Reverie"はまだロックン・ロールが生まれる前の音楽で、いわば"源流"の音楽だから、すぐに「いいね」となるわけはなかった。が、その時はそんなことわからない。わからないまま、ただ、ただ聴いていただけだ。

どんなことにも、そこに行き着く前があり、行き着いた後がある。

あれから23年がたち、ぼくはその全てを、全体を、包み込むような聴き方ができるようになっている。そのことに、いまようやく気づく。

Doo Wopの時代から現在まで、半世紀以上にわたるソウル・ミュージック、ブラック・ミュージック、いや、もっとひろい意味でのポップ・ミュージックをあっちへ、こっちへゆきながら、いろいろ聴いてきたからわかるようになったことが多いような気がする。録音された音楽を聴くという環境も、この20数年の間に劇的に変化してきていて、そのことも無関係ではないだろう。

たぶん、いきなりわかるようなことは多くなくて、立ち戻ったときにようやくわかる。──のだろうと思う。

何にかんしてもそうか、どうか、わからないが、立ちもどれる場所を意識していられることは、幸せなのかもしれない。

(つづく)

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