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エンターテインメントの灯は消さない 緊急事態宣言下の今、観る側の私にできること

3度目の緊急事態宣言が、東京に出された。

対象地域は東京だけではない。大阪、兵庫、京都も対象となった緊急事態宣言の要請内容には、不要不急の外出や都道府県をまたがる移動の自粛、大型イベントの無観客での実施などが含まれた。

対象地域では、劇場も映画館も閉館を余儀なくされた。「不要不急の外出」に当たると、国の政治をつかさどる皆さんはお考えのようだ。演劇やミュージカルを観ることも、映画を観ることも、彼らにとっては「不要」なものに見えるのだろう。

だが、これだけ長引くコロナとの戦いを耐え抜くのに、本当にエンタメは不要なのだろうか。

私にとって、映画や演劇やミュージカルを観ている時間は、思いきり泣いたり笑ったり怒ったり、心をフルオープンにして震わせるためのものだ。そして、観た後は「あー、面白かった。やっぱりお芝居って最高だな」と思いながら家路につく。お芝居は、明日からの仕事や家事を頑張るための活力をくれるものなのだ。

それを2週間、対象地域に住んでいる国民から、根こそぎ奪うという。
ただの2週間ではない。ゴールデンウイークだ。国民の大半が休む2週間だ。

劇場でクラスターが発生したと言っていたことは確かにあった。だがそれは、普通のお芝居ではあまりやらない演出をしたが故のことであって、それ以外でクラスターが発生したと聞いた記憶はない。ましてや、映画館でクラスターが発生したと聞いた記憶は、私の中にはない。

相次ぐ公演中止、再び

コロナの流行が始まってから映画館に行った経験のある方は分かると思うが、必ずサーモグラフィの体温計で体温を計測しないと中に入れないし、アルコール消毒液は常備されている。加えて、これは個人的にやっていることだが、ポップコーンなどの食べ物は買わない。飲み物も買わない。観たらすぐ帰る。

映画館が悪いのではなくて、観ながら何かを食べて横を向いて喋ったり、映画を観た後友人同士で会食したりするのが悪いのではないだろうか。もしそうなら、映画館も、映画も無実ではないのか。

1年間、コロナの関係で公開が伸びた『るろうに剣心 最終章』。限定版の前売券を買って、公開を心待ちにしていた人たちがどれだけいたか。ゴールデンウイークにどれだけの観客動員を見込んでいただろうか。『バイプレイヤーズ』だって、公開劇場が増え始めた『キンキーブーツ』だってそうだ。

帝国劇場で上演中だった『モーツァルト!』、東急シアターオーブで公演中だった『エリザベートTAKARAZUKA25周年コンサート』、よみうり大手町ホールで演っていた『坂元裕二朗読劇』、赤坂ACTシアターで上演中だった『イン・ザ・ハイツ』。突然の千秋楽に、役者さんだけではなく、関係者はみんな残念な思いを抱いているに違いない。だが、観客の感染リスクを減らすという苦渋の決断をしてくださったのだと思う。

正直、大きな公演であれば違約金を払ってでも公演を続けた方が、実入りはあるはずだ。それなのに中止の決断をしてくださるというのは、観客や演者をはじめとするスタッフの皆さんを守るためなのだと思う。

1年間、エンタメ界が歩んできた道

1年前の3月、4月。
さまざまな舞台公演が中止になった。いったい何枚のチケットが払い戻しになっただろう。もう覚えてすらいないけれど、行きたいと思って取ったチケットはほとんど払い戻しの対象となった。

大打撃を受けたエンタメ界は、ネット配信やライブビューイングを活用し始めた。観客を入れて幕を上げられるようになってからは、会場入りする際の個人情報事前登録、映画館では体温測定、アルコール消毒などを徹底していた。観客だけではなくスタッフも、相当神経を遣っていたと思っている。

その甲斐あって、やっと劇場に人が戻ってきていた(これはチケットが取りにくくなったという私の印象によるものなので、戻っていないかもしれない)ところだった。役者さんだけではなく、作品の制作に関わるスタッフ、劇場スタッフが一丸となって作り上げてきた、感染対策万全な映画館や劇場は、お行儀のよい観客であふれていた。

魂を込めた仕事を「不要不急」と言われようとも、試行錯誤を続け、私たちに素晴らしいものをまた届けられるところまで、やっとたどり着いたところだったのだ。

エビデンスにもとづいた判断を

コロナウイルスとの戦いは、もう少し長くなりそうだ。であるなら、短期的にはワクチンを大量に入手する、長期的には治療薬を開発するという対策が必要だ。

予算をそちらに割かなくてはならないのであれば、ある程度行動を国民各自の判断に任せるというのも、分からなくはないが、その「各自の判断」のもととなる基準は、客観的なエビデンスに求めたほうがいいのではないだろうか。もう少し細かく分析して、行動指針を示したらどうだろうか。

何もかも、人が集まるところは全部閉鎖とするのではなく、少し考えて欲しい。切に願う。でないと、長きにわたるコロナとの戦いを乗り切るのは難しいと思うのだ。

終わりに

尊敬する役者の一人である高橋一生さんが主演を務めるNODA・MAPの舞台『フェイクスピア』が5月24日から始まる予定だ。

こんな状況でも、一生さんは自分の出来ることを、淡々と、確実にやっているに違いない。来るべき日を最高の状態で迎えるために、野田さんをはじめとする皆さんと一緒に、稽古でお芝居を作り上げている最中に違いない。

どうか、どうかどんな決断をすることになっても、心折れずにいてほしい。もし一生さんの公演が今回も途中で中止になるようなことがあれば、『天保十二年のシェイクスピア』の二の舞だ。悔しくてたまらないに違いない。

私の心を震わせ、身を削りながら楽しませてくださる皆さんを心底尊敬しているし、出来るならどのような形であれ、支えになりたいと思っている。

クラウドファンディングへの参加、ライブ配信やYoutubeの視聴。私に出来ることは全部やって、新たな取り組みを応援し、たくさんのコメントといいねを残していく。

人生で家族以外の他人、しかもぼんやりした集合体に対して、これほど切実に心を痛めるのは40数年生きていて、初めてだ。誇りをもってやっている仕事を、「不要不急」と言われ続けるエンタメ界の皆さん。心をえぐられ続けているのではないだろうか。

絶対に不要不急なんてことはない。どれだけ、エンタメに励まされている人がいるか。コロナの状況だからこそ、エンタメは私たちに必要不可欠だと思う。これほど長丁場の戦いは、何かに励まされなければ、乗り切れない。

舞台の上のあの人や、スクリーンの向こうのあの人に、私はいつも励まされてきた。今度は、私が励ます番だと思っている。出来る限り応援し続けていきたい。

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