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短編小説:別の駅で降りる

 女子高生が電車で話してる話。約1200字。

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「自分でどうにかするしかないじゃん」

 アキのその台詞はさも当然と言わんばかりで、その瞬間、私は相談する相手を間違えたのを悟った。


 アキは中学時代に同じクラスだった友人だ。進学先の高校は違ったけど、たまに連絡は取り合ってたし、通学時に朝で駅で会うこともあった。

 それである朝、駅で遭遇したときにポツッと漏らしたのだ。もうすぐ高一の一学期も終わるのに、クラスでいまいちなじめなくて憂鬱だって。

「いじめがあるわけでもないんでしょ? なら愚痴ってもしょうがないし」

 電車が到着し、一度会話を打ち切って私たちは満員電車に一緒に乗り込んだ。電車が走りだし、私と向かい合ったアキは再び話し続ける。

「自分で現状打破するしかないじゃん。壁は自分で乗り越えるものだよ」

 次々とポジティブなアドバイスを投げつけられ、はぁ、と間の抜けた返事をついくり返してしまい、最後は焦れたように訊かれた。

「ナツミって前からそんなにネガティブだったっけ? そんなんじゃダメだよ」

 そう言うアキこそそんなにポジティブの塊だったっけ? って考えてから気がつく。

「アキ、バスケ部は楽しい?」

「しんどいよ。でも、全国行くにはあれくらいの練習なんでもないし、いい先輩と仲間もいて楽しい」

 なるほど、部活熱心な生徒の模範解答だ。


 アキが降りる駅に到着し、私たちは手をふり合って別れた。閉まるドアの向こうで颯爽と去っていく彼女の後ろ姿を見送って考える。

 今のアキの周囲は、きっとあんな風にポジティブな考え方の人ばっかりなんだろう。

 昔からアキはそうだった。周囲に合わせるのが得意で染まりやすい。夢中なものにとことんのめり込む。今はきっと、そういう部の空気が好きで居心地よくて、そういう世界がすべてになってるに違いない。

 言われたことはもっともではあるし、それを否定するつもりはない。けど、明るくてキラキラでポジティブな世界しか見てないの、ちょっと怖いって思ってしまった。あれが彼女の意見なのはわかるけど、ほかにも色々考え方はあると思うし、一方的に否定されて、自分と違う価値観もあるんだってことを考えてもないような勢いで、なんというか驚いた。

 ……でも、そう思うことすら私の中の閉じた世界の考え方かもしれないけど。

 かつては同じ教室で同じ話題で笑ってたはずなのに、環境が変わると考え方も変わるっていうの、ホントそのとおりなんだなーって寂しい気持ちも膨らむ。かといって、アキに似たような愚痴をこぼす気持ちはもう湧かない。もう違っちゃったんなら、無理して理解してもらうのもなんか違うし。

 言ってもしょうがない。

 環境は変わってく。こうやってその時その時で心地のいい場所に身を置いていくしかないんだなーなんて悟ったようなことを考えるけど、そういえばクラスも別に居心地がいいわけじゃないし、ヤバイ、私はどこに身を置いたらいいんだろう。ぼっちか。

 走りだした満員電車の片すみでスマホを見る。どこかに同士はいないのか。

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環境が変わると人は変わるじゃないけど、話噛み合わなくなることあるよねーと思ったお話。友だちは大事にしたいけどこればかりは難しい気がする。
というかnoteを更新するの久々でした。ちょいちょい書きたい気持ちはありつつ、どうしてもやることがあって忙しいとあと回しになってしまいがち。とはいえ訓練なので続けてはいきたいのですけども。

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